孤独の魔王とヤサグレ勇者。
音佐りんご。
魔王、それは勇者という存在を心より待ちわびし者。
◇◆◇
※台詞内に(~で)みたいな指示があったりしますが、
縛りは無いのでシカトしてくれて大丈夫です。
己が魂の演出家に従ってどうぞ。
魔王城、玉座の間。
明かりはついておらず、薄暗い闇が広がる。
魔王がビーズクッションのような玉座に頬杖をついている。
以下、モノローグ(M)。
魔王:(M)魔王、それは勇者という存在を待ちわびし者。
目的は様々あれど、メタな話、物語の性質上勇者を待ち続けなければならぬ健気な存在。
特に最終章はサブイベントいっぱいあるせいで、道草食われがち。
魔王:も~、遅いよ~! 魔王ずっと待ってたんだよぉ!(カワボで)
魔王:(M)などとは口が裂けても言わぬ。
ただ、魔王はみんな切実に思っておる。
はよ来い勇者よ。
口では来るなと言ったがあれは嘘だ。
重度のツンデレ。
それが魔王。
扉が開き、勇者が現れる。
勇者:ここが、玉座の間かぁ……? っち、真っ暗じゃねぇか、くそ……魔王はどこにいやがる……?
魔王:……ふふふふふふふふ。(嬉しさと声を押し隠した感じの喩えるならば幽霊屋敷のような趣で)
勇者:っ……! 誰だ!
魔王:ふふふふふふふふ!(少し冷静さを取り戻したような趣で)
勇者:魔王か!?
入り口から玉座に向けて順々に『ぼっ、ぼっ、ぼっ!』
という具合にレッドカーペット脇の燭台が灯る。
勇者:何だ……? 灯りが?
魔王:勇者よ、我が軍勢を打ち倒し、よくぞここまで辿り着いた!
勇者:っは! 随分手の込んだ演出だな!
魔王:なに、歓迎の挨拶のようなものだ。
勇者:歓迎だと……?
魔王:ああ、我はお前を待ちわびた。
勇者:っは! 俺もこの時を待っていたぜぇ? お前をこの手でぶっ殺す時をよぉ!
魔王:ふふふ、ここまで来たのはお前が初めてだ、嬉しく思うぞ。
勇者:そして最後の来客だ。
魔王:ふふふふふふふ!!(狂ったような勢いで)
勇者:っは! 覚悟しろ魔お――
魔王:いっ! いらっしゃいませ! 勇者ぁ!!
玉座の間の灯りが一斉に付く。
内装とは別にホームパーティーのような安っぽい飾り
『うぇるかむゆうしゃ』が付けられている。
少しの間。
勇者:……は? な、なんだぁ? これは……「うぇるかむゆうしゃ」?!
魔王:さぁさぁ、とりあえず上がってって! 遠慮しなくて良いからさ!
勇者:おいてめぇ……! 一体何のつもりだ!
魔王:何って、見て分からぬか?
勇者:分かるか。
魔王:歓迎の用意だが?(キョトンとした感じで)
勇者:ふざけやがって! だいたいなんだこのクソみたいな飾り付け!
魔王:えー? 可愛くない?
勇者:キショいんだよ! 俺を馬鹿にしてんのか!?
魔王:喜んで貰えると思ったのになぁ。
勇者:舐めやがって、ぶっ殺してやる……!
勇者、部屋の中に一歩踏み込もうとする。
魔王:――待てッ!!
魔王の声で部屋中が振動する。
勇者:……っ!
魔王:あ、ごめん、いきなり大きな声出して。
勇者:なんなんだよ……!
魔王:待って待って、今スリッパ出すから!
勇者:スリッパだぁ?
魔王:一応このフロアは土足禁止なのだよ。
勇者:土足禁止? っは! 何、馬鹿みてぇなこと言ってんだよ? まさかこの俺に敵地で靴を脱げなんて言わねぇだろうな?
魔王:いや、脱げよ勇者。
勇者:…………。(ぶち切れてる時の柴犬みたいなニュアンスで)
魔王:何その嫌そうな顔。逆に脱げない理由とかある?
