第2話 悠久を紡げば果てこそは無し

 ガラスしのけて、四人よにん男女だんじょ映画館えいがかんはいる。空調くうちょういているからか、

「めっちゃすずしいぃ!」と、海斗かいとくんさけぶほどにはオアシスのような空間くうかんだった。いや、それはさすがにいすぎだろうか。

「あんた五月蠅うるさいわよ。ただでさえかお五月蠅うるさいんだからこえぐらい自重じちょうしなさいよ。」と、あかりさんが注意ちゅういをする。

 それほどおおきかったのかと、かれこえがいかにおおきいのかをあらためてった。如何いかんせん、小生しょうせいまわりにはこえのボリュームを調整ちょうせいをするのが苦手にがて人間ひとおおく、それにれてしまっていたのが現状げんじょうだったのかといまのうちに気付きづけたのがこう不幸ふこうかだろうか。

 そして、注意ちゅういをされた海斗かいとくんはシュンとまるで子犬こいぬのようであった。まあ、可愛かわいいとはお世辞せじにもえるわけはないのだが。

「コントをやっているんじゃないんですから。それに、出入口でいりぐちでたむろっているとほかのおきゃくにも迷惑めいわくですからさっさと入場券チケットいにきますよ。」と、悠生ゆうせいくん先陣せんじんって券売機けんばいきほうく。それにいていかれないように小生しょうせいいそいでかれとなりまでる。

「そうえば、悠生ゆうせいくん学校がっこう一体いったいどの教科きょうかおしえているんだい?」と、一瞬いっしゅんかんだいを不意ふいげかけてみる。

いま国語こくごおしえているが、それがどうかしたか?」

 一拍いっぱくいてはなす。

「…いや、おまえ勉強べんきょうおしえてんのかっておもったら、現代社会げんだいしゃかいってわってるなって。」

「それをうのにはもう数十年すうじゅうねんほどおそいというものだよ。すで腐敗ふはいしまくっている社会しゃかいなにもとめているんだい、夢井ゆめいくん。」

 悠生ゆうせいくん表情ひょうじょうには幾筋いくすじもの血管けっかんているようにおもえるほどのいかりという感情かんじょうかべていた。多分たぶんだが、この発言はつげん地雷じらいであったのだとおもわれるためこれ以上いじょう追及ついきゅうはやめておくことにした。

入場券チケット悠生ゆうせいくんぶん小生しょうせいはらいますよ。仕事しごとほう大変たいへんでしょう。旅行りょこうにでもそのぶんのおかねまわしてください。」と、いま小生しょうせいができる最低限さいてんげん贖罪しょくざいもうげると、悠生ゆうせいくんは「それじゃあおごってもらおうかな。」と、ったので財布さいふくちひら二人分ふたりぶん入場券チケット購入こうにゅうした。うらから「わたしぶんいなさいよ!」というこえこえたがしたが無視むしをすることにした。


 それから4,5ふんほどがっただろうか、時計とけいはり映画えいが上映時間じょうえいじかん開始かいし2分前ふんまえす。小生しょうせいたちはポップコーンやソフトドリンクを購入こうにゅうし、入場券チケットしるされたせきすわる。どうやら小生しょうせいたち以外いがいきゃくないようだ。それほど人気にんきがない作品さくひんなのだろうか、それともただ単純たんじゅん面白おもしろくないだけか?などと思案しあんふけながらポップコーンをまんでいると、徐々じょじょ照明しょうめいくらくなる。いつになってもこの上映じょうえいはじまる瞬間しゅんかん高揚感こうようかんたのしめるこころ本当ほんとうかったとおもいにふける。

 カラカラとふる映写機えいしゃきまわるようなおと第三だいさんシアターないひびわたる。しろひかりがスクリーンにうつされ、映像えいぞううつはじめる。

『どうしろって、どうしろっていうのよ…。』

 一人ひとり女性じょせい弱弱よわよわしいこえながれる。なにかに懺悔ざんげをしているようだ。もうすこみみてておこう。内容ないよう面白おもしろくなかったらわるまでてしまおうか。そうかんがえながら肘掛ひじかけにひじをつき、映画えいがていた。


 それから何十分なんじゅっぷんったのだろうか。じていたまぶたひらく。どうやら余程よほどつまらなかったそうで映画えいがわるまでねむってしまっていたようで照明しょうめいすでいていた。

 周囲しゅういてみると、小生しょうせい以外いがいみなねむりこけていた。それぞれのかたらしこす。みな欠伸あくびしたりなどしており、しっかりとねむってしまっていたようだ。

 従業員スタッフ邪魔じゃまにならないように、それぞれが購入こうにゅうした飲食物いんしょくぶつのゴミをちシアターからる。とびらからてすぐのみち不気味ぶきみなほど閑散かんさんとしていた。近場ちかばにあるゴミばこにゴミをててそとようとメインホールに移動いどうする。するとそこには、誰一人だれひとりとして人間ひとなかった。

「…これは、一体いったいどういう冗談じょうだんかな?」と、海斗かいとくん静寂せいじゃく一番いちばん最初さいしょいた。

「そんなの、小生しょうせいが知りたいですよ、海斗かいとくん。」

「…そ、そうですよ。ほかきゃく全員ぜんいん映画えいがているのでしょうし、従業員スタッフかたたちはバックヤードなどで作業さぎょうしているのでしょう。」と、悠生ゆうせいくんう。

