第7話 Seto

 次のゲーム。序盤中盤は問題なく潜り抜けた。


 このゲームは時間経過とともにプレイ可能なエリア、所謂”安全地帯”が狭まってゆく。この安地外にいると、スリップダメージが一定間隔で入っていくため、プレイヤーは安地内へと移動を余儀なくされ、次第に狭い範囲の中に集結していくというわけだ。


 序盤は安地外にいても回復アイテムの使用で全然追いつくけど、最終盤ともなると4秒で体力が全損するほどになる。


 安地の収縮はランダムとはいえ寄り方に傾向があるので、俺は序盤の収縮を見た時点である程度終盤がどの位置になるかを割り出せるように研究していた。


 安地読みにはかなり自信があるので、局面ごとに有利なポジションをキープして立ち回るのが俺のセオリー的なムーブになっている。


 今も岩などの遮蔽の多い丘上をキープできていて、キープできればTriumphが狙えるポジションだ。ただ、俺たち3人は一様に嫌な予感を覚えていた。


「またあいついるね」

「暴れすぎやろ。キルログえぐいことになってんで」

「ですね…」


 中盤の安地収縮に伴う戦闘で、俺たちの反対側で漁夫に次ぐ漁夫の大戦闘が勃発していた。5チームほどが壊滅した戦いで、見た限りキルとアシストを10近く積み上げていたのは、さっき2回連続で最後にやり合ったチームのプレイヤーだった。


 残るは4部隊。すでにアヌビスのスキルで眷属を走らせて敵の位置は把握済みだ。俺たちは安地を時計の円に見立てて4~8時くらいのエリアを制圧してる。


 中央寄りに遮蔽となる大岩もあるし、ヘイトを買わずに進めていけばおおのずと2位までは確約されてるようなもんだ。


 安地がさらに収縮を始めた。安地外から逃れるべく、それぞれの舞台が動き出す。


「右側にグレ投げて奥側にぶつけます」

「りょうかい」

「まかせぇ!」


 俺のコールでGaiaさんとKoNさんが一斉に 爆弾を投擲した。あそこのチームは1人欠けているしセイメイがいないので爆弾を防ぐ手立てがない。


 爆弾のダメージから逃れようとするには俺たちと反対側に詰めざるを得ず、展開は俺の予想通りに進んだ。


 さらに、俺たちから見て左に位置していたチームも戦闘が起きたのを見て動き出した。俺たちとやり合うのはポジション的に不利と判断して2位を確保しに行ったってとこか。


「頃合い見て詰めます」

「「了解」」


 俺の指示に年上2人が威勢よく応じる。やがて、欠けていた右のチームがまず壊滅し、漁夫にいったはずの左のチームも壊滅した。たった一人のプレイヤーによって。


 キルログに踊ったプレイヤーネームに戦慄を覚えながらも、俺たちの有利は変わらない。


「詰めます。相手は1人欠けてる。回復する前に潰して終わりです」

「OK」

「これで3連勝や」


 俺たちは丘から降りて一気に距離を詰める。セイメイのODである”式神瀑符”も使って爆撃の雨を降らせた。岩を挟んでいるけど身に纏うバリアが剥がれる音が聞こえた。


 俺は接敵したマーリンをショットガンでのインファイトで沈める。これで後はあいつだけだ。


 見回すがSetoってプレイヤーの姿はない。どこにハイドしたのかと周囲を見回したとき、GaiaさんとKoNさんの背後に飛び降りたゴクウが見えた。


「後ろ!」


 俺の声に2人がすぐさま反応する。ゴクウのパッシブスキルで他の英霊だと登れないような高さの岩や木に登ることができる。


 恐らく奴は爆撃の中で大岩によじ登って体力を岩上で回復して降りてきたんだ。3on1と圧倒的に有利な状況は変わらないはずなのに、俺の胸の中は嫌な予感で覆いつくされていた。


 2人が振り向くまでにすでに銃撃を開始したSetoは、まるで吸い付いているかのようなエイムでSMGサブマシンガンを連射する。しかもそれはストレイフを駆使しながらだ。


 公認のバグ技ともいえるキーマウ勢の専売特許ともいえるキャラコン。それがストレイフだ。ジャンプ中のキー入力で軌道がねじ曲がる。


 物理法則を無視したようなジャンプ軌道になるので、近距離戦でこれが出来る出来ないで被弾率が全く変わってくるんだ。


 Gaiaさんの反撃を一発も貰わずにまたも1マガでダウンを取り、そのままKoNさんに標的を変える。


「舐めんなぁ!」


 3回もやられてなるものかと気を吐くけど、気合だけでどうにもならないほど隔絶した差があった。俺も加わってようやくバリアを剥がすことが出来たけど、KoNさんが立てていたのはそこまでだった。


 気づけば残っているのは俺とSetoだけ。何でだ。どうしてこんなことに。


 盤面は圧倒的に有利だった。勝たなきゃおかしい。俺のオーダーは間違っていないと確信を持てる。なのに、こいつたった一人にぐちゃぐちゃにされている。


 遠目に見てて分かった。こいつに碌なゲームプランがないことは。目の前の敵をひたすら轢き殺すだけ。全員倒せば勝ちだろとても言いたいのか? ふざけんな!


 こいつは、こいつだけは倒さないと気が済まない。俺のIGLとしての存在意義をぶち壊すような奴は、叩き潰さなきゃならない。ストレイフはお前の専売特許じゃねぇんだよ!


 お互いに様々なストレイフを駆使しながらのインファイト。ただ、初めて間近にその動きを目の当たりにして、俺はディスプレイの前で目を見開いた。


(エグすぎる…)


 まるで背中に翼が生えているかのように空中で動きが捻じ曲がる。PCの感度設定が低ければ一瞬で画面から消えたように錯覚することだろう。その中でもエイムはブレることなく俺の体を捉えている。


 俺のフィジカルだってパンデモ帯で十分通用する、というか上位に位置すると自負している。ただ、わずかなやり取りで理解した。こいつのフィジカルは更にその上にいる。


 ショットガンで削り、あと一発でもかすれば俺の勝ちだ。あと一発。


 銃口が不規則にブレる体を捉え、もらったと思った次の瞬間。


 スローモーションの世界の中で、放たれた弾丸が俺の眉間にゆっくりと吸い込まれ、肉体が弾けとんだ。

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Triumph Bullet:零【トライアンフ バレット:ゼロ−栄光の弾丸−】~出会いと始まり~  葉月幸村 @2136masa

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