勇者:俺が素直に脱ぐ理由あると思うか? それ以前に、どんな卑劣な罠が仕掛けてあるとも知れねぇだろうが、クソ魔王。
魔王:卑劣な罠って? あと、クソはやめて。可愛くないから。
勇者:うるせぇクソが。あんだろ毒の床とか。
魔王:ぶふっ毒の床て。(失笑する感じで)
勇者:あぁ……? 何がおかしい。
魔王:いや、如何なる理由で自分の部屋の居住環境悪くせねばならんのだ? というか可愛くないし。……あ、何、勇者ビビってる?
勇者:は? ふざけんな、ビビってねぇ、ぶっ殺されてぇのか?
魔王:ほら、心配しなくても大丈夫だって!
魔王、絨毯に寝転ぶ。
勇者:な!? こいつ、俺の前で腹を晒すだと!!
魔王:我みたいに寝転がってみぃ? この絨毯めっちゃさわり心地良いんだぞぉ? ほぉら、ほらぁ? ちょっと触ってみぃ? うわ~、ふわふわ~。
勇者:断る。
魔王:え~なんで?
勇者:どんな卑劣な罠が仕掛けてあるとも知れねぇだろうが。
魔王:……っぷ。(思わずといった具合で)
勇者:あぁ?
魔王:勇者ビビってるぅ! ヘイヘイヘェイ!(煽り気味で)
勇者:…………。(怒りで震える感じで)
魔王:どしたん?
勇者、しゃがんで絨毯を撫でる。
勇者:…………。(顔が綻び声が漏れ出る感じで)
魔王:あら素直。
勇者:黙れ。
魔王:めんごめんご。……で、どうよ。
勇者:……………………悪、くない。
魔王:な? 良いだろ?
勇者:違う『悪くない』だ。
魔王:あら強情。
勇者:あぁ?
魔王:ふふふ。あ、そうだ!
勇者:今度は何だ。
魔王:折角だから、そこの『魔王を駄目にする玉座』座ってく?
勇者:魔王を駄目にする玉座……!?
魔王:そうそう、今流行りじゃん?
勇者:流行……? いや知るか。
魔王:あー、さては流行に疎いタイプだな~?
勇者:悪いか。
魔王:いいや、そんなことは無いが?
勇者:はぁ?
魔王:言うて我も世間知らずだしな。
勇者:魔王なのにか?
魔王:魔王故にな。
勇者:……っは、下らねぇ。それより、さっさと始めんぞ、殺し合い。
魔王:そんなことより、玉座、座ってみん?
勇者:そんなことだと?
魔王:いや、これはマジ、他のこと全部些事になるくらい良いぞ?
勇者:…………断る。
魔王:あら逡巡? ちょっと間があったな。
勇者:ねぇよんなもん……!
魔王:そう? めんごめんご。
勇者:それに、どんな卑劣な罠が仕掛けてあるとも知れねぇだろうが。
魔王:何だ、勇者よ。そのフレーズ好きなん?
勇者:うるせぇ! 俺は騙されねぇぞ。
魔王:あら、意固地? 騙されたと思って座ってみなってぇ! もう最高だよ? 極上にして至福!
勇者:っけ、そんな口車、乗ってたまるか!
魔王:乗れよ乗れ乗れ!
勇者:ざっけんな!
魔王:座ったらつれてってくれるのよ、天国に!
勇者:あぁ? 天国だと?
魔王:
勇者:何だその売り文句っ! 危険さ以外なにも感じねぇわ!
魔王:いやいや、そんな危なくないって。疲れてるときに座ると魂持ってかれそうになることはあるけど、基本、悪霊が座りに来ては昇天してる程度だから。
勇者:程度? いや、十分危機感覚えるが? てめぇ、馬鹿なのか?
魔王:そうそう、馬鹿になっちゃうくらい良いよね。ほら『魔王を駄目にする玉座』の名に偽り無し。みたいなね?
