筋肉と地属性。
音佐りんご。
魔王軍四天王。
◆◇◆◇◆
剣戟と爆発音。
四天王マッスル・ゴリラと勇者一行が戦っている。
僧侶がゴリラの動きを止める。
ゴリラ:ッグゥ……ッ!
僧侶:動きを止めましたぞ! シェリア殿!
騎士:よくやったアーノルド! はぁぁ!
ゴリラ:クァッ!
騎士:今だモニカ!
賢者:オッケー! 身体強化全部盛り! さぁやっちゃってレオンっ!
勇者:ありがとう、みんな! みんなの力をこの剣に! うおおおおおお! 秘剣ブレイド・クロス!
ゴリラ:ッグワアァァァ!!
僧侶:勇者殿、お見事ですぞ!
騎士:流石、と言ったところか、勇者レオン・クロス・ブレイヴ。
賢者:おつかれさん、レオンっ!
勇者:この勝利はみんなのおかげだよ。さぁ、どうする? 勝負はついたぞ、四天王。
ゴリラ:ッグゥ……! ここまでか……!
騎士:大人しくするのが身のためだぞ?
ゴリラ:っく!
賢者:大人しくしてもどうせ殺すのに?
騎士:モニカ言い方!
僧侶:戦とは非情なモノ。さりとて最期くらいは安らかに与えたい。そういうものでは無いですかな? 賢者殿。
賢者:ふぅん、騎士の情け的な?
騎士:モニカ言い方!
僧侶:シェリア殿は騎士の矜恃と言ったところでしょうが。
賢者:死に方を選ばせる感じ?
騎士:モニカ言い方!
騎士:……私は抵抗できない相手を執拗に嬲るのは主義では無いからな。
僧侶:敵同士立場は違えど、それでも同じ命あるものとして、徒に苦痛を与えたり、辱めたりすることは悪徳故、私も騎士殿に賛成ですよ。
賢者:坊さんっぽいこと言うね、抹香臭いよアーノルド。
騎士:モニカ言い方!
僧侶:拙僧は僧侶ですからな。生臭より良いでしょう。あと、拙僧のことは蒼天と。
賢者:なるほど! 金持ちのぼんぼんのクセに出家した男の言葉は実感こもってるね!
騎士:モニカ言い方!
賢者:女っ気も全然無いし!
僧侶:ははは、拙僧、女に興味はありませんからな。男色故。
騎士:アーノルドも言い方!
賢者:拙僧だけに節操があるってかっ!
僧侶:ははは、然り!
騎士:もうやだ、なんとかしてよ、勇者――
ゴリラ:フハハハハハハハ! 随分はしゃいでいるなお前ら! 俺様を倒したくらいでよぉ!
賢者:負け惜しみ? それとも失敗しちゃったよっていう照れ隠し?
騎士:モニカ言い方!
ゴリラ:何とでも言うが良い! だが、俺様を倒したくらいで図に乗るなよ! そんな調子じゃ直ぐ死ぬぜお前ら!
僧侶:何ですと?
勇者:人の心配をしている場合かな? 君はここで僕達に敗れたんだ。
ゴリラ:いいか、俺様は所詮四天王の中でも最――。
勇者:だと思った。地属性だもん。
間。
ゴリラ:…………おい。勇者、今のは違くね?
勇者:……何がだ。
ゴリラ:今お前、地属性のこと馬鹿にしただろ?
勇者:いや、……別に。
ゴリラ:別に? はぁ。四天王の中で最弱と俺が言いきる前にボソッと何か言ったよな?
勇者:言ってないけど。
ゴリラ:「だと思った。地属性だもん。」
勇者:…………。
ゴリラ:……地属性の何が悪い? 言ってみろ。
賢者:(小声)これさ、あれだよね。
騎士:(小声)うん。
僧侶:(小声)マジのヤツ。
賢者:(小声)だよね。シェリアさ、レオンに「レオン言い方!」って突っ込んでみたら?
騎士:(小声)いや、そういう空気じゃ無いって!
ゴリラ:あとさ、お前ら。
僧侶:わ、我々ですか……?
ゴリラ:戦いの最中だったから言わなかったけどさ「やっぱ地属性は脳筋でチョロいですな(笑)」って言ったよな?
僧侶:だ、誰ですか! そんな非道なことを言ったのは!
騎士:わ、私は言って、ない……。
勇者:ぼ、僕も。
ゴリラ:…………。
僧侶:……っは! モニカ殿!
