熱い想い
砂漠の使徒
ラブレター?
「好きです」
直球すぎる言葉から始まった。
その手紙は、僕がちょっとした用事で外に出て、帰ってきたら机の上に置かれていた。
「今日の夜、仕事が終わったらギルドの裏の広場に来てください。待ってます」
あまりにも一方的。
こちらの都合なんか何も考えていない。
「まぁ……」
行く……かなぁ。
いや、僕には愛する奥さんがいるから相手の想いには応えられない。
けど、放っておくわけにもいかないからね。
説得して、諦めてもらおう。
「……」
それにしても、仕事が終わったら……か。
僕が残業でもしてたらどうするつもりなんだろうか。
ちょっとは早く仕事を切り上げるべきか……?
「うーん……」
困ったなぁ。
「先輩、どうしたんですか?」
ひょこっと、僕の後ろから現れたのは後輩だ。
「え? あぁ……なんていうか……」
机の上に広げたままのこの手紙、どう説明するか。
というか、説明する必要はないのでは?
「え、それ、まさかラブレターっすか!?」
「うーん、そうともいう」
好きです、と書かれてはいた。
「なるほどなるほど。たしかに今日はバレンタインですからね!」
「あ……」
バレンタインか。
すっかり忘れていた。
ってことは。
「チョコを渡す気……なのかな」
「きっとそうですよ! もらいましょう!」
自分のことのように喜んでいる後輩。
「だけど、僕は……」
「大丈夫ですって! 奥さんには義理チョコだってごまかしましょう!」
「うぅ……」
絶対許してくれない……よなぁ。
もらったら、どこかで食べて帰ろうかな……。
「行ってあげないとかわいそうですよ!」
「そう、だよな……」
半ば後輩の押しの強さに負けて、もらいに行くことにした。
――――――――――
「うぅー、さむい」
二月とはいえ、まだ寒さが残る。
夜ともなると、外にいるのは辛い。
僕はコートを着て、いつもより少し早めに仕事場であるギルドを出た。
「いるかな?」
こんな寒い場所で待ち合わせなんて、風邪ひくぞ……。
「はくしゅ!」
ほら。
誰かがくしゃみをしたのが聞こえた。
正面を見ると、厚着をした誰かが立っている。
どこかで見覚えのあるもこもこのフードを被り、顔は隠れている。
いったい誰だろう?
「ん」
僕が正面に立つと、その人はこちらの顔も見ずになにかを差し出した。
それは、ハート型のラッピングがされている……。
「これ、チョコ?」
「ん」
「くれるの?」
「ん」
よほど恥ずかしいのか、うなずくだけだ。
「……ありがとう」
一応受け取る。
受け取るんだけど。
だけど……。
「シャロール……だよな?」
顔はうつむいていてよく見えないし、声も出してないから確信はできないが。
「やっぱりシャロール……だよね?」
うまく説明はできないが、彼女は僕の愛しの妻シャロールではないだろうか……という確信が。
「ちがう」
首を横に振る。
その拍子にフードの隙間から彼女の青い髪が飛び出した。
やはりシャロールだ。
「なんでここに?」
「……」
「あー……言いたくなかったらいいよ」
僕はどうも鈍感だから。
乙女心がわからなくて、たまに彼女を不機嫌にさせてしまうことも。
「……たかった」
とても小さな声で呟いたのが聞こえた。
「え?」
「びっくりさせたかったの!」
彼女はバッと顔を上げた。
その拍子にフードは完全に脱げて、愛らしい猫耳が露わになった。
「……」
顔を赤くして、口はムッとしている。
どうやら怒っているようだ。
「つまり、サプライズ……だね?」
「……」
「なのに僕がすぐ気づいちゃったから……」
台無しになっちゃったのか。
それは悪いことをしたな……。
「なんで……わかったの?」
「うーん……」
なんでもなにも。
「自分の奥さんを見間違うはずないだろ?」
なにを着ていたって、シャロールはシャロールだ。
「う〜……」
元から赤くなっていた彼女の顔がさらに赤くなる。
照れているんだ。
「これ、作ってくれたの?」
「……うん」
「ありがとう」
僕はシャロールの頭をなでる。
いつもサラサラの髪が心地良い。
「くしゅん!」
「おっ……と。寒いから帰ろっか」
「うん……!」
僕は彼女にフードを被せ、手を引っ張る。
――――――――――
……チョコが甘くて美味しかったのは言うまでもないだろう。
(了)
熱い想い 砂漠の使徒 @461kuma
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