勇者:すげぇな。微塵も座りたいと思わねぇわ。
魔王:え~、文句なしの良品なのに。……あぁ、でも一つだけ難点あるとしたら、見かけなくなっちゃって寂しいことかな。レイス。
勇者:いや魔王に言うのも変な話だが、お前、感性イカレてんだろ。
魔王:そうかな? 自覚無いけど。
勇者:自覚しててそれならよりイカレてるわ。
魔王:あら直球。
勇者:てか、魔王と変な話してる状況含めて変な話だがよ。何だよ、この城アンデッドも出るのかよ、クソ気持ちわりい。
魔王:まぁ、これ置いて居なくなったけど、そりゃぁ出るよ。
勇者:そりゃとか言われても知らねぇよクソが。
魔王:うーん、実はさ、ここって元々事故物件だったんだ~。
間。
勇者:は?
魔王:先代魔王、あ、我の親父殿な?
勇者:あ? 親父だ? 急に何の話だよ。
魔王:でも俺が生まれて直ぐかな、親父殿、改革派の反乱に遭っちゃってさ。
勇者:反乱だと……?
魔王:先代魔王含めて双方おびただしい数の死者が出たんだよ~。正に地獄絵図だったって、じいや……あ、親父殿の側近だった育ての親が言ってたんだ。この真っ赤な絨毯千枚分だろうかってくらい、ここの床が亡者達のどす黒い血と怨念で満たされたって。
勇者:…………!?(思わず絨毯から跳び退く感じで)
魔王:あ! だから親父殿って言っても我、先代の顔なんて全然知らないんだけどな! ふふふふふ。
勇者:…………。
魔王:ま、それはさておき。
勇者:いや置けるか!
魔王:え、なに急に? どした勇者?
勇者:さて置けるかっつってんだよ! 「なに急に?」は、こっちの台詞だ! なにおもむろに凄惨な過去語り始めてんだ!
魔王:あぁ、めんごめんご! 魔王の過去なんて勇者は少しも興味ないよな~。いやぁ、こうして誰かと話したの結構久しぶりでさ、何話して良いか分からないっていうかさ~?
勇者:いや確かにねぇけどよ。そういう言い方れると……あぁ! クソが!
魔王:めっちゃ怒ってんじゃん。あ~じゃあ、落ち延びてじいやと二人慎ましく辺境で田舎娘として過ごした幼少期の話とかしてもつまんないからやめとくかぁ。この日のために話のネタを温めてたんだけどなぁ……。
勇者:何下らねぇことしてんだよ、というか田舎娘……? あぁ! なんか地味に気になるの腹立つなぁマジで! クソが……! てか、そうじゃねぇ! そうじゃねぇよ!
魔王:なに? そうじゃ無いって? 何が?
勇者:ふざけた通販グッズ紹介する流れでそんな話始めてんじゃねぇよ!
魔王:ふざけた通販グッズ? ああ、魔王を駄目にする玉座?
勇者:いや、なんだそのクソみてぇな商品名!
魔王:可愛くない?
勇者:可愛くねぇし、んなもんただのでかいビーズクッションだろうが! 生地やたら高そうなのが余計ムカつくけどよ。
魔王:だって玉座だし、高見え感は大事よ?
勇者:いや、んなもんぜってぇ玉座じゃねぇよ! なんてもん使ってんだ、舐めてんのか魔王てめぇ!
魔王:えぇ? でも、高いだけあってめっちゃ使い心地良いよこれ?
勇者:使い心地とか知らねぇわふざけんな! 見栄えクソなんだよ! それ見てるとくっそテンション下がんだよ! お前見てるだけでも結構限界なのに、椅子にまで馬鹿にされてるみたいで心底ムカつくわ! あぁ畜生が!
魔王:あら激怒。えぇ……? 何がそんなに不満よ?
勇者:何もかもだが取り敢えずはよぉ、もっとこの場に相応しそうなやつあんだろうが! 元々あったやつどこやったんだよ!
魔王:あぁ、我が魔王のイスに戻ってきた時のこと……あ、玉座じゃ無くて王位のことね。
勇者:やかましいわ!