賢者:え~? あたしは言ってないよ~?
ゴリラ:お前は言ってなかったな。確か……そこの僧侶が呟いてた。
僧侶:な!
騎士:あ、アーノルド言い方!
ゴリラ:お前もめっちゃ頷いてたけどな。
騎士:うぐっ……!
勇者:だ、駄目じゃないかみんな!
賢者:レオンも笑ってたじゃん。
勇者:あ、あれは、ふ、不敵な笑い……そう! 「俺達、やれるぞ……!」的なやつだから! 矮小化! そう、強敵を相手にしたときに相手を貶め見くびることで恐怖を軽減し冷静にさせるというマインドマネジメントで!
賢者:勇者言い訳!
勇者:う、うるさい! モニカだってずっとそいつのこと馬鹿にしてただろ!
賢者:えー?
僧侶:そ、そうですぞ! やっぱ脳筋チョロいわー! って言ってた! 言ってましたよね、シェリア殿!
騎士:え、ええ!? い、言ってた、言ってた気がするけど、モニカは……。
ゴリラ:確かに言ってたな。
勇者:でしょ!?
ゴリラ:だからなんだ?
勇者:だからって……、いや、なんでモニカには言わないんだよ? お前のこと馬鹿にしてたのはモニカだって!
僧侶:そうですぞ!
騎士:確かに!
ゴリラ:お前達、何か勘違いしてないか?
勇者:え?
僧侶:か、勘違いですと……?
騎士:それってどういう……。
ゴリラ:俺様は脳筋と言われたことに憤っているわけでは無い。
賢者:だよね~。うんうん。わかるよ~。
勇者:お前はどっちの味方だモニカ!
賢者:うーん、長い物には巻かれとけってのが先代賢者の教えなんだけど! ま、ぶっちゃけ強いやつの味方! 力こそ正義! 正義こそ力!
騎士:モニカ言い方!
賢者:まぁ、脳筋ってか、そもそもあたし最初から自分以外見下してるし。
僧侶:なんと! 不遜ですぞ!
賢者:不遜って、だってあたし天才よ? 傲岸不遜上等。 それにいまさらじゃん? 人が愚かなのは。
騎士:モニカ言い方!
賢者:そんなのあんたが一番知ってんじゃんアーノルド。
僧侶:そ、それは然りですが……。
賢者:この旦那が怒ってんのは、だからそういうことじゃー無いんだよね。そんな簡単なことが分からないから怒られてんじゃん?
騎士:モニカに説教されるなんて……っく!
僧侶:なんという屈辱!
勇者:くそう、どうして僕がこんな……!
ゴリラ:まだ分からんか、勇者レオン・クロス・ブレイヴ。
勇者:そんなもの分かるはず無いだろう! 魔王軍四天王の、魔物の考えることなど理解できてたまるか! したくも無い! もういい! このまま倒してしまう!
賢者:あたしはパス。気が乗らないね。
騎士:モニカ!
勇者:放っておけシェリア、後で叱れば良い。あいつを倒した後でな!
僧侶:ですが勇者殿! 賢者殿が居なくては連携が……!
勇者:そんなものはどうにでもなるさ! あいつは手負いだ。僕らはやれる! そうだろう?
賢者:……それはどうかな。
騎士:モニカ……?
勇者:行くぞ、シェリア! 蒼天!
僧侶:心得た!
騎士:う、うん!
ゴリラ:俺とやるというのか? はぁ。最後は力尽くか。どちらが脳筋か分からんな。まぁいい。来い。お前が馬鹿にしたものの重さを教えてやろう。
勇者:……調子に乗るな死に損ないめぇ! うおおおお! 秘剣スラッシュ・ブレイヴ!
ゴリラ、勇者の剣を片手で受け止める。
ゴリラ:ふん……!
勇者:な!
僧侶:勇者殿の剣技を片手で止めた?!
騎士:あいつあんなに強かったのか?!
勇者:う、動かない……!
ゴリラ:無駄だ。力で俺に勝てると思うか? 無理だ。何故なら、お前より、俺の筋肉の方が強いからだ。
勇者:この脳筋野郎!
ゴリラ:ああそうだ。確かに俺は、パワータイプゴリゴリマッチョで戦略よりも筋肉のことを考えていたいし、脳細胞より筋繊維が発達してほしいと切実に思ってる脳筋だ。
勇者:そんなやつに負けるなんて、僕は認めない!
ゴリラ:認めようが認めまいが、筋肉は正直だ。お前の全身の筋肉が負けを認めているぞ?
