第3話 2つのお願い
『ん?もちろん。どうしたの?』
夏菜の真剣な様子を見て秋も姿勢を正す。
一呼吸置いて夏菜が話し始める。
『アキちゃんに二つお願いがあって…一つは…この子をアキちゃんに取り上げて欲しいの』
その言葉を聞けて嬉しかった。だが、もし前みたいに…
『私で…良いの?』
『うん!アキちゃんが良いの!今度こそアキちゃんに取り上げて欲しいの!あと…私の身勝手だけど…みんなで前に進もう?』
秋の目に涙が浮かぶ。その様子を夏菜に見られたくなくて手の甲で少し乱暴に拭き取る。
『分かったよ!ありがとう!』
秋の笑顔を見て少し安心した表情を浮かべ、夏菜は話を続ける。
『こちらこそありがとう。もう一つのお願いなんだけど…。次は私じゃなく、お腹の子を優先して欲しい』
『なっ…』
予想外の言葉に一瞬言葉が詰まる。
『そんなのまだ早いって!それにあの時は失血だけが原因じゃないって!』
『でもアキちゃんも覚えてるでしょ。私の血液型が珍しいこと…』
夏菜の血液型は「AB型rhマイナス」と言って珍しいものであった。国内でも確保出来る量は限られていて容易に手に入れる事は出来ない。
秋は静かに頷き夏菜を見つめる。
『私の血液型って2000人に1人の割合なんだって。2000人に1人って言えば多そうに感じるけど…0.05%って少ないよね』
自分に責任を感じているのか言葉を発した後に軽く唇を噛み締める。秋は夏菜の手を握り、首を横に振る。
『ナツが責任を感じる必要なんてないよ。私もサポートするから!血液に関しては私も他の病院を当たってみるね。だから今は赤ちゃんが無事に産まれてくる事だけを考えてて?』
秋の手の上に涙が滴り落ち、夏菜は声を震わせる。
『ありがとう…。そうしてくれると助かるよ。今ね…自己輸血用に貯血してるんだけど…私って貧血持ちだから中々貯められなくて困ってたの…』
『あぁ。任せとけ?ちなみにこの話…フユには?』
近くにあったティッシュを取り、夏菜に渡す。
『一つ目だけ伝えてる。二つ目も伝えると日常生活に支障出そうで…』
受け取ったティッシュで涙を拭い、軽く笑う夏菜。心なしかスッキリした様に見える。だが前回流産経験をした夏菜にとって大きな不安である事には変わりない。
『だね。まぁ大丈夫だから心配する事ないって!お姉さんを頼りなさい!』
夏菜に合わせるように笑い不安を悟られないようにする。…しっかり支えないとな。
『頼りにしてます。そうだ!この前あったフユくんの面白い話聞いてくれる?』
『え?なになに?教えて!』
こうして楽しい時間は瞬く間に過ぎて行き、気が付けば買い出しに出た冬樹がピザと大量の飲み物を抱えて帰ってきたのであった。
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