終わりなき理想郷

雀黒弾馬

第一幕 記憶の固執・病の固執

第一章 イントロダクション

第1話 夢幻、それは終わりなき物語の始発点

 かれった、これはゆめであると。かれった、これは存在そんざいであると。かれった、これは虚構きょこうであると。かれった、これは真理しんりであると。かれった、これは特異点とくいてんであると。かれった、これは終末しゅうまつであると。


 かれった。これは『  』であると。


 燦燦さんさん天道てんどうとおる。東京とうきょうまちけ、まち闊歩かっぽするおおくの人間にんげん鬱陶うっとうしくかんじながらもなみとなりすずしいかぜもとめている。なんわりない真夏まなつひとコマ。

 休暇きゅうか満喫まんきつしている小生しょうせいにしてみれば、そんなことは些細ささい事柄ごとがらぎない。このなつ風物詩ふうぶつしぎゃくたのしんですらいる。

 それは何故なぜかとかれれば、小生しょうせいひとたしかなこたえをかえすことができるだろう。

 何故なぜならば、小生しょうせい友人ゆうじん予定よてい刻限こくげんぎてなおわせをしている地点ちてんへと到着とうちゃくしていないからである。

 今日きょうから数日間すうじつかん友人ゆうじんたちとたびくために日程にっていわせ、わざわざ編集長へんしゅうちょうたのんで二週間分しゅうかんぶんいとまもらったというのに。

 そのような言葉は愚痴ぐちのように聞こえるかもしれないが、小生しょうせいけっしてそうはおもってなぞいない。これでも友人ゆうじんこと大事だいじおもっている。他者たしゃからしてみれば理解りかいされにくいのだがな。

 小生しょうせいてのひらおさまっている携帯端末スマートフォンにて現在げんざい時間じかん確認かくにんしていると、背後はいごから小生しょうせいこえこえた。

そら、こんなところにたのか。おまえのことだから、執筆しっぴつにうつつをかして予定よていわすれていたのかとおもっていたよ。」

小生しょうせいたしかにわすごとおおほうですが、友人ゆうじんとの予定よていをすっぽかすことはそうそうありませんよ。」

 小生しょうせいはなしかけてきたこのものは、数少かずすくない友人ゆうじん小島こじま海斗かいとくんだ。

「それにしても、そんな恰好かっこうをしてあつくないのか?」

 足先あしさきからあたま頂点ちょうてんまでをめまわすようにられる。小生しょうせい風貌ふうぼうなにになるてんでもあったのかとうてみると、

になるてんというか、他人ひとのファッションセンスにとやかくはいたくないんだがな。すくなくともこの真夏まなつで、着物きもの姿すがたむぎわらの中折なかおぼうをしているのはまだいい。いや、もうちょっと現代げんだいっぽい格好かっこうだとおもっていたんだが、それもいておいて。そのうえから外套がいとう羽織はおるのはどうかとおもうぞ。絶対ぜったいあついだろ。」

「そんなことはないよ、海斗かいとくん。これはね、独自どくじのルートでれた外套がいとうでね、公安こうあん特殊部隊とくしゅぶたい配備はいびされている特殊素材とくしゅそざいつくられた防護服ぼうごふく一部いちぶなのさ。」

 そう小馬鹿こばかにするように海斗かいとくんたいして熱烈ねつれつかたってあげた。

「それに、海斗かいとくん小生しょうせいたいしてとやかくえる服装ふくそうではないとおもいますが、その自覚じかくはおありでしょうか。」

 海斗かいとくん服装ふくそう街行まちゆ群衆ぐんしゅういかけてみればおよそ八割はちわり以上いじょうひとなつ登山とざんおこなもの服装ふくそうであるとくちをそろえてうであろう格好かっこうである。

多少たしょうあつかんじるぐらいだが。って、おれらはべつ会話かいわするためにあつまったわけじゃなくて旅行りょこうのためにあつまってるんだよな。」

小生しょうせいいていたことが間違まちがっていなければそのとおりですが、そういえばほか三人さんにん姿すがたがまだ見当みあたりませんね。」

 二人ふたりそろってくびをかしげる。海斗かいとくんはポケットから携帯電話スマートフォンしてトークようアプリケーションの通知つうち確認かくにんして、小生しょうせいほう画面がめんす。そこには、あかりさんから『悠生ゆうせいくんとも映画館えいがかん映画えいがてからく。』とかれており、それに補足ほそくするように悠生ゆうせいくんが『木下きのしたくるまりるのに時間じかんがかかっているからひまつぶすといいよ。』といていた。

木下きのしたたちにかせたの、間違まちがいだったかなぁ。」

「いや、仕方しかたないことだよ。なんせ、かれしかくるま免許めんきょっていないからね。小生しょうせい大型二輪おおがたにりん免許めんきょしかっていないからね。なんせ、それで仕事しごと十分じゅうぶんだったから。」

トークアプリをじながら海斗かいとくんはためいきく。

「あいつらがいまってる映画館えいがかんって多分たぶんだけど、高校こうこうときってたやつだよな。」

「その可能性かのうせいたかそうだね。レンタカーのみせから一番いちばんちかいのもそれしかないからね。」

ちいさくうなず返答へんとうしてやると、海斗かいとくん地図ちずアプリをげた。

おれらもそこにくか。そらなにたい映画えいがでもあるか?」

そう映画館えいがかん方角ほうがくへとあゆしたさいわれたため、小生しょうせいすこなやみながらもそれにこたえる。

「そうですな、『タイタニック』とかどうでしょうかな?」

そうこたえると、海斗かいとくんげてくるようなわらいにえるようにしながらあるく。そして、そのわらいがひとしきりしずまったあと

「『タイタニック』は映画館えいがかんじゃあもうやってないだろうね。それに、そう思ったのって先月せんげつきた豪華客船ごうかきゃくせんなぞ事故じこのせいじゃないのかい?」と、小生しょうせい言葉ことばげかけた。

