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天の川椿
第1話 ゆめの入口
「おじいちゃん、めちゃくちゃ怖かったんだね。お父さんより怖かったー」
ー息子と同じゆめをみていたようだー
令和に入り、実家を解体して建替えた家に引っ越してから、初めての大晦日大掃除。
バルコニーのタイル磨き、外壁磨き、網戸洗い、窓拭きと順番に済ませていく。外周りの掃除を終えてから、納戸の整理に取りかかる。
引っ越す際、整理を怠り、要るもの要らないもの一緒くた。書類や衣服、子供の頃からの写真など、そのまま段ボールの中にある。
ー大掃除の最後に今日こそやってみるかー
写真を見ていると昔を思い出す。作業が進まない。
「この写真、だれ?」息子が訊ねる。
「若い時のおじいちゃんとおばあちゃん」
「この子は?」
「お父ちゃん」
「こっちは?ボク?ちがうか」
「こっちは大和(やまと)やなくて、洋(ひろし)ってゆうねん。お父ちゃんの弟や。大和にめっちゃ似てるな。昭和58年小1って、裏に書いてるな。今の大和と同じやな」
「お父ちゃん、弟いたんや。どうしてんの?」
私には2歳下に弟の洋がいた。昭和59年に、自転車と車の交通事故で亡くしている。妻には伝えていたが、子供たちには特に伝えていなかった。
「悲しいね」
「だから、大和も周りに気をつけて動かんとな」
私も弟も、地元の少年野球チームに入っていて、共に活動的だった。休日は野球チームに一日中参加し、平日は学校から帰宅すると玄関にランドセルを放り投げ、直ぐ様公園に出かけていった。
公園では野球、サッカー、ドッジボール、隠れんぼ、木登りなどして、年中あちこち怪我だらけで、救急車で運ばれるくらい危険なこともあった。いつも陽が落ちる頃まで遊んだものだった。だから勉強を知らなかった。宿題は寝る前にするか、スッカリ忘れて翌日登校して、先生に叱られる有様であった。
現代の子達と比べると、やんちゃかもしれない。というのも当時、周りの大人は寛容で子供に規制するようなことが、今ほどではなかったことが考えられる。
自分が人の親となった今、心配症で子供達に対してかなり過保護になっている。最近は、公園の木も事故があったのだろうか、登れないように低い位置の枝はカットされている。大和は木登りなんてしたことないだろう。
「私のもやっといて」脱線しながら整理をしていると、妻の依頼を受ける。
「これ、お母ちゃん?かわいい」「これも昭和58年やね。だからお母ゃんが小4の頃の写真やなー」
自分の写真を見るより面白い。余計に時間がかかる。私に見られて恥ずかしくないのだろうか?私は子供の頃の妻を知らない。
私は就職氷河期世代。バブル崩壊後、銀行、企業の倒産が相次ぎ、商工ローンや消費者金融が流行った時代、就職先は皆無に等しかった。
会社説明会には行くが、募集数の少なさに絶望し、大学3回生のうちに就職活動から撤退。元々、何も目的なく場当たり的に進路が決まってきた学生生活。とりあえず大学は出とけという親。
結局、何も決められず大学を卒業。定職に就かずフラフラしていた中、妻と知り合う。大学時代の先輩の紹介を受け、付き合いはそれからだ。地元はお互い近く、隣町。最寄りの駅も同じということが良かったのか、何なのか。
ーよくこんなのと付き合えるなー
改めて不思議に思う…。まともに働き出したのは、妻と出会ってからだ。やがて娘が生まれ、息子が生まれた。
ー脱線が過ぎてしまったー
大晦日大掃除、やることを溜め込むと大変だ。
「みんな、終わったかー?暗くなる前に墓参り行くぞー」
大掃除を終え、20分ほど歩いて墓地に着く。墓地は私が子供の頃は陽の差さない竹林の中にあったが、宅地開発が進み、住宅地の真ん中の明るい場所に変貌している。
「凛子(りんこ)はママと花の用意を、大和はバケツに水入れて、たわしで墓石磨きやで。」
私はお地蔵さんと無縁墓に線香をあげる。それから、我が家の墓に線香をあげる。生前の父とほぼ同じやり方である。
ただ違うのは、両親も私も墓石磨きをしたことがない。結婚後、妻が初めて墓参りにきた際、コケに覆われていた墓を見て、妻が始めたことだ。それを今は大和が担当している。
昔、両親はカップ酒やビール、まんじゅうなど、お供物をしていたが、カラスや猫の餌場と化していた為、現在は禁じられている。花と水と線香のみである。
両親の他界後、少し味気ないと勝手に思った私は、墓石にビールをかけることにしている。お酒が好きだった両親のために…と、今いたら、洋とも呑みたいと…。
そのやり方に妻は毎回引いているが、子供達は喜んで交代でビールをかけている。家を建替えて、初めての墓参りだったので、お祝いの意味で今回はカップ酒もかけた。おそらく、いつもよりご先祖様は喜んでいると勝手に思う。
最後に皆で合掌し、手を洗い、墓地をあとにする。
帰宅後、家族で大晦日の夜を楽しむ。酒も入り眠くなる。まだ妻と凛子は、大晦日のテレビを楽しんでいる。
寝室に入ると、先に大和が布団に入っていた。我が家は家族4人、川の字で床に布団を敷いて寝ることにしている。少し寂しかったんだろうか、私の手を握って眠ろうとしている。そのまま、私も眠りにつくことになる…。
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