第3話 揺蕩えばまた深くに堕ちて

 ほほさすりながら、情報じょうほう共有きょうゆうする。第四だいよんシアターがひらかないこと、券売機けんばいき不審ふしんこわかたをしてしまっていること。電波でんぱ圏外けんがいになってしまっていること。ひと小生しょうせいたち以外いがいないこと。

現状げんじょう共有きょうゆうするとますます理解りかいかなくなるのは何故なぜだろうね。」ともに行動こうどうしている悠生ゆうせいくんはそうつぶやく。

「すまないが、小生しょうせいにもそれはからないね。小生しょうせい理解りかいしきれていない。だからこそ、順繰じゅんぐ順繰じゅんぐかんがえて整理せいりしながらあらたな判断材料アプローチためしてみるしかないだろうね。」

 小生しょうせいらは第一だいいちシアターまえていた。とびらのハンドルにをかけ、る。その瞬間しゅんかんあおひかり小生しょうせい二人ふたりつつんだ。どうやら、内部ないぶではなにかを上映じょうえいしている最中さいちゅうのようだ。座席ざせきほう視線しせんけると座席ざせきには誰一人だれひとりとして観客かんきゃくなかった。

「…うみ題材だいざい映画えいがですか。残念ざんねんながら、わたし守備範囲外しゅびはんいがいですね。夢井ゆめいくん魚類ぎょるい、いやなんというのがただしいのだろうね。とりあえず、化物ばけものあやかしとかの方面ほうめん知識ちしきつよいかい?」

 そう悠生ゆうせいくんほうると、悠生ゆうせいくん片眼鏡モノクルあおひかり反射はんしゃさせ、きつったみを表情ひょうじょうかべる。小生しょうせい視線しせん前方ぜんぽううつすとスクリーンには形容けいようしにくいのだが、かみくだいでいうのであれば半魚人はんぎょじん形容けいようするのが無難ぶなんだろうか。

「あまり気分きぶんらないが、なにかあるかもしれない。なかはいるしかないね。」そういながら悠生ゆうせいくんはズカズカと内部ないぶはいっていく。そして、その背中せなかうように小生しょうせいはいる。第一だいいちシアターない想像そうぞうよりもひんやりとつめたい空間くうかんであった。

悠生ゆうせいくん、まずはどこを調しらべましょうか。…悠生ゆうせいくん?」そういながら、悠生ゆうせいくんかおをのぞきむと、悠生ゆうせいくん口元くちもとおさえて気分きぶんがすぐれないという意思いしあらわしていた。そして一瞬いっしゅんおおきくひらいたかとおもうとすぐにかべりかかりくちから呻吟しんぎんとも吐瀉物としゃぶつこぼちる。その状況じょうきょう小生しょうせいくちからは、

悠生ゆうせいくん!?」とこえ無意識的むいしきてきされていた。

 ただ、そのこえ悠生ゆうせいくんきゅう吐瀉としゃおどろいたわけではない。いや、正確せいかくにはその吐瀉としゃふくめてだが、小生しょうせいこえしておどろいた要因よういんとしてげられる一番いちばんこたえ。それは、その吐瀉物としゃぶつ内容物ないようぶつにだった。それは、タコのあしのような触手しょくしゅであったり、さかなうろこのようなキラキラしたなにかであったりだった。

 それにおどろきつつも、悠生ゆうせいくんあんじた小生しょうせいはすぐに近寄ちかよる。大丈夫だいじょうぶかと、うと悠生ゆうせいくんこう口元くちもとをぬぐい、くるりと小生しょうせいほういて、

一応いちおう気分きぶんいとはえないがうごけないというほどでもない。手短てみじか探索たんさくませよう。」と、だるげにった。

その言葉ことば小生しょうせいは「無理むりのない程度ていどでね。」とかえした。


 ホールでの情報共有じょうほうきょうゆうのちおれあかり第三だいさんシアターを探索たんさくすることになった。

「ここはなにもなさそうじゃないか?」と、おれあかりう。

「そう、それじゃあなんなのかしらね。このられているような感覚かんかくは。」と、すぐにあかり返答へんとうする。

られているような感覚かんかくって、ここにはおれらしかないはずだが。」と、あかりきながら言葉ことばはっしていると、あかり異様いようにこのシアターの入口いりぐちがあるかべ凝視ぎょうししているのがいやおうでも視界しかいはいる。

「どうした。」と、いかけてみると、

「このかべほうから視線しせんかんじるのよね。カメラでもあるのかしらね。」と返答へんとうされた。

 入口いりぐちのあるかべから視線しせん、カメラでもあるのかもしれない、そこからおれひとつのこええにいた。

「もしかしてだが、それは映写室えいしゃしつからかもしれないね。」

 そのこたえにあかり納得なっとくしたのか「ああ、なるほど。」とこえこぼしていた。そして、その結論けつろんいたったおれらは2かいにある第三だいさん映写室えいしゃしつかう。

 かう道中どうちゅうに、禁止きんしかれたふだのあるチェーンで侵入しんにゅうはばまれていたが、驚異的きょういてき跳躍力ちょうやくりょく階段かいだんのちょうど中間ちゅうかんぐらいまでえた。そして、それをあかりからは、

