第4話 真実の左眉

『ただいまぁー。ふー、重かったぁ』


冬樹はテーブルにピザと買ってきた飲み物を置く。


『結構買ったのなー。あ、お釣りは返せよ?』


左手を冬樹に向けて突き出し催促する。

秋は少し驚いた表情を浮かべ手渡された小銭を数える。


『結構使ったな。まっ、良いけど』


受け取った小銭を財布にしまう。冬樹は二人に向かい合うように床に座る。


『ってかオレがいない間、悪口言ってなかった?くしゃみめっちゃ出たんだけど』


『知らないよー。そんなパーカー1枚で出たからじゃないの?もうすぐ冬なのに、そりゃ寒いよ』


夏菜は呆れたように諭す。


『じゃあ何の話してたのさー?』


『それは…』


思わず言葉につまる夏菜。その様子を見てすかさず秋がフォローする。


『フユには言えない楽しい話だよ!』


秋の左眉が一瞬上がった。それを冬樹は見逃さなかった。


『ふーん。アキくんウソ付いてるね』


冬樹の見透かした態度に一瞬たじろぐ秋。だが、平然を装う。


『ウソじゃないから!フユのこの前の失敗の話について笑ってただけだし!』


『まぁ、それは本当っぽいね。アキくん気付いてる?』


ニヤニヤしながら秋を見る冬樹。普段子分扱いされてるのを仕返しとばかりに攻めるようだ。


『な、何がだよ?』


『アキくんは昔からウソ付く時、左眉が一瞬上がるんだ!もちろん無意識だと思うけどねー』


慌てて左眉を押さえるが時すでに遅し。逆に自身のウソを肯定する形になってしまった。


『フユのくせに生意気な…っ』


『さぁ!何について話してたか正直に全部話したまえー!』


『そ、そんな事より!何のピザ頼んだの?』


冬樹の攻めを封じるために夏菜は苦し紛れの質問を投げかける。だが、これが功を奏した。


『ん?今さLサイズのピザ2枚頼んだらお得って言われたから、それにした』


冬樹は得意げに語り出す。


『そ、そう。なら良かった!変なピザ頼んでたらどうしようってアキちゃんと話してたの』


『ナツ…』


静かに夏菜を見つめる。その眼差しには感謝と罪悪感とが渦巻いている。


『そうだったのか!でもオレが今までに変なもの注文した事あったか?』


得意げに言葉を発するが、説得力は皆無である。


『ノ、ノーコメントで…』


夏菜のその態度に少々不服であったみたいだが、冬樹は挽回するべくピザのお披露目に移る。



『まっ!これを見たら二人とも大喜び間違いなしだからな!見ろ!オレのセンスの塊を!』


冬樹の声と共に2枚のピザが箱から姿を現す。


そして2人はそのピザを見て硬直する。


『あ、あれ?どうした2人とも…』


場の硬直と沈黙に耐えきれなくなった冬樹が口を開く。

秋は頭を抱え、大きなため息をつく。


『なぁフユ…?これは?』


右側のピザを指さす。


『ミートパイン』


今度は左側のピザを指さす。


『チーズパイン』


『何で両方にパイン入ってんだよ!?常夏かよ?パインフェアかよ!?』


思わずソファから立ち上がる秋。

その様子に驚きながらも冬樹も対抗する。


『だってみんなパイン好きだろ!?だからこのピザを注文したんだよ!』


『確かにパインは好きだよ?でも温めるのは無しだって!それに2枚頼むなら1枚は4種類入ってるピザにしてくれよ!』


その言葉に冬樹は一瞬固まる。どうやら、自分の過ちに気づいたようだ。


『そうだったのか…。アキくんは4種類の梨のピザが良かったのか…。だったら言ってくれれば良かったのに…』


『違ぇから!むしろ4種類の梨のピザって何だよ…』


さらに大きなため息を吐く。


『あー。フユあれだろ?酢豚にもパイン入れるだろ?』


『当然っ!パインの入ってない酢豚は酢豚じゃないからな!』


一際目を輝かせる冬樹にどうすれば良いか迷う秋。だがめげずに質問をぶつける。


『じゃあハンバーグの上に乗せるのは?』


『おろしそ』


『そこはパインじゃないんかいっ!!』


『さっぱりして美味いじゃん!』


夏菜の方を見ると夏菜は顔を伏せて、わずかに震えている。


『はぁ…ナツの言う通りだった…。ってナツ大丈夫?また具合悪い?』


秋は下から覗き込むように夏菜の顔を見ようとする。

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