胸キュン戦隊イケメンジャー番外編 今明かされる宝塚ホワイトの秘密

無月弟(無月蒼)

第1話

※本作は『胸キュン戦隊イケメンジャー!』の番外編作品です。

https://kakuyomu.jp/works/16817139558601686658




 胸キュン戦隊イケメンジャー。

 それは悪役令嬢からヒロインを守るため戦う、乙女ゲームの攻略対象キャラをモチーフとした戦隊ヒーロー。


 俺様系レッド、クールブルー、王子様イエロー、ショタグリーン、宝塚ホワイトの5人で構成された彼らは、日々巨大な敵と戦っていた。しかし……。




 ◇◆◇◆



「……ヤバいな」


 ソファーに腰を下ろし深刻そうな顔でそう口にしたのは、つり目で強そうな感じのイケメン、赤尾あかお折正おれまさくん。

 実は彼こそが、胸キュン戦隊イケメンジャーのリーダー、俺様系レッドの正体なの。


 え、そんな解説をしている私は誰だって? よくぞ聞いてくださいました。私はこのお話のヒロイン、披露院ひろういん桃子ももこ。高校1年生の女の子だよ。


 そしてここは、池綿イケメンそうっていう学校の寮の、共有スペースであるリビング。

 私は何やかんやあって赤尾くんと同じ、この池綿荘で暮らしているの。

 ううん、赤尾くんだけじゃない。なんとこの寮、住んでいるのがイケメンジャーの5人と私だけっていう、夢のような寮なの。

 逆ハーレムだよ逆ハーレム。素敵なイケメン達に囲まれて生活できるなんて、まるで夢みたい。


 毎日眼福眼福とイケメン達を愛でながら暮らしているんだけど、今日は何だか赤尾くんの様子がおかしい。

 何だか悩んでいるみたいだけど、どうしたんだろう?


「赤尾くん、さっきからぶつぶつ言ってるけど、何かあったの?」


 心配して声を掛けると、赤尾くんはこっちに目を向けてくる。


「披露院……。実は、俺達の今後について考えていてな」

「イケメンジャーの今後ってことですか? だんだん強くなってくる敵に対抗するために特訓するとか」

「いや、特訓して強くなるなんて、今時流行らねーよ。そんなものは昭和か平成初期の話だ。今は強い敵が出てきたらパワーアップアイテムを使ってドーピングするのが定番だからな」


 そんな身も蓋もない。

 強くなるために努力してたヒーローさん達ごめんなさい。これが今のヒーローの在り方です。


「敵がどうこうじゃなくてだな。悩んでいるのは、今後のイケメンジャーの展開についてだ。俺達元々、KACから生まれた戦隊ヒーローだろ。だけど作者はアホだから、イケメンジャーを長編化してゆくゆくは書籍化なんていう大それた夢を見てるみたいなんだ」

「今後って、そっちですか!? いいんですかそんなメタ発言して!」

「今更だろ。それより本題だ。俺も挑戦する分にはタダなんだから、長編化するなり書籍化を目指すなりは、してもいいとは思う」


 まあたしかに。実際にできるかはともかく、やりたければやればいいですよね。

 けど、それじゃあ何をそんなに悩んでいるのかな?

 疑問に思いながら首をかしげていると、赤尾くんはため息をつく。


「俺が心配してるのはな、名前なんだ。俺達の名前ってさ、著作権的に大丈夫かって話だよ」

「な、名前ですか!?」

「ああ。Web小説で書くくらいならセーフでも、もし万が一書籍化するとなると、どうなると思う?」


 言われて私は考える。

 もしも『胸キュン戦隊イケメンジャー』ってタイトルで書籍化したら。


「と、東○が黙っていないかも。○英を敵に回してしまうってことですか!?」

「ああ。ついでにこうやってトウ○イ、ト○エイ言ってるのも、怒られるかもな」


 そ、そこはほら、伏せ字にしてるからセーフ?

 だけど作品タイトルになっている『胸キュン戦隊イケメンジャー』は、どうなんだろう。

 あ、でも待って。


「けど、戦隊ヒーローパロディのご当地ヒーローはたくさんいますよね。都営○隊オーエドマンとか、杉並戦○イレンジャーとか。これらは怒られていませんよね」

「過去には埋葬○隊オガムンジャーが怒られて、消滅したなんて例もあるがな。けど交渉の余地が、無いわけじゃないか」


 何とかして東○を説得しましょう。

 それができるかどうかで、私達の今後が左右されるんです。

 胸キュン戦隊イケメンジャーってタイトルがダメなら、例えば『戦隊ヒーローで逆ハーレム!』ってタイトルにするとか、色々手はあるもんね。


 だけど赤尾くん、ここでまたも難しい顔をする。


「だがな披露院。よしんば東○を説得できたとしても、もう一つ大きな問題があることを忘れていないか?」

「大きな問題? それっていったい」


 赤尾くんが何を言っているのか分からない。

 だけど不思議に思っていると、リビングのドアがガチャリと開いた。


「ただいまー。おや、二人とも何を話しているんだい?」

「宝お姉様!」


 入ってきたのは、スラッと背が高く、凛々しい顔をした人物。

 町ですれちがったら必ず振り返るほどの美しいイケメンで、だけど膨らんだ胸から女性であることがわかるその人はイケメンジャーの紅一点、白塚しろつかたからさん。

 宝塚ホワイトの正体なんだけど……。


「ああーっ! た、ホワイト! って」

「どうやら気づいたようだな。そうだ、イケメンジャーより厄介なのは、アイツの名前だ!」


 赤尾くんが危惧していたことが、ようやくわかった。

 だって宝塚といえば、あの歌劇団じゃないですかー!