騎士:すごい言い方……!
勇者:剣なんて無くたって……! 秘技ブレイヴ・ファントム!
僧侶:勇者殿が消えた!
賢者:正面から挑んで勝てないと見るや姿を消して不意打ち狙いとか流石勇者だぜ!
騎士:モニカ言い方!
勇者:何とでも言え! 知力こそ正義だ! 正義は勝つ! 要は勝ったやつが正しいんだ!
騎士:レオン言い方!
勇者:勇者殺法ファントム・ダンス! はぁぁぁぁぁぁ!
僧侶:勇者殿の攻撃が全方位から嵐のように打ち付ける!
ゴリラ:ふんッ……! っく!
勇者:はははははははははは! どうしたどうした!? さっきまでの威勢はどうしたのかな? 僕の攻撃に手も足も出ないじゃないか!
ゴリラ:はぁ! フンッ……! クゥ……!
僧侶:対する四天王、振り払おうとするが! 為す術も無くその拳は空を切るばかりだ! これはまるで亡霊と踊るようではないか!
賢者:解説乙。
騎士:モニカ言い方!
勇者:四天王の中でも最弱の脳筋なんて! はぁぁぁ! 秘剣ブレイド・オブ・ブレイヴ・ファントム!
勇者の剣技が炸裂する。
ゴリラ:ぐわぁぁぁぁ!
ゴリラ、膝をつく。
勇者:はぁ、はぁ、もう終わり、だ。
ゴリラ:ック……!
僧侶:流石は勇者殿ですぞ!
勇者:ふん、所詮は地属性など、勇者であるこの僕の敵では――
ゴリラ:勇者レオン・クロス・ブレイヴ。
勇者:何だ、四天王。気安く話しかけるな。
ゴリラ:俺は、……自他共に認める、脳筋だ。
勇者:それがどうした? 負けた言い訳か? ダサいな。
賢者:マジギレにチキって言い訳してた男が言うのも大概ダサいけどね。
騎士:モニカ言い方!
ゴリラ:俺が負けたのは勇者の力に、俺の筋力が及ばなかったからだ。それは純然たる力量の差、それは俺の筋肉が全肯定、するだろう。
勇者:っは! 随分潔いじゃ無いか。その賢さをもっと早くに身に付けるべきだったね。
僧侶:敗者を罵る勇者殿、いやぁ、惚れ惚れする鬼畜っぷりですなぁ。
騎士:アーノルド言い方!
ゴリラ:賢さか。ふん。しかし俺の信条は知力よりパワー。パワーこそ知力。Muscle loverだ。
騎士:マッスルラバー……。
ゴリラ:お前からすれば動きが読みやすくてチョロいかもしれない。ああそうだろう。否定はしない。大胸筋も頷いている。
騎士:ゴリラ言い方!
勇者:ああ、お前の動きは単調で読みやすかったぜ。まぁ、所詮は一人目の四天王、苦戦するほどでも無かったな。やっぱり地――
ゴリラ:でもさ、それ俺の悪口でよくね?
勇者:は?
騎士:っひ!?
僧侶:あ、圧が増した?!
賢者:…………。
ゴリラ:なんで地属性のこと馬鹿にした?
勇者:は、はぁ?
ゴリラ:チョロいのはあくまで俺であって地属性じゃなくね?
勇者:な、何だよまだやろうってのか?! お前にもう勝ち目なんて!
ゴリラ:お前、地属性のこと貶したよな? てか、舐めてるわ。
勇者:す、凄んでも無駄だぞ! もう僕はお前なんかにビビったりしない!
賢者:街のチンピラもビックリのダサさだね!
騎士:モニカ言い方!
ゴリラ:ていうか、初めて会ったとき。
ゴリラ:「やっぱりパワータイプか(笑)」とか言ってたのも思い出したわ。
勇者:…………。
ゴリラ:「だって地属性はどうせデブか脳筋」
勇者:……!?
ゴリラ:お前今、そう思ったよな?
僧侶:ど、どうして言っても無いことがわかるのですか!
ゴリラ:俺の筋肉がお前らの思考読みとったんだわ。
騎士:筋肉にそんな力が……!?
賢者:いや、無いでしょ。
勇者:……だとして、それがどうした? 事実だろ。事実を言ったまでだ! だって事実お前は、四天王の地属性で脳筋じゃないか! それで僕がキレられる意味が分からない!