 だが、だれないなんてことそうそうることなのか、という疑問ぎもんちながらも、べつ深入ふかいりする必要ひつようもないためそとようとガラスす。しかし、はビクともせず不動ふどうつらぬいている。

「ちょっと、はやなさいよ。」とうしろからあかりさんにかされる。

かない。ドアがひらきません。」

「は?そんなわけないでしょ。そこどきなさい。」そうって小生しょうせいしのけてドアのハンドルをにぎり、つよる。おおよそ、他人ひとせられないほどひどかおになってしまっているだろうと予想よそうするのは想像そうぞうにたやすいだろう。

 十秒じゅうびょうぐらいその膠着こうちゃく状態じょうたいつづき、あかりさんのほうさきげた。

「これは無理むりね、限界げんかい。」と、ゆかよこになっているあかりさんがう。

「ゴリラであるあかりさんがそうかんじでしたら、わたし無理むりですね。」

 そう冗談じょうだんじりに悠生ゆうせいくんうと、あかりさんから『あ』に濁点だくてんいたようなおと発声はっせいされる。小生しょうせい悠生ゆうせいくんはこのこえこえるやいないそいでホールのおくへとはしす。それをうようにあかりさんがはしす。絶対ぜったいつかまったらヤバい。ころされるぐらいひどわされる。そんなおもいで全力ぜんりょくはしった。

 やがてめられた小生しょうせい悠生ゆうせいくんは、最後さいご希望きぼうとして通路つうろはじにある四番よんばんシアターのとびらのハンドルをすこつよめにいてみる。しかし、そのとびらもびくともせず、ポンッとかたあかりさんのかれた。

 その小生しょうせい悠生ゆうせいくんがこっぴどくおこられてしまったのはうまでもないだろう。


「…おれはいったいどうすれば。」そうつぶやく。

 一人ひとりのこされてしまったおれは、えず現状げんじょう情報じょうほう収集しゅうしゅうのために携帯電話スマートフォンでインターネットに接続せつぞくしようとする。しかし、右上みぎうえうつされるのは『圏外けんがい』という二文字ふたもじだった。

 都内とないでこのような状況じょうきょうおちいるにはどうも奇妙きみょうすぎる。それこそ、この映画館えいがかん自体じたい異世界いせかいまれてしまったとわれればしんじられそうなものだが。

 いや、この現状げんじょうおちいってしまったおれはそうしんじるしかないか。と、こころなかでそんなクサいセリフをこぼしてみたりもした。

 パシンと両手りょうてほほたたき、なに脱出だっしゅつ手立てだてがないかさがはじめようかとしたおれにあるものはいった。そのあるものというのは券売機けんばいきだ。ちゃんと作動さどうするのならば警備けいびシステムが作動さどうしてどうにかできるだろう。そういうかんがえにいたったおれ券売機けんばいきもとへとった。

 券売機けんばいき画面がめんはスリープ状態じょうたいのように漆黒しっこくひかりうしなっている。たのみのつなであった券売機けんばいきだが、画面がめん指先ゆびさきれさせ、スリープ状態じょうたい解除かいじょしようとしても画面がめんひかりもどることはなかった。ふと、券売機けんばいき側面そくめん確認かくにんしてみるとめられている鉄板てっぱん螺子ねじゆるんでいるのをつける。ポケットの中にれておいたハンカチをうえからかぶせ、ゆっくり着実ちゃくじつまわして螺子ねじ一本いっぽん、また一本いっぽんる。そして、められていた鉄板てっぱんはずして携帯電話スマートフォンのライト機能きのうもちいて内部ないぶ確認かくにんしてみると、コードるいおおむなかぐらいの位置いち千切ちぎられていた。

 その状況じょうきょうおれも「これはひどい。」そうこえてしまうほどの惨状さんじょうであった。ただ、冷静れいせいひとひとつコードをてみるとかることがいくつかあった。このコードの千切ちぎられかたはネズミけい千切ちぎったタイプであるということだ。ただ、だとしたらどうしてすこまえ使つかえたのかという疑問ぎもんかぶ。それに、そう場合ばあいはネズミの感電死かんでんしした死骸しがい一般的いっぱんてきにはのこるはずだがそれもない。とても奇妙きみょう状態じょうたいだ。

 そう思案しあんふけっているとうしろからあかりこえけられる。

なにやってんのよ海斗かいと。」

「いやぁ、ここから脱出だっしゅつするためになにがかりがないかさがしてみているんだが…うしろの二人ふたりは、なるほどれないでおいたほうがいいな。」織内おりうちうしろに二人ふたりほほにはあかれた手形てがたいていた。

多分たぶんだが、ここはヤバい。はやくここから脱出だっしゅつしたほうがいい。」その理由りゆう端的たんてき全員ぜんいん共有きょうゆうする。すると、怪訝けげんかおをされるがみんなも状況じょうきょうめたようで全員ぜんいんでここから脱出だっしゅつするためにちからわせることにした。一刻いっこくはやくここからないとなにがあるかわかったものじゃない。というかんがえは全員ぜんいんなか共通認識きょうつうにんしきとなっただろう。

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