「ネクナースごう沈没ちんぼつ事件じけんのことですか。たしかにになることはおおいですが、特段とくだん興味きょうみをそそられるようなものはいですかね。小生しょうせいべつ神秘学オカルティズムかたよった噂話ゴシップこのんでいるわけでもありませんし。」

そう小生しょうせい返答へんとうくと、海斗かいとくんは「フフッ」とわらう。

なにっかかるところでもありましたか?」

「いやぁ、っかかるもなにもさ、おまえ記事きじっていつもオカルト方面ほうめんだろ。」

失敬しっけいな。小生しょうせい記事きじはそんな低俗ていぞく夢物語ゆめものがたりとはちがいます。小生しょうせいのはですね…。」

そう小生しょうせいはなしだそうとすると海斗かいとくん目的地もくてきち方向ほうこうかってきゅうはしす。

はなしはまだわっていませんよ、海斗かいとくん!」

そういながら小生しょうせいはしす。


 学生時代がくせいじだいから小生しょうせいよりも海斗かいとくんほうあしはやく、いまかれほう運動うんどうをしているからいつけないのは仕方しかたのないことではあることはわかる。しかし、それ以上いじょう人込ひとごみがはげしくはしりにくい。ただ、徐々じょじょ人込ひとごみがうすくなり、なんとか背中せなかとらえた。こえをかけようとしぼす。

海斗かいとぉ、まれぇ…。も、もう…、げんかい…。」

バタンと映画館えいがかんまえ地面じめんひざからたおれこむ。かたはらなくかえ呼吸こきゅうする。そんな小生しょうせいこえがかけられる。

地面じめんると風邪かぜをひきますよ、夢井ゆめいくん。」

おぼえのあるそのこえたいして、かおだけをこえのする方向ほうこうへとける。

「そのこえは、悠生ゆうせいくんかい。」

「おや、きていたのか。てっきりているものかと。」

そういながら、悠生ゆうせいくんつかった小生しょうせい腹部ふくぶかるはじめた。

るなるな。たおものにはすくいのではなく慈悲じひなきりをれろと高校こうこうおしえているのかい。」

そういかけると、「そんなわけないだろ。」ときっぱりとわれる。

「ほら、えずてよ。まわりのいたいからさ。」

そうって、悠生ゆうせいくんべる。そのつか小生しょうせいがる。そして、かる衣服いふくについたつちぼこりをはらう。

「あー、つかれた。」

そうつぶやくと、「ハハッ」とわらわれる。

「そりゃあんた、あんなひとごみのなかはしりにくい服装ふくそうはしっていたらそうなるでしょ。マジウケるわ。」

五月蠅うるさいですよ、あかりさん。」

あかりさんのサングラスをって自分じぶんかおにかけると、あかりさんは携帯電話スマートフォンさわめて小生しょうせいほう見上みあげる。

「どうかなさいましたか、小生しょうせいかおなにいていますかね?」と視線しせんうえほううつし、わざとらしいかたいながらペチペチとほほかるたたいたりさすったりしてみる。

「え、ちょ、ちょっと。あんたかえしなさいよ。」そういながらあかりさんは、小生しょうせいがかけたサングラスをかえした。

「まったく、人前ひとまえでこんなこと。馬鹿ばからしいですよ。」

片眼鏡モノクルをかけなおしながら悠生ゆうせいくんはそうった。

 それに同調どうちょうするように海斗かいとくんうなずき、

「そうだよ、ガキみたいなことしてんじゃねーよ。」とわらいながらうと悠生ゆうせいくんから「あなたもでしょう、小島こじまさん。」とまれる。

海斗かいとくんはポリポリと後頭部こうとうぶき、かるわらう。

「もー、そううのいから映画えいがよーよ!」とあかりさんがこの空気くうきをバッサリとるようにそういだした。

「そういや、なん映画えいが予定よていだったんだよ、おまえら。」と、小生しょうせいおもっていたことを海斗かいとくんさきす。

 すると、あかりさんが、 

「ふっふっふ。それはね、オカルト界隈かいわいでは有名ゆうめい尾田おだ透朗とうろう先生せんせい最新作さいしんさくである、『だれかがている』をようとおもった次第しだいなのです!」と、急激きゅうげきなハイテンションではなしたため、悠生ゆうせいくんたすぶねもらおうと視線しせんおくると、

「…織内おりうちさんは、ひまつぶしのために面白おもしろそうな映画えいががないか調しらべたところ、かれてきたのでてみたいとしたので木下きのしたくんいていった次第しだいです。」

小生しょうせい海斗かいとくんくちわせて『なるほど。』とこえはっした。

 それにたいしてムッとしたあかりさんは、

理由りゆうなんてどうでもいでしょ!」とい、いの一番いちばん映画館えいがかんなかへとはいってく。それにいていくように小生しょうせいたちもなかへとはいってった。


その行為こうい小生しょうせいは、間違まちがいであったと後悔こうかいすることになるだろう。

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