084 同行



 ――ゴゴゴゴッ。

 突然、遠くの方から重く鈍い音が響いた。


「……とうとう始まったか」


 アセナが音の方角を見ながら呟いた。

 晴れた空に土埃が、ゆっくりと舞い上がっていくのが見える。

 虚無の燭台が発動して、建物が崩壊を始めたのだ。


 予定の時刻よりも、まだ少しだけ早い。

 先走った者がいたのか、それともアクシデントで起動してしまったか。

 どちらにせよ、あと数分もすれば王国内のすべての虚無の燭台が発動する。


「急ぎましょう。アセナさん」

「せやな」


 トウヤの呼びかけに頷くアセナ。


「俺たちは王城に行くけどナルメアはどうする? 一緒にくるか?」


「私? うーん、そうだなー。ここで単独行動をするって言ったら、なんだか誤解されそうだし。

 それに私のいないところで、ライバルが誰かにやられるのも嫌だし。

 一緒に行こうかなー? どうしようかなー?」


 ナルメアはチラリとリノンとフランメリーの様子を盗み見た。

 リノンは普通だが、フランメリーはあからさまな嫌悪感を放っている。


「……あー、やっぱ、やめとうこうかな? 嫌われちゃってるみたいだしさ」


 ナルメアは少し寂しそうに肩を落とす。

 フランメリーに嫌われることは構わないが、リノンに嫌われることを恐れている様子だ。

 そして同時に、友達であるリノンが死ぬことも恐れている。だからトウヤたちに接触をしてきた。

 ナルメアとしては一緒に行動を共にしてリノンを守り、好感度をあげたいと思っているはず。

 トウヤとしてもナルメアがリノンを守ってくれるのは都合が良い。


「嫌われることをすれば嫌われる。

 もし好かれたいなら、好かれることをすれば良いんじゃないか?」


 トウヤはナルメアが同行してくれるように、やんわりと誘導する。


「……でも」


ふたり・・・に嫌われたままで良いのか?」


 トウヤは、あえてフランメリーとリノンをひとくくりにする。

 そうするこでナルメアの恐怖感をあおり、退路を封じる作戦だ。


「うっ……。それは……」


 息を飲んで固まるナルメア。

 トウヤは最後の一押しをする。


「ナルメア一緒に来てくれ。そして、今度はふたりを守って欲しい」


 ナルメアの内心をトウヤがお願いという形に変換して代弁した。


「……そこまで言うなら、一緒に付いていってあげようかな?」


 しぶしぶといった演技をするナルメアだが、笑顔は隠しきれていない。

 自分からではなくお願いされた形になれば、ナルメアも承諾しやすい。

 思惑通りにいってトウヤは笑顔を浮かべた。


「ありがとうナルメア。一緒に王国を守ろう」

「もう、仕方ないなー」


 同行することが決まってナルメアは嬉しそうに笑う。トウヤに誘導されたとは気づかずに……。

 そんなトウヤの横顔をアセナがじーっと見つめていた。


「……なにか?」


 トウヤは平然を装いつつアセナに視線を向けた。


「なんでもありせん。だた女の子の扱いが、とてもお上手やと思ってな」


 アセナはどこか含みのある言い方をする。


「家族に女性が多いので、慣れているだけですよ」

「なるほどなるほど。ほどほどにせんと、あとで痛い目を見るで? 気ぃつけや」

「……はあ、気を付けます」


 トウヤは気の抜けた返事をする。正直、アセナが何を言いたいのか分かっていなかった。

 一方、ナルメアは笑顔を浮かべながらフランメリーたちに近づいた。


「グリフォンくん、この前はごめんね」


 フランメリーは羽を大きく広げてナルメアを威嚇する。


「『くん』じゃなくて『ちゃん』。フランメリーは女の子です」


 リノンがフランメリーをなだめながら、ナルメアの言葉を修正した。


「あ、そうなんだ。フランメリー『ちゃん』ね。りょうかーいっ。

 ……でさぁ、今回は仲間なんだから、そう怒らないでよ、ね?」


 ナルメアの言葉を受けて、フランメリーはしぶしぶと広げていた羽を閉じた。

 フランメリーが怒りを収めてくれて、ナルメアは安堵する。


「ありがとうフランメリーちゃん。

 リノンちゃんもよろしくね。私はナルメア。ふたりのことは私が守るから安心して」


「ありがとうございますナルメアさん。……あの一つ訊いてもいいですか?」


 遠慮がちにリノンは口を開いた。


「ん、なに?」


「どうして私の名前・・・・を知ってるんですか?」


「――――っ!?」


 リノンの何気ない質問にナルメアの笑顔が固まった。

 ナルメアが現れてから誰も「リノン」の名前を呼んでいない。にも関わずナルメアは知っていた。

 リノンからすれば不思議だと思って当然だ。


「以前会ったときに、俺が口にしたのを聞いていたんじゃないか?

 そんなことよりも早く王城に向かうぞ」


 トウヤは適当な嘘でナルメアをフォローした。


「…………」


 ナルメアが不思議そうにトウヤを見つめるが、トウヤはそれを無視してアセナと一緒に移動を始める。

 リノンはグリフォンの背に乗って空中へ飛び上がった。


「……なんで?」


 一人残されたナルメアはぽつりと口にした。

 なぜトウヤが自分をかばったのか理解できない。

 理由を考えている間にもトウヤたちの背中がどんどんと遠ざかっていく。


「もうっ、なんなのよっ!」


 ナルメアは考えることをやめて走り出した。


 移動している間にも次々と虚無の燭台が各地で発動していく。

 建物が崩壊して土埃があちらこちらで舞い上がっている。

 しかし、王城へ近づくにつれて発動していないエリアの数が増していた。

 それはひとえに王城周辺の方が他よりも優先的に虚無の燭台の捜索に人手をさいているからだろう。

 途中ですれ違った王国兵士がコンパスのような装置を手にしながら虚無の燭台を探しているのを見かけた。

 おそらくは虚無の燭台をサーチする魔法道具だろうとトウヤたちは推測した。


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【XRMMO】ヴァルキュリー・アルカディア・ミラージュ【現実世界に重なり合う99の仮想世界】 やなぎもち @yanagimothi

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