ゴリラ:そうかも知れないな。俺の怒りは逆ギレなのかも知れない。自然界においてはお前の言ったように、勝ったやつが正しい。その通りだ。
勇者:だろ?! だから僕がお前に詰られる謂われなんて無い!
僧侶:拙僧の気のせいでしょうか、モニカ殿……?
賢者:どうしたの蒼天ちゃん。
僧侶:ゴリラの……四天王マッスル・ゴリラ氏の口数が増えたような……。
騎士:うん? 言われてみれば……。
賢者:お、そこに気付くとは流石僧侶!
僧侶:それに先程「だって地属性はどうせデブか脳筋」と言ったのも引っかかります。まるで勇者の思考を読み取ったかのようで……。
賢者:うんうん。
騎士:ぐ、偶然じゃない?
僧侶:頭脳プレーよりパワープレーの彼がですぞ。
騎士:…………!
僧侶:拙僧はなにか、……胸騒ぎがするのです。
騎士:胸騒ぎ……?
賢者:ふふ。その予感、当たってるかも知れないよ?
騎士:え……?
ゴリラ:地水火風の中で、水は頭脳派のイケメン、火は熱血のイケメン、風は天才肌のイケメン。
ゴリラ:で、地はデブかゴリラ。
僧侶:然り。
騎士:っし! 聞こえるよ……!
ゴリラ:そういう風潮あるかも知れねぇ。実際うちの四天王もそうだ。あいつら無駄にイケメンなんだよな。
ゴリラ:そして俺は四天王の中では、ルックスも実力も最弱だ。
勇者:はぁ? そんなもん自業自得なんじゃ無いかな? 見た目も実力も磨かなかったのが悪い。筋肉にうつつ抜かして、鏡の前でマッスルポーズとか取ってイキってる感じ? ナルシスト的な? 実力磨こうよ。お洒落しようよ。それで他のやつ僻んで、挙げ句に僕に負けて逆ギレとかさ。自助努力、足りないんじゃ無いですか~?
騎士:なんか、今の私的にカチンときた。
僧侶:……まぁ、そうですな。
賢者:今更だけどさ~この勇者の性格ってドブみたいじゃない?
騎士:モニカ言い方!
賢者:外面は綺麗だけど見えないところはどろどろしてる感じ王都の下水道みたい。蓋開けてみれば臭い的な。
騎士:モニカ言い方!
僧侶:でも顔は良いんだよな~。
騎士:アーノルド言い方!
賢者:それな。
ゴリラ:ああ、そうだ。努力が足りない。耳の痛い限りだ。うん。文句は言えねぇよ。お前が言うように僻みだ。負け犬の遠吠えならぬ負けゴリラのドラミングだ。
勇者:だったら、僕に噛みつくなよ! 地属性は大人しく底辺に這いつくばってるのがお似合いだ!
長い間。
ゴリラ:…………でもよ。
ゴリラ:地属性のことまで馬鹿にすんのは違うくね? お前に負けたのも、四天王最弱なのも俺が地属性の可能性引き出せてねぇってだけの話で、ポテンシャルは他の属性とイーブンなんだけど?
ゴリラ:……てかさ、マジ、ふざけんなよ?
勇者:な、何だよ! 事実じゃ無いか、負けたやつが何言って――
ゴリラ:俺倒したくらいで図に乗んな。って、さっき言ったよな?
僧侶:……い、嫌な汗が……。
騎士:すごい気迫だ……!
賢者:魔力が上がったね、それに……。
ゴリラ:……ああ、でも、そうか。
勇者:な、何だよ! 何なんだよお前!
ゴリラ:俺がここで諦めたら、地属性が馬鹿にされるんだな。
ゴリラ:オーケー、四天王とか最弱とかどうでも良いわ。
勇者:何なんだよこの力……! 何勝手に自己完結してんだよ! どういうことだよ!
ゴリラ:俺はたぶんよ、四属性最強の一角とか、正直傲ってた。
ゴリラ:地属性の力強さに甘えてて、ゴリ押しだった。
賢者:ゴリラだけに!
騎士:モニカ空気!
ゴリラ:けどそのせいで地属性が馬鹿にされるんだったら、俺は地属性に申し訳が立たない。
勇者:ごちゃごちゃうるせーんだよ! 今すぐお前をぶっ倒してやるよ! うおおおお! 秘技ブレイヴ・ファントム・オーバー・クロス・秘剣ブレイド・オブ・ブレイヴ・ファントム!
僧侶:す、すごい、勇者殿が分身している!
賢者:同じ顔がいっぱいでキモいね!
