第26話 散歩
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俺は目を覚ました、
受付嬢は一足先に受付窓口に戻って作業をしていた。
ギルドの中は閑散としている。受付嬢以外には誰もいなかった。
ギルドマスターはスタンピードの見張りを続けるべくダンジョン入口に残っていた。
現在、避難したギルド職員によりギルド本部や国にスタンピード発生の報告と救援要請が行われているはずだ。このままいけば駆けつけてきた救援部隊に対してスタンピードの封じ込めに成功した旨を報告するだけで済みそうだった。
「はい、
受付嬢が、
今までとあまり語呂が変わらない名前のほうがわかりやすいだろうと俺は考えた。
受付嬢はアーラに真新しい探索者カードを手渡した。
紐で首からぶら下げられるようになっている。
新人はFランクからスタートだ。
とはいえ、アーラはミスリルスライムを狙って討てるセンスの持ち主だ。すぐにあがるだろう。
「ポチとお揃いだな。何て書いてあるだ?」
アーラは自分の探索者カードを裏にしたり表にしたりして嬉しそうに訊いてきた。
俺はアーラの名前が書かれている部分を指さした。
「アーラ。
「おら、今日からアーラになるだか?」
「そうだ。今度、読み書きと計算も教えてやる。これからは新しい名前で俺と色々な場所を散歩するんだ」
「わかっただ」
アーラが嬉しそうに俺に笑った。
受付嬢が、にやにやと俺たちを見つめていた。
「何だよ」
恥ずかしさもあり俺は、ぶっきらぼうにそう口にした。
すっかり受付嬢の掌で転がされた。受付嬢にしても予想以上の結果になったことだろう。
「いえいえ。お二人のパーティー登録を行います。アーラちゃん、もう一回カード貸して。ポチさんの探索者カードも貸してください」
「誰がポチだ!」
今度はちゃんと突っ込んだ。
俺は受付嬢にカードを渡した。
アーラは俺がなぜ突っ込んだのか意味がわからなかったらしい。
きょとんとした顔で俺に倣って受付嬢にカードを差しだしていた。
受付嬢が俺に訊ねた。
「パーティー名は『ポチとご主人』で良いですか?」
良いわけないだろう。
「ワンダーラ」
考えていた名前を俺は口にした。
ワンダルフとアーラだ。
アーラの名前を考えた時に合わせて考えた。
もし、
受付嬢は鼻で笑った。
「そういえばワンダルフさんでしたっけ?」
こいつ。
パーティー登録の手続きが終わった。
「ワンダルフさん、アーラちゃんを、よろしくお願いします」
受付嬢は真面目な顔で深々と俺に頭を下げた。
それからアーラに向きなおり、
「ポチさんに幸せにしてもらうのよ」
「わかっただ」
いや、嫁にもらったわけじゃないんだが。
俺は受付嬢に言葉をかけた。
「あんたはアーラの友人だ。ここの後始末が済んだら魔導士協会の本部で俺の名前を出すといい。どこかに働き口を見つけてくれる。居場所がわかればアーラも会いに行けるから」
幸い、被害の少ないスタンピードで済みそうなためギルドマスター本人の処分はともかく受付嬢まで借金を負う恐れはないだろう。とはいえ、ここがなくなるのだから職は失う。
「ありがとう。じゃあ私からはアーラちゃんに餞別を」
ここが観光ダンジョンではなく普通の探索者ギルドであったならばギルド経営の武器防具店が併設されているところだが生憎ここにはない。
代わりに観光ダンジョンの雰囲気を盛り上げるためにロビーの所々に鎧を着て武器を持ったマネキンが展示されていた。迫力を出すため大柄の種族のマネキンもある。
いくつかマネキンを裸にしてアーラに合うサイズの防具や衣服を何組か調達した。
鉄製の棍棒も手に入れた。
だとしてもスタンピードを阻止した報酬としては安すぎだろう。割に合わない。
とはいえ、俺個人としては少なくない収穫があったと思っている。
魔素上がりをしているダンジョンのコアには魔界とつながる可能性があると判明した。
問題は再現性だ。
魔素上がりをしているダンジョンを見つけて潜って試してみるしかないだろう。
魔族に会えるかもしれない。
魔界に行けたとしてアーラを連れて行くかは後で考える。
その前に少なくともアーラに独り立ちできる生活力を付けさせないと。
そんなことを考えているとアーラが大きな口を開けてあくびをした。
馬鹿みたいに大口を開ける美人という生き物を始めて見た。
だが、俺も大分眠たい。
「アーラ、一眠りするぞ」
俺はアーラを連れて馬小屋に向かった。
「起きたら散歩だ」
「わかっただ」
馬小屋泊まりは、これで最後だ。
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
最新話まで、本作を読んでいただきありがとうございました。
ポチとアーラの出会いのエピソードはこれで終わりです。
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仁渓拝
コボルト=メイジ=ワンダルフ。『犬男』と『大女』 仁渓 @jin_kei
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