第4話 人間関係の精算といふ名の他己防衛

拝啓 たくさんのSNSを利用していた君へ


君は青い鳥さんや虹色のカメラなど、たくさんのSNSへ手を出します。


サイトには書き切れないこと、サイトページにするまでもないことを記して残しておくためです。



そのくらい、君は忘却を恐れています。



君はいわゆる、カメラアイというものの持ち主でした。


コミュニケーションも作為的で、

・誰に何をどのタイミングで話す

・こんな反応があるだろうからこう返す

・それについてはこう返す

・もしこう返ってきたらこう返す

など、計算して他人と付き合ってきました。


すべて記憶力があったからできたことです。



しかしながらその能力は、君にとって重く苦しいものでした。



今の旦那と出会ったときに、「こんなにも忘れられて、苦しまずにいられるの、いいな」と憧れて彼を真似たときから、その能力は失われました。


残ったのは、普通の記憶力。



しかし病気をして、普通の記憶力すら失いました。


すぐに忘れる。

昨日のことすら思い出せない。

新しいことを覚えられない。


そんななかで君は、捨てたかった記憶力にしがみつきます。


四六時中日記を書き、SNSにつづり、サイトにつづり、

自分の行動のすべてを残し始めます。


いつか自分の脳がやられても、思い出せるように。



残念ながら、その行動は間違いでしょう。


今、僕は日記をつけていません。

SNSはほとんど辞めようとしています。

(連絡が来ていたものだけ、返信待ちな状況です)

サイトも今日解約しました。再来月にはなくなるでしょう。


僕はSNSが虚構だと知りました。

現実に生きるためには、必要ないと知りました。


虚構ばかり描き続ける僕がこんなことを思うのは筋違いでしょうが、それでも思ってしまいました。


すべては僕の新しい家族が気づかせてくれたことです。



僕の身を削って書く僕の記録は、常に僕の身近な人を傷つける。


もう傷つけたくない。


もう、やめよう。



今さら無い記憶力にすがって生きることも、周りを傷つけながら生きることも、もう、やめよう。


僕には僕の守るべきものがある。


僕の守るべきものを守るためには、君の行動は間違いだと言わなければならなりません。

君と同じ行動をとってはいけない。


でもそれに気づけたのは君の行動のおかげでもあります。

ここで正誤のパラドックスが生じてしまいました。


この矛盾を解消するために、僕は「自己正当化」という醜悪な手段を取ろうと思います。



君は過去、当時において正しかった。


僕は現在、当時において正しい。

君は過去、現在から見て誤っていた。


時間軸をずらして、過去の君が間違いであり正しい矛盾を解決したいと思います。



僕の「SNSをやめ、ペンネームを変える」というのはまったく根本的な解決法ではない。

それは僕もわかっています。


自分も他人も守りたいなら、僕は僕の最たる武器である「文章」を封じるべきです。


でも残念なことに、今の僕にはそれができそうにありません。


ずっと書き続けています。

陣痛中も書き続けていました。


ずっと、ずっと。


虚構の世界を描き続けてきました。


だからこの選択がどんな結末を生むのかはわかりません。


けれど今の僕には、これしかない。


SNSでの人間関係を精算することで、誰かを傷つける不安を拭い、傷つける可能性から誰かを守る。


こんなものしか選べない。


だって僕は、誰かを傷つけることに疲れた。


未来の僕がこの選択を無駄だと笑ってくれることを願って。



誰も傷つけたくないのに筆を置けない傲慢な僕より

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かつて物だった僕へ 紫乃遼 @harukaanas

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