第3話 登校班

外を眺めていると、男の子が4人集まろうとしていた。そのうち1人が我が家のガレージに入り、自転車カゴに入れてあるサッカーボールを取り出し、ランドセルや巾着袋を隅に置き、4人でサッカーを始めようとしている。


おそらくボールは班長の物だが、集合場所が我が家の前なので、朝用のボールとして置いていた。


ここの登校班は、私が小学生になる以前から、最初に来た者からサッカーをして出発時間まで待つことになっていた。フィールドは道路である。ゴールは登校班に所属している子の家の壁をゴールにしていた。よって、私が小学生の間はずっと我が家の壁がゴールであった。皆、朝から遊びたいので集合が早かった。


「大和(やまと)、行くぞ」


私は皆を知っているが、大和は初めて会うことになる。緊張しているようだ。私も小学3年生を演じなければならない。心は48歳のおじさん、体は子供である。緊張である。


ーできるかなー


私は普段、大和とボール遊びをするとしても、家の中でドリブルしてボールの取り合いをする程度である。気軽に家の前の道路で遊べたらよいが、道路でのボール遊びはもちろん、公園でさえも禁止されている。私が小学生の頃は、金属バットに軟球を使って野球をしていた公園であったが。


当然、大和は近所の子供達とボール遊びをしたことがない。屋外で大和とボール遊びする時は、フェンスで囲まれている市営有料広場を使っている。


ーこれからの出来事に大和はビックリするだろうー


「行ってきまーす」

「行ってらっしゃい」

母は特に私達を送り出すわけでもなく、お互い告げるだけである。


玄関を出ると

「武(たけし)、洋(ひろし)、グッパして!」

班長が声をかけてきた。


ーやっぱり、洋だと思うよなー


「グー、こっちな!」

副班長が言う。


班長と副班長は共に6年生の男の子で、私達兄弟とは朝の集合時間だけ遊ぶ仲だった。下校後、誘われることはなかった。同級生と公園でサッカーをするところをよく見かけた。本当はガッツリ対等に遊びたいのだろう。


班長と副班長が最初に集合しているので、大体リーダーは決まっている。最初は3人対3人でやっていたが、2.3分もすると5人対5人となる。


この時間、家の前の道路を通る車は1台だけである。近所は広い土地の家でもガレージがなかったり、車がない家もあった。車は一家に一台あるかないか半々であった。


エンジン音が聞こえ、車が曲がり角に達した時は、一旦サッカーを中断。車が通り過ぎたら再開。車が少ないから道路で遊ぶことができたのだろう。また、余程のことがない限り注意する大人もいない。それが普通であった。


女の子はサッカーに参加することもあるが、大抵は”段跳び(ゴム跳び)”や”あやとり”をしながら待っていた。


令和の登校班を見ると、近所の公園に集合することになっているが、ただ待っているだけである。


あまりの違いに、大和も楽しそうである。私は48歳、運動不足で本来であれば10分も走り回ったらクタクタのはずだが、信じられないくらい身軽であった。8歳の時の元気力のようだ。


「サッカー終わりー!みんな行くぞー!ボール、武ん家(ち)のチャリカゴに入れてや!」

班長が号令をかける。


出発は8時10分であった。


「お父さん、ヤバイね。さっき、班長が蹴ったボール、隣の家の庭に入ったよ。しかも勝手に庭入ってボール取ってきてるし」

大和が話かけてきた。


大和の声は、たまたま皆に聞こえていないようだ。


「みんなの前では、変やけど”お父さん”やなくて”お兄ちゃん”て呼ばな。みんな何言ってんの?ってなるし…、ヤバいのはホントやな。でもそれが普通や。あかんことやけど」

と大和に小声で伝える。


「わかった、お兄ちゃん」

言ってみたものの、変なので大和は笑っている。


ー本当は親子ー


班長に率いられ小学校に向かう。


車の音はなく、子供達の元気な声だけが町に響き渡っている。


ーここは老人ホームができ、あっちはマンションが建てられた。道路は狭いまま、コンビニもまだない。こんなに田んぼが広がっていたんだなー


小学校までの道沿いの風景が懐かしい。


10分ほど歩いて小学校到着。

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SR 天の川椿 @tsubaki_ama

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