ひさしぶりにたけれどさ、あんたの運動能力うんどうのうりょくイカれているわよね。というか、さらにみがきがかかっていないかしら?」とわれる。

「そんなことないとおもうけれどな。それに、高校こうこう体力たいりょくテストの幅跳はばとびで、ただ一度いちどだけおまえかれたの本当ほんとういまでもっているけどな。」と、冗談じょうだんじりにってみると、

「それ以外いがいはオール校内こうないだったもんね。」とかえされた。此奴こやつっていることをいいかんじにえぐりやがってぇ。

「そんなこといだろ。というか、ここで雑談ざつだんしてもどうしようもないだろ。ほら、こっちにいよ。」と、苦虫にがむしをかみつぶしたようなかおをしながらそうとすると、「ちょっとそこどきなさいよ。」とわれるので、おどまでがる。のぼってかえると、あかり一階いっかい壁際かべぎわからはしす。そして、段差だんさのギリギリの地点ちてんつよんでいきおいよくがる。きれいな放物線ほうぶつせんきながら、あかり着地ちゃくちをする。しかし、位置いちわるかったのか、あかりからだがバランスをくず後方こうほうへと重力じゅうりょくられる。そのままあかり滑落かつらくしかけたが、なんとかあかりうでつかんでることができ、落下らっか回避かいひすることができた。

「さ…、サンキュー。」と、おどろきと安堵あんど感情かんじょうじったこえあかりからされる。

「まったく、危険きけん真似まねはするなよ、っておれがやった手前てまえつよくはえないけどさ。」と、注意ちゅういしつつも自身じしん行動こうどう反省はんせいする。そして、階段かいだんおどからは一歩いっぽずつゆっくりと着実ちゃくじつみしめてがってった。

 多少たしょうのハプニングのようなものはこってしまったが、なんなく第三だいさん映写室えいしゃしつにたどりくことができた。

「ここが、あのシアターの映写室えいしゃしつよね?」と、あかりたずねてくるので、

「ああ、そのはずだ。多分たぶんだれかがなかるとおもう。」と返答へんとうする。

 それから一拍いっぱくき、映写室えいしゃしつのハンドルにをかける。あかり目線めせんけるという合図あいずおくり、いきおいよくハンドルをく。

 しかし、とびらにはかぎがかかっているようで、ガシャンというような金属音きんぞくおんらすだけでなにきなかった。

「だめだな。かぎまってるみたいだ。かぎは…、スタッフルームにだったらあるかもな。」と、あかりうと、

「だったら、海斗かいとってきてくれないかしら?」とすので、

「むやみにはなれるのは危険きけんだとおもうんだが、どうしてだ?」といてみる。

「ここ、第一だいいちから第四だいよん映写室えいしゃしつまであるんだから、わたしひらくかどうかだったりなかなにかあるかさがしてみているあいだかぎってきてもらうのが時間じかん有効活用ゆうこうかつようとしては一番いちばんいいとおもうのだけれど。どうかしら?」

 たしかに、あかりうことにも一理いちりある。はやくここからせるにしたことはないが、一人ひとりにするのはやはりとすこなやんだが、

なにかあったら大声おおごえさけべよ。それと、げれるのなら階段かいだんからりてでもげろよ。」とっておれは、かぎ回収かいしゅうするために一階いっかいへと階段かいだんりてった。


探索たんさくした成果せいかは…、何一なにひとつもないな。」と、落胆らくたんしたような声色こわいろ悠生ゆうせいくんう。

「ま、まあそんなこともあります。つぎ映写室えいしゃしつにでも移動いどうして、そこでもなにもなかったらそのときかんがえてみましょう?」と、最低限さいていげんのフォローをれるがあまり意味いみはなかったみたいだ。しかし、このまま放置ほうちするのも不味まずいので、悠生ゆうせいくんきずって第二だいにシアターへと移動いどうする。脱力感だつりょくかんむしばまれていたからか、そこまで移動いどうするときの手間てまかった。

「ほら、いたりしてグロッキー状態じょうたいなのはかりますが、せめてここからるまでは頑張がんばってください。ここからたらいくらでも珈琲コーヒーおごってあげますから。」と悠生ゆうせいくんうと、ピクリとその言葉ことば反応はんのうした。そして、かれからだちからはいってきたからか、きゅう重量じゅうりょうおもくなったかんじがした。まあ、のせいだろうが。

「ここからたら珈琲コーヒー美味おいしいみせれてってあげますよ。勿論もちろん小生しょうせいおごりです。」とうと、またピクリと反応はんのうする。あと、もう一息ひといきといったところだろうか。ならば、

「あと、そのおみせのケーキがとても珈琲コーヒーうんですが、やるがないならおれしてげませんよ?」とダメしのひとしをすると、むくりと悠生ゆうせいくんがりんだ小生しょうせいけて、「約束やくそくだからな。」とった。それに、

「もちろん、小生しょうせいうそきませんから。」と返答へんとうすると、嘲笑ちょうしょうでなぜか悠生ゆうせいくんあおられる。なんというか、とても不服ふふくだ。

 そうおもいつつ、悠生ゆうせいくんのことをていると、いつのにか悠生ゆうせいくんとびらのハンドルにをかけていた。

「ほら、きますよ。」といながら悠生ゆうせいくんとびらいてひらく。はなたれたそのとびらおくには、一面いちめんすべてがしろ白銀はくぎん世界せかいひろがっていた。

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