第8話

数日後、私は順平くんのおうちに呼び出された。

順平くんのお父さんが出てきて、私にこう言った。


「眞白ちゃんの染め物、本当によがった。なしてあんな白さ、出せるんだ?」

「おそれいります。姉が新潟に嫁いでいて、雪を使うこと、教えてくれたんです」

「ほう、雪か」

「雪の上に反物を広げるんです。雪解けの日の光を浴びて、麻布は雪のような白に染まるんです。新潟に古くから伝わる、布を白くする方法です」

「そうなんか。眞白ちゃん、いいこと教えてもらったな」


しばらくの沈黙が流れた後、おもむろに順平くんは口を開いた。

「眞白、親父の前でこんなこと言うのも何だけど……」

そう言うと、順平くんの顔は、前のときと同じように真っ赤に染まった。

「その……眞白のことが好きだず。おらと結婚してけろ」


私の頭の中は、真っ白になった。

その後、私はなんと答えたか、はっきりと覚えていない。

けれど、たぶん……いや、きっと、こう言ったと思う。


「私も、順平くんのことが好きだず。よろしくお願いします」



こうして、私は順平くんと結婚した。


私は気が弱くて、人を私色に染めることなんてできない。

でも、私は大好きな人のために染まることはできると思う。

そんな気持ちを込めて、雪にさらして真っ白にした反物も持っていったのだった。

それが功を奏したのかどうかは分からないけど、私は順平くんと結婚することができた。



後日、美紅ちゃんにこんなこと言われた。

「色の白いは七難隠すって、ホントだったにゃ」


まだ言うのか……

でも、私は笑って聞き流すことができた。


春になった。


私は順平くんと散歩に出かけた。

辺りの雪はほとんど解けてしまっている。


「お花、きれい」

んだずそうだね


私たちは、さくらんぼの木が並ぶ小径を歩いていた。

花は満開だ。


順平くんは、私が染めた手ぬぐいを持ってきていた。


「これ、使うの、なんだかもったいなぐて……」

「だいじょうぶ。また作ってあげるから」

「そっか、んだら、遠慮なく使うか」

「そうしてけろ」


私たちは顔を見合わせて笑った。


私たちの周りには、たくさんのさくらんぼの花が咲いていた。

さくらんぼの花びらは白く、そしてほんのりピンク色に染まっていた。



《了》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白く染める 神楽堂 @haiho_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画

同じコレクションの次の小説