騎士:モニカ言い方!
勇者:細切れにしてやるぅ!!
勇者の振るう無数の剣がゴリラに殺到する。
ゴリラ:勇者よ、お前は俺だ。
勇者:何?!
ゴリラ:俺よりイケメンで才能に溢れているだけの俺だ。
騎士:それは全然違うのでは?
ゴリラ:ああ、違うな。何故なら、勇者。お前は俺ではあるが。
勇者:死ねブサイクぅぅ!
ゴリラ:……しかし先程までの俺に過ぎないのだから。
ゴリラ、勇者の猛攻を捌ききる。
勇者:そ、そんな! 僕の攻撃が!
ゴリラ:今、俺は決めた。頭を、筋肉を、俺の全てをかけて、お前を倒すと。
僧侶:こ、これは! な、何が起こっているのでしょうか!?
騎士:分からない、けど、巧みなフェイントと体捌き、そして先読みによって、レオンが赤子のようにあしらわれているのだけは分かる。
賢者:蒼天とシェリアはこんな話を聞いたことあるかな?
僧侶:な、何をです?
ゴリラ:俺は知っている。
賢者:ある種の生物は追い詰められた時、生存のためにね――
勇者:そんな、そんな馬鹿な!
賢者:DNAレベルで忘却していた飛翔するという機能を思い出すのさ。
ゴリラ:そう、筋肉は追い詰める程強くなる。
勇者:僕の! 僕の動きが読まれている!? こんな脳筋に、地属性に!
賢者:命を、自らの存在理由を脅かす外敵に対抗する為の戦略としての飛行。その知るはずの無い手段をDNAに、本能にアクセスした際の刺激がIQを格段に向上させるんだって。
ゴリラ:地属性もまたそうだ。
僧侶:それと同じことが起こっているというのですか、賢者殿!
賢者:どうだろうね、でも、あたし達は今それ程の脅威に直面している。
僧侶:なんと……!
勇者:くそ! クソ! クソォォォ! どうして当たらない!
騎士:ちなみにその生物って……。
賢者:Gだよ。
騎士:ゴリラじゃ無くて……?
僧侶:G……!
賢者:Gって、気流感覚器って言う器官によって空気の流れを読めるから、なかなか攻撃が当たらないんだってさ。あいつの発達した筋肉がそれにあたるとしたら……そう考えるとくっそキモいね!
騎士:モニカ言い方!
勇者:僕は、僕は勇者だぞ! こんな、手負いの、死に損ないの、底辺の、地属性如きに勝てない訳が無い!
ゴリラ:俺は今、満身創痍。
勇者:僕は勝つ! そう……! いつだって!
ゴリラ:しかしそこに慢心は無く、創意を凝らさなければ死に、ひいては地属性の沽券にかかわる。
勇者:そんなもの僕がこの剣で切り捨てて地に落としてやる! 地属性だけにな! アハハハハハハハハハッ!
騎士:レオン言い方!
賢者:勇者のゲス味が増してきたね!
僧侶:騎士殿のツッコミの切れ味も!
勇者:お前をギッタギタにして! お前の大好きな筋肉も! 地属性も! 勇者の敵じゃ無かったと! 足下にも及ばなかったと! 喧伝してやるぜ! 四天王一のお荷物ブサイク地属性筋肉達磨ぁ!
賢者:盗賊団下っ端もビックリの三下っぷりだね。
騎士:……それな!
僧侶:騎士殿が同意した?!
ゴリラ:そうか。
ゴリラ:ならばこれは、負けられぬ戦いだ。ああ、勇者。
ゴリラ:眼が醒めたよ。
ゴリラ:俺は俺様は……いや、我は。
ゴリラ:魔王軍四天王が一人、地属性マッスル・ゴリラ。
勇者:っは! そんな名乗り意味ねぇよ! だってお前なんか覚える価値ねぇんだもん!
ゴリラ:ならば、それも良し。勇者レオン・クロス・ブレイヴよ。
勇者:気安く僕の名前を呼ぶな!
ゴリラ:ふ、ふふふ、ふははははははは!
勇者:何を笑ってやがる! 気でもおかしくなったのか?
ゴリラ:いいや、寧ろこれまでよりも明瞭だ。我は今まで分からなかったのだ。何故戦うのか、な。貴様はどうだ? 勇者よ。貴様は何のために戦う? 平和のためか? 正義の為か?
勇者:っは! そんなもの決まっている、名誉だよ! 名声だよ! みんなが僕を呼ぶ声が僕の力になるんだよ!