魔王:改革派の諸侯連中を根絶やしにしてこの城に帰ってきた時、荒れ果てた、この椅子に無数のレイスが群がってたのよ。
勇者:さらっと根絶やしにしてんのな。
魔王:魔王だから、復讐はしっかりやらないとね。
勇者:どうでもいいが。
魔王:それで、レイスは追い払ったんだけど、玉座は血でカピカピになってて不衛生だったから、まぁ捨てたよね。
勇者:いや、捨てんな! 捨てるにしても、ちゃんとしたのに買い換えろってんだよ!
魔王:いやいや、でもこういうのは結局ね~? デザイン性とか威光みたいなものに拘って、有り難がってても仕方ないっていうか、うん。機能美的な? 知り合いの魔王もリクライニングベッドみたいな玉座を部下にDIYさせてたしね? 時代はやっぱ機能美、そしてイノベーション。
勇者:反乱軍潰したやつの台詞とは思えねぇな。
魔王:権威もそういう利便性には完敗だよね~!
勇者:いや、玉座じゃ無くてお前が負けてんだよ! 名前通りマジで駄目にされてんじゃねぇよ!
魔王:てへぺろ。
勇者:……はぁ。キショいんだよ。
魔王:あら辛辣。
勇者:てか、んなもん全然機能美じゃねぇよ、だらしねぇしダセぇだけだわ。
魔王:え~そうかな~?
勇者:それのどこに美があるってんだよクソが。
魔王:しょうみ美しいとかはよく分からんけど、
勇者:分かんねぇのかよ!
魔王:うん、でもでも可愛くない?
勇者:……あのさ、さっきっからよぉ、お前の判断基準「可愛い」なのかよ?
魔王:そうだけど。
勇者:断言すんなカス。
魔王:え、可愛さって何においても大事じゃ無い?
勇者:知らねぇわ!
魔王:あ、でもほんと使い心地良いのは、マジだから。もうね、心地よすぎてレイスが昇天する勢い。さっきも言ったけど。
勇者:レイスが次々座っては消えていく椅子なんて……いや、椅子と呼ぶのも憚られるが、そんなもん、曰く付き以外のなにものでもねぇわ。
魔王:いっぺん座ってみたら分かるって! ほらほら!
勇者:座らねぇしわかりたくねぇわ!
魔王:え~なんでさ?
勇者:俺ぁ勇者なんだぞ! どうしてぶち殺す標的の魔王の玉座――かどうかは怪しいそれに座らねぇといけねぇんだよ。意味が分からんわ。
魔王:えー?
勇者:てか、そのレイスって、ここで死んだ奴らの怨霊なんだろ?
魔王:まぁ、概ね。
勇者:そんな奴らが、玉座(仮)に座りたがる気が知れねぇよ。
魔王:えぇ? なんで?
勇者:要は魔王と魔王に仕えてたやつ、あとは反乱起こした奴らか? どさくさ紛れで座るにしては、なんつーか不遜というか罰当たりというか、そんなほいほい気軽に座って良いもんか、それ?
魔王:さぁ? 基本的にあいつら喋らんしな。
勇者:あっそ。とにかく俺は座らねぇ。……てか、そうじゃねぇ! そこに直れ魔王! 俺はお前をぶっ殺しに――
魔王:あ、でも。
勇者:なんだよ!
魔王:なんか一体だけはっきり喋ったやつ居たわ。そういえば
勇者:はぁ? なんて言ったんだよ。どうでもいいけど。
魔王:「おかえり」
間。
魔王:訳わからんよな~。
勇者:…………。(釈然としない顔で)
魔王:言うだけ言って昇天したの憶えてるわ。
勇者:……それ、魔王じゃね?(ぼそっと言う感じで)
魔王:え? 何か言った?
勇者:いや。気付いてねぇんなら俺から言うことでもねぇよ。
魔王:あら不可解。
勇者:……っは! じゃなくて俺はお前をぶっ殺――!
魔王:あ、そういえば飲み物コーラで良い?
勇者:ああもう! 何なんだよ!
魔王:いや、だからコーラだって。……あ、もしかして、コーラ知らない? 異世界から来たシュワシュワする黒くて甘い爽やかな飲み物なんだけど。
勇者:んなもん知ってるわ! 勇者舐めてんのか!
魔王:あら心外。そんなつもりは無いんだけど~?
勇者:いや、さっきからてめぇ、俺のこと舐めてんだろ! コーラだと!? 酒だ。どうせなら酒持ってこい。
間。
勇者:あん? 聞こえなかったか? 酒だよ酒! 酒持ってこい! おい何だよ、何黙ってんだよ!
魔王:――おい。
勇者:あぁ……?
魔王:おい勇者!
勇者:なん……!?
魔王:貴様何を戯けたことを言っておる!
勇者:っは! 何だよ魔王? 命令されて腹が立ったか? 良いぜ。ならそのまま殺し合――
魔王:いや勇者よ、お前未成年じゃん!!
勇者:……は?
魔王:その歳でアルコールは駄目だって!
勇者:っは? いや未成年? ははは! 魔王が何言ってんだよ。てか俺16だしよぉ。
魔王:ばりばり未成年じゃん! こっわ! 最近の勇者こっわ!
勇者:っは! 馬鹿か? 王国法では飲酒オーケーなんだよ。まぁ、俺はもっと前から――
魔王:馬鹿はてめぇだぁ! すっとこどっこい!
勇者:すっとこどっこい!?
魔王:魔王領の成人は20歳! ここをどこだと思ってるお! 提供したら捕まるわ!
勇者:っは! 魔王のくせに法律にビビってんのかよ。ダッサ。
魔王:ダサいとかかっこいいで酒飲むんじゃねえよタコスケ!
勇者:タコスケ!?
魔王:一国の主が率先してルール破るわけ無いだろ! ボンクラ!
勇者:ボンクラ言うな!
魔王:それ以前に未成年者の飲酒は
①脳の機能を低下させ、
②肝臓をはじめとする臓器に障害を起こしやすくし、
③性ホルモンの分泌に異常が起きる恐れがあり、
④アルコール依存症になりやすくなるんだぞ!
勇者:なんで勇者であるこの俺が魔王なんかに説教されなきゃなんねぇんだよ!?
魔王:未成年飲酒に勇者も魔王も関係あるか!
勇者:いちいちうるせんだよ! ほっとけや! クソ魔王!
魔王:何だと!
勇者:てか、お前いくつなんだよ? コーラとか言ってたけど、酒飲めねぇの?
魔王:えぇ、我? 16……。おー! 同いじゃん! うぇーい!
勇者:なんで魔王がタメなんだよ!
魔王:奇遇だな!
勇者:いらねぇわそういうの!
魔王:故に当然だが、酒は飲まん。
勇者:
魔王:お酒は20になってからだ!
勇者:……はぁ、うっざ。
勇者、鞄の中から派手な色のポーションを取り出す。
勇者:ま、酒なんて無くったって、俺にはこれが……へへ。
魔王:ん? ……って、あ! おい! お前の持ってるそのポーション!
勇者:あ? なんだよ? お前にはやらねぇぞクソが。
魔王:駄目だよ! それ脱法ポーションじゃん!
勇者:へへへ、美味いんだよな、これ。
魔王:ちょっとちょっと!! ヤバイやつじゃん! 犯罪だよ!
勇者:はぁ? ちょっと裏で仕入れただけで、法には触れてねぇって。
魔王:王国でも認可されてないやつだろ! 魔王でも知ってるって! それ以前に体ぼろぼろになるって!
勇者:だからなんだよ? 今更じゃねぇか。お前なんかに俺の何が分かる! この俺の何が!
魔王:お、落ち着けって!
魔王、勇者に近付き触れようとする。
勇者:触んなぁ! キショいんだよ! さっきからてめぇよぉ!(魔王の手を振り払う)
魔王:……っ。
勇者:あぁもう……! うぜぇうぜぇ、うぜんだよ、敵のくせに、俺からこれ以上何を奪おうってんだ、俺を騙して何を……お、っぐぅ頭が……ぁ!
