第2話 実家
朝を迎え、目を覚ます。
...。
ーここはどこだー
なぜか、ベッドで寝ていたようだ。建替えた家ではベッドを使っていない。家族4人、床に布団を敷いて寝ている。
ー実家で使っていたベッドだ。しかも、ここは私の部屋だー
妻も凛子(りんこ)も大和(やまと)もいない。
自分の頬を引っ叩いて、ツネってみる。
ー痛いー
ボーッとしていると、大和(やまと)が泣きながら部屋に入ってきた。すると大和が、
「え?誰?」
「誰って、お父ちゃんやん」
「子供やん。ここ、どこ?」
「家のはずやけど…」
大和にそう言われて不思議に思い、ベッドを降りて立つと、大和の背の高さとあまり変わらない。慌ててタンスの鏡をみる。すると、子供の頃の自分の姿が目の前に写っている。
ーどういうことだー
大和は変わらないように見える。
「写真で見た、子供の頃のお父ちゃんみたい」
大和が言う。
ー夢じゃないのかー
窓から家の外を見ると、昔の風景が目に映る。
「ご飯できたから、武(たけし)、洋(ひろし)、二人とも降りてきて早く食べなさい!」
1階から聞き覚えのある声がした。
ー母だ。今、洋って呼んだよなー
ー大和は私のことをお父さんと認識しているのかー
疑問だらけである。
「大和、1階降りるぞ」
「うん」
2人で洗面所に行き、歯を磨く。ブラシにそれぞれ名前が書いてあった。大和は不安そうに周りを見ながら私について来ている。順番にトイレを済ませ、1階のリビングに入る。
ー懐かしい家の匂いがする。完全に昔の家だー
「おはよ。はよ食べや」
母が声をかける。
ー母だ。しかも若いー
母は平成30年に他界しているが、私の目の前には、40代の頃の母がいる。
「おばあちゃん…?」
小さな声で大和が言う。
母が他界した時、大和は3歳であったが母の記憶があるらしい。
母は食器を洗いながら、
「ほれ、武も洋も何ボーッとしとん。座って、早よ食べ」
と声をかける。
ーやっぱり、洋って言ったよなー
2人は席につく。大和はまだ何が起きているかわからない様子で、泣きそうになっている。
食卓には白米、味噌汁、漬物、だし巻き、海苔が用意されている。これは、母定番の朝食である。たまに、シャケもしくはシシャモが出ることがある。懐かしく思いながら私は茶碗を持ち、箸を手にする。
ーどう考えても夢だよなー
と思いながらも、朝ごはんを食べる。横をみると大和は固まっている。
「洋、どうしたんや?」
母は大和に向かって言っているようだ。
ー母は大和ではなく、洋だと思っているー
私は父が見たであろうテーブルに置いてある新聞を手にした。昭和58年4月18日(月)とある。父は朝が早い。既に職場に向かっている時間だ。新聞があるということは、父が存在していることを意味する。母は父が他界すると、新聞の契約をやめていた。
ーこれって、タイムスリップしたってことかー
「ごちそうさまでした」
私は茶漬けをかきこむように朝ごはんを平らげ、軽く大和の肩をポンポンと叩き、そそくさと2階へ上がって行った。洋の部屋を調べるためだ。
実家の2階には階段を上がると、廊下を挟んで左に1部屋、右に2部屋の計3部屋ある。左側の部屋は12畳の多目的部屋、右手前が私の部屋、右奥が洋の部屋であった。朝起きた時、大和は洋の部屋から出てきたようだ。洋の部屋に本当の洋はいない。
ー大和が洋なんだ。昨日、大掃除をしている時に手にした写真、そっくりだったー
やがて、大和が2階に上がって来た。私は大和に、今起きていることを説明した。大和は弟の洋となってタイムスリップしていること。ご飯を用意してくれたのは、浩子(ひろこ)ばあちゃん。おばあちゃんは大和を洋だと思っていること。大和は会ったことのない、清(きよし)じいちゃんがいること。洋は1年生で、私が3年生であること。大和はなんとなく把握したようである。
「とりあえず小学校行く用意しよ」
大和を待たせ、私はまず自分の用意をした。昔の記憶が不思議な感じで蘇る。
ー3年2組だったな。ノートにもそう書いてある。過去は変わってないようだー
自分の準備を終え、洋の部屋に入る。洋は1年生でまだ用意に慣れていない時期であったので、兄の私が世話をしていた。その過去も変わらないようだ。洋のことに関しては記憶があやふやではあるが、
ー確か1年4組だったはずー
記憶通り、当たっていた。教科書やノートに書かれている。
ー何時何分に登校班集合だったかー
そんなことまで覚えていない。何しろ約40年も前のことである。自宅前のT字路が集合場所だったのを思い出し、とりあえず2階の窓から見てみた。まだ誰もいないようだ。
時計の針は午前7時50分を指そうとしていた。
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