騎士:……うわぁ。
僧侶:……うわぁ。
賢者:……うわぁ。
勇者:そんなつまんないことに悩んでるから、お前はいつまで経っても四天王の地属性なんだよ!
ゴリラ:そうだな、我はもう悩まない。我はただ地属性の為に戦おう。その為ならば、そう、貴様を倒した後、魔王とやらになってみるのも悪くは無いかもな。
僧侶:拙僧、胸騒ぎがもはや動悸になっているのですが。脂汗が止まらないのですが!
騎士:私、逃げて良いかな? これ絶対駄目系なやつだよね?
賢者:勇者が魔王生み出しちゃった系のやつだね。ウケる。
騎士:笑えねぇ……。
ゴリラ:さぁ、勇者……否、ゲス野郎。貴様が嘲弄した地属性の真髄はここからと知れ。
勇者:カハハ! イキがってんじゃねぇよ。地属性は地属性らしく畑の土の下に埋まってガタガタ震えてりゃ良いんだよ! おイモ野郎! さぁみんな! 行くぞ! みんなの力を僕に!
勇者から距離を取る騎士、僧侶、賢者。
勇者:何してんだよ、ビビってんのか!?
騎士:ええ、まぁ。
勇者:僕と一緒にと戦おう、凄腕女騎士シェリア・ヴィル・ミラージュ!
騎士:実家に帰らせていただきます!
勇者:っは!? イケメン僧侶! 蒼天・アーノルド・ゴルドスミス!
僧侶:実家に帰らせていただきます!
勇者:んな!? き、稀代の天才、賢者モニカ・サンドロ。
賢者:ぶはははは! 殺し合え! あたしは勝った方の味方だ!
騎士:モニカ言い方!
僧侶:……でも、それあり。
勇者:え?
僧侶:勇者殿の性格も分かったところで、正直ついていきたく無くなり申したが、さりとてこのまま安全に実家に帰れるかどうかも、分からぬ故、勝った方の味方というのが安パイかと拙僧は考えまする。
勇者:何だと!?
僧侶:……それに拙僧、実は筋肉質な殿方も大変良き。
騎士:節操無ぇな!
賢者:シェリア言い方!
僧侶:拙僧、地属性のこと誤解しており申した。すみませんでした。許してはくれないだろうか、マッスル・ゴリラ殿。
ゴリラ:むう……我に謝っても仕方ない。地属性に詫びよ。
賢者:地属性に詫びるとは。
ゴリラ:地に伏して額づけば地属性も許してくれるだろう。
僧侶、土下座する。
僧侶:地属性殿、軽んじるようなことを言ってしまい、誠にごめんなさい!
ゴリラ:うむ。
騎士:……なんだだこれ。
賢者:流石僧侶、サマになるね!
騎士:でも、ぶっちゃけ私も、騎士として肉体の修練に努める者として……憧れるよねあの筋肉。あの筋肉の下で修行したい。
騎士、土下座する。
騎士:と言うわけで、地属性様! 騎士シェリアの非礼を、何卒お許し下さい。
ゴリラ:うむ。
騎士:あと、マッスル・ゴリラ様! 弟子にして下さい。
ゴリラ:良かろう。筋肉を愛する者として共に歩もうぞ。
騎士:はい!
勇者:そんな馬鹿な……!
賢者:残念だったね、勇者レオン・クロス・ブレイヴ。仲間に見限られちゃって。君は強くて興味深かったけど、とても愚かだから、もう見飽きてしまったんだよね、賢者的には。
賢者:それに引き替え、こっちは次代の魔王、仲間になるなら……それってとっても素敵じゃ無い?
勇者:僕を! この僕を裏切るというのか?!
賢者:それは君次第だけどね、レオン。
勇者:く、くそう! こんな屈辱! 許されると思うなよ!
ゴリラ:話し合いは終わったか?
勇者:ハハ、アハハハハハハハ! ああ、全部、全部、全部この僕が、終わらせてやる! 四天王も、魔王も、お前もお前達も僕一人で! ヒヒヒヒヒヒヒッ!
騎士:……うわぁ。
僧侶:……うわぁ。
賢者:……うわぁ。
勇者:勇者の、真のを見せてやる!
ゴリラ:そうか、ならば勇者よ。愛する筋肉と地属性にかけて――
勇者:皆殺しだァ!
ゴリラ:――いくぞ!!
《幕》
筋肉と地属性。 音佐りんご。 @ringo_otosa
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