魔王:ほら、中毒出てんじゃん! 待ってろ、今解毒――
勇者:――らぁぁぁ!
勇者、剣を振り抜く。
魔王、躱す。
魔王:……っ!
勇者:くははははははは……!
魔王:あら、危険! 勇者よ、いきなり何を!
勇者:おいおいおいおい……。魔王さんよぉ、てめぇはてめぇで苦労してきたかも知んねぇけどよ、そんなもん俺には関係ねぇんだよ。憐れみか? 同情か? 謀略か? 何だって関係ねぇ! 俺だってなぁ、実の親に捨てられて、育ての親も失踪、クソみてぇな国のクソみてぇな街でクソガキ一人、クソ以下の暮らしだ。なんとか生きたよ。飲酒だ? 違法ポーションだ? つまんねぇこと言うなよ、おれは生きるために何でもやったさ。人に言えねぇようなこともよ。だからどうした何が悪い。善悪なんて知ったこっちゃねぇ。
魔王:勇者……。
勇者:勇者。っは! ははは、反吐が出るねぇ。何の因果か勇者だぁ? ふざけんじゃねぇよ! まだ俺から取り立てようってのか! クソッタレ! 畜生のクソッタレ国家に尽くして戦場から戦場へ。死地、戦場、地獄、地獄、死地、死地、戦場、地獄、地獄、地獄、地獄、地獄!! 終わらせてぇんだ! 楽になりてぇんだ俺ぁ!? でもこの世界に救いなんてねぇ! ねぇよ! よぉく知ってる! 幻想だまやかしだ夢物語の戯言だ! あるはずがねぇんだ! あるんならとっくに俺は……! っぷ! あ、あはは、アハハハハハハハハハハハッ! 呪う。呪う、呪うぜ呪ってやるぅっ! 殺す殺すぶっ殺してやる! 魔王も、ビチクソクソ国王も! 全部全部全部! あぁ……。はぁ……はぁ……。かぁさん、どこに居るんだよ、置いてかないでよ……、僕はここに……。
魔王:しっかりしろ勇者!
勇者:…………。ふふ、なぁ、おい、魔王さんよぉ、分かるだろ?
魔王:分かるか。
勇者:分かれよ? うぜぇな……俺にはこれが必要なんだよ、な? いいから、黙ってろ。
魔王:黙らない。
勇者:気に入らねぇならさ、殺せよ。魔王らしく。
魔王:何?
勇者:そういう運命なんだろぉ?
魔王:運命、か。
勇者:そうさ、俺がクソみたいな道進まされてんのも、お前が今目の前にいんのもそうだぁ。全部そういう風になってんだ。変えられねぇ、そういうもんだ。だから殺せ。でも、その前に、
魔王:何だ。
勇者:俺はお前を殺すけど、なぁッ!
魔王:っち!
勇者:
勇者を中心に衝撃波が生じる。
勇者:ははっ! なんだ避けるのか? 今ので逝っておけば楽だったのによぉっ!
魔王:あら凶悪! 良い太刀筋ではないか!
勇者:だけじゃ、無いぜ。
魔王:剣の軌道がっ! なら!
勇者:っは! これを読み切るか! 腐っても魔王か!
魔王:あーあー、腐ってんのはお前の体の中だよ。
勇者:観測系か……! 俺の中を、見るんじゃねぇ!
魔王:荒んだ生き方してんなぁ……。
勇者:余計なお世話だ!
魔王:回避不能、因果律干渉系か!? ならば、
勇者:伊達に勇者やってねぇよぉ!
魔王:意外に芸が細かいな!
勇者:そりゃどぉもぉ!
魔王:先読みと選択肢の幅を狭める技か。随分ねちっこい戦い方だなぁ!
勇者:ははっ! そいつが確実な勝ち筋だ、恨みならあの世でしろ。
魔王:はぁ、お前、呪いもかかってんのな。
勇者:呪われてるって言ったろうが。
魔王:そういう意味な。はぁ。この呪い解呪できないやつだし……。
勇者:俺はそうさ、生きている限り俺は――!
