第5話 笑いながら乾杯
『あははは!我慢できないっ!苦しー!』
震えていたのは笑いを堪えていた為だったようだ。夏菜は我慢していた分を全て放出するように笑い転げる。
その姿を見て、予想外だったのか冬樹と秋はポカンとした表情で見守る。
『ナツ…大丈夫?』
過呼吸寸前の夏菜を心配する秋。
『う、うん。大丈夫っ。でも笑いすぎてお腹痛い』
まだ笑いの余韻を残しながら夏菜は身体を起こす。
『それなら良かった…。でもこうなったのも全部フユのせいだからな!』
『えっ?オレのせい?オレ何もしてなくない!?』
秋に睨まれ、身を縮める冬樹。そんな2人を見ながら夏菜は幼い頃を懐かしむ。
『懐かしいね…。昔からフユくんは私にイジワルしてアキちゃんに怒られてたね』
『だったね。フユは私に勝てないからってナツをイジメてたね』
冬樹は恥ずかしくなって顔を伏せる。そして小さな声で呟く。
『だって…その時から好きだったワケだし…』
それを聞いて秋は冬樹の腹をパンチする。
『なんだよ!このリア充め!私にも幸せを分けやがれ!』
何度もパンチを浴びるが痛みは全くない。むしろくすぐったい位だ。
『や、やめろよアキくん。アキくんも一応女の子なんだからさ』
心にもくすぐったさを感じながら冬樹は抵抗する。
『へーっ!じゃあ良い男紹介してくれるよなー?三十路のお姉さんを貰ってくれる良い男をさー!』
『え、え?…ちょっとナツ、助けてくれよ』
その姿を見て夏菜はクスクスと笑う。
『紹介してあげれば良いんじゃない?前に女の子紹介して欲しいって言ってた後輩君いたでしょ?』
『あー…まぁ…。でもアキくんを紹介して良いものか…』
腕を組み真剣に考える。
秋は満面の笑みを浮かべながら、冬が買ってきたワインを開ける。
『まっ、その話は食べながらにしようぜ?ピザ冷めちゃうしさ』
『それもそうね!フユくん私の飲み物って?』
冬樹は袋の中を漁り、ぶどうジュースを取り出す。
『ほい、ぶどうジュース!せっかくだからワイングラスに入れて飲もうぜ!もう1つ取ってくる!』
冬樹はキッチンにワイングラスを取りに行き、その間に秋はワインを2つのグラスに注ぐ。
『お待たせ、ほい。』
冬樹は夏菜にワイングラスを手渡し、夏菜はグラスにぶどうジュースを注ぐ。
『ありがとう!アキちゃんお待たせ!』
3人はワイングラスを掲げる。
『じゃあ…みんなの新しい1歩と明るい未来を祈って…カンパイッ!!』
3人のグラスは合わさり高い音が響く。それから各々が中身を飲み干し、談笑しながら楽しい時間が過ぎていく。
秋はお酒が入っていることもあり、いつもより更に上機嫌だ。
『いいか?フユ?お前ちゃんと紹介しないと学校に乗り込んで冬樹先生は嘘つきでーす!って校内放送流してやるからな!』
『学校に不法侵入するなよ、めんどくさいなぁ』
冬樹も秋に釣られてお酒が進み、つい本音がこぼれる。
『おまえっ!私をめんどくさいって言ったな!絶対許さないからな!』
『まぁまぁ、アキちゃん落ち着いて。今のはフユくんが悪い』
自分のペースで飲み物を飲みながら雰囲気に酔う夏菜。今だけかもしれないが不安を全く感じていないようだ。
『でもよぉ…やっぱり色々落ち着いてからが良いじゃん』
代わりではないが冬樹は顔を赤くしながら不安そうな表情をする。
『私だってそんな鬼じゃないから大丈夫だって!出産が落ち着いたらで良いからさ!』
秋は冬樹の空になったグラスにワインを注ぐ。
『分かったよ…。とりあえずアキくん、オレの顔を立てるのは忘れないでな』
注がれたワインを一気に飲み干しアキを見つめる。
『もちろんだって!任せとけ!』
こうして夏菜の出産後に紹介の場を設けるという形で秋から許しを貰い何とか難を逃れた冬樹であった。
そして季節は移り変わり冬が訪れる。
夏につむぐ春の希望 ぴー@愛と平和の象徴 @p-love-peace0822
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