 女性だけで構成される、美しき歌劇団。みんな知ってるよね。

 その名前を、勝手に使ってしまったら。


「ど、どうしよう。歌劇団側が怒って、『オラァ、テメェ! なに勝手にうちらの名前使っとんじゃコラァ!』なんて言ってくるかも!」

「そんな言い方をしてくることは100%無いだろうが、怒りはするかもな。そうなったら、マズイどころじゃない。東○を相手するよりよりヤバいことになる」


 赤尾くんの言う通り。東○はなんとかなっても、あの歌劇団はどうにかできる気がしない。

 だとしたら、私達が取るべき道は……。


「おい白塚、お前今から改名しろ。歌劇団を敵に回すのはマズイ!」

「そうです。新しい名前は……男前ホワイトなんてどうでしょう!」

「うーん、俺としては前の方が良かったと思うが、この際仕方がないか」

「私もそれは思います。けど、とにかくまずは変えないと」


 私も赤尾くんも、宝お姉様に詰め寄っていく。

 一方お姉様は戸惑ったような顔する。


「待ってくれ。状況が掴めていないんだが、ようするに二人は私に宝塚ホワイトではなく、別の名前に変えろと言いたいんだね」

「はい、その通りです。本当なら未来永劫、宝塚ホワイトのままでいてほしいんですが、背に腹は変えられません」

「悪い白塚。俺達も苦渋の決断なんだ」


 私は目に涙を浮かべて、赤尾くんも心苦しそう。けど一番辛いのはきっと、宝お姉様だよね。

 すると、お姉様は『うーん』と声を漏らす。


「まあね。実は私も前々から、宝塚ホワイトという名前はどうかと思っていたんだ。すまない」

「そんな。お姉様が悪いわけじゃありません」

「気を使わなくていいよ。そうだよね。赤尾くん達はみんな、イケメン属性を名前にしてるのに。私だけを名乗っているのだからね」

「だからお姉様が悪いんじゃ……って、え。地名?」

「おい、地名ってどういうことだ?」


 私も赤尾くんも、揃って首をかしげる。


「だから宝塚ホワイトの、『宝塚』のことだよ。ほら、今でこそ私はイケメンジャーの一員だけど、元々は出身地である兵庫県宝塚市の平和を守る、ご当地ヒーローとして活動していたじゃないか」

「待て、そんな話は初耳だぞ!」

「お姉様、宝塚市の出身だったんですか!?」


 私も赤尾くんも、思わず声を上げる。

 そんな設定、本当に今まであったの!? 後付け設定じゃないですか!?


 明かされる衝撃の真実。だけど宝お姉様にとってそれは当たり前のことだったらしく、逆に変な顔をされてしまう。


「君達は今まで、『宝塚』を何だと思っていたんだ?」

「何ってそりゃあ、なあ」

「宝塚市にある、きらびやかな某歌劇団が名前の由来かと」


 まああの歌劇団も地名から名前をとっているのだから…根っこは一緒なんだけどね。


「何を言っているんだ。かの歌劇団の名を無断で使うなんて、そんな恐れ多いことはできないよ。なのに勘違いするなんて、困った子だなあ」

「はわわ。ご、ごめんなさい」


 イタズラっぽく笑ながら私の顎に手を当ててきて、クイッとさせる宝お姉様。

 こういうところが、歌劇団っぽいんだけどなあ。


「そもそも私じゃ、あの歌劇団とはイメージが合わないんじゃないか」

「どの口が言うか。けどそれじゃあ本当に、あの歌劇団とは無関係なんだな」

「もちろんだ」


 キッパリと言い放つ宝お姉様。

 そして顎クイから解放された私は、赤尾くんと顔を見合わせる。


「歌劇団じゃなくて地名ですか。赤尾くん、どう思います?」

「うーん。地名なら、このままでもいいんじゃないか」

「けどそれだと今度は、宝塚市からクレームがきません?」

「いや。実際の場所を舞台としたご当地小説だってセーフなんだ。それと同じで、名前に宝塚の地名を使うのなら大丈夫なんじゃないのか?」


 確かに。これでアウトなら、ご当地小説が書けなくなってしまいますよね。


「例えばカクヨムには、山口県宇部市を舞台に、やりたい放題してる小説だってある。宇部市の名産の車エビをモチーフにしたエビ太郎なんて怪人が出てきて、そいつをエビフライにしようっていうぶっ飛んだ小説がな。それに比べたら、どうってことないだろう」

「そ、その発言は宇部市小説の作者様から怒られませんか!?」

「あの作者さんは寛大だから許してくれるだろう。たぶん」


 本当に大丈夫かなあ?

 仮にそうだとしても、これ以上クレームがくる可能性のある発言を増やさないでほしいよ。

 今のうちに謝っておきます。作者さんごめんなさい。


「二人とも、盛り上がっているところ悪いけど、話を戻そう。それで私は、『男前ホワイト』に改名した方がいいのかい?」

「いや、地名ならいいや。『宝塚ホワイト』のまま続けてくれ」

「そうです。宝お姉様のお名前は、『宝塚ホワイト』が一番です」


 もちろんこれはあの歌劇団とは関係ない、兵庫県宝塚市から取った名前。これ、重要だから!



 というわけで、これにて一件落着。

 お姉様はこれからも、宝塚ホワイトとして活動していくことになりました。


 権利の問題で戦うべき敵が多すぎる、胸キュン戦隊イケメンジャー。だけどこれからも頑張っていきます。


 次はKAC2023でお会いしましょう!

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