魔王:なら仕方ない、
勇者:どこに……!
魔王:ちょっと蘇生かけるわ。
勇者:蘇生だと?
魔王:あぁ、生きたままだとかからないから、いくら死んだような目をしててもな。
勇者:余計なお世話だ。
魔王:余計なお世話だから、ちょっと殺すな?
勇者:っは! 俺を殺すだと? そんなことが――、
魔王:救いよう無き彼の者に
勇者:――っ!
勇者を黒い霧が包む。
勇者:うっ……くはぁ……!?
勇者の意識が消失する。
魔王:そして
勇者:――っかは!?
魔王:あ、お帰り~!
勇者:な! お前、何を!
魔王:いっぺん殺して蘇生しただけだけど。
勇者:いっぺん殺して蘇生しただけ!?
魔王:あぁ、もう剣は下ろして良いよ。戦いは終わりだって。
勇者:終わり……、終わりだぁ……? ふざけんな! 俺の戦いに終わりなんて……!
魔王:いや、そういうのいいから。てい!
魔王、勇者の額にチョップする。
勇者:ぐは!
魔王:命取り合う戦いとか飽きた飽きた。
勇者:なっ!?
魔王:で、どう? 体軽くない?
勇者:軽いだと……? ……痛みも、頭のモヤも……、そんな馬鹿な! 俺にいったい!?
魔王:ふふふ、ついでに祝福かけといたから!
勇者:祝福……? お、お前、魔王だよな? どうして祝福なんて、そんなの神にしか使えないんじゃ無いのか、お前はなんなんだよ!
魔王:魔王だよ。あぁ、でも、そういえば名乗ってなかったな勇者よ。我の名前はアリア・ルーリエ・ストケシア。
勇者:…………?
魔王:まぁ、聞いたこと無いよな。齢16で即位して二ヶ月の無名だし、我。
勇者:二ヶ月……?
魔王:そう、新米。だから。今のは何か曰くのある魔王の振りとかじゃ無くて、ただの名乗りみたいな。
勇者:そんな魔王に俺は……!
魔王:さておき、祝福が使える理由なんて俺は知らないね。まぁたぶん、魔王を駄目にするソファの副作用とかそんな感じ。
勇者:いや、そんな訳無いだろ!?
魔王:まぁ、そんな訳無いよな~。ふふふ。
勇者:お前、俺をからかってるのか! 敵である俺に恩を売って何がしたいんだ!
魔王:からかってなんて無いって。ただ、お前も言ってただろ?
勇者:俺が何を……?
魔王:運命だって。
勇者:運命……?
魔王:酷い目に遭う運命で、我と殺し合う運命だった。
勇者:ああ。
魔王:殺し合い、そして勇者よ。お前はさっき一度死んだ。だからもうそこに運命なんてもう無くて、自由なんだ。そんな感じで良いんじゃ無いか?
勇者:何だそれ。意味分かんねぇ、意味分かんねぇよ。
魔王:なら、それをこれから考えていけばいんじゃね? 人生は長いんだし。
勇者:……適当だな。まぁ、もう別にそれで良いわ。疲れた。
魔王:いいのか? 適当だな。
勇者:うるさい。
魔王:なんか、カドが取れたな。
勇者:お前が言うように、運命……いや、呪いが解けたからじゃないのか。
魔王:呪いね。ま、そういうことにしておこうか。
勇者:でも、お前こそどうなんだ。どういう運命なんだよ? 俺に世話焼く道理が分からん。
魔王:…………。
勇者:おい、聞いてんのか?
魔王:……ふふ、ああ、そんなことか。
勇者:そんなことだと?
魔王:ま、これからはもっとちゃんと生きろよ!
勇者:おい!
魔王:うん、じゃあ取り敢えずコーラでいいか?
勇者:コーラだぁ……?
魔王:飲み物、コーラで良いよなって聞いてんの。
勇者:今更コーラなんて……。あれ?
魔王:ああ、例のポーションなら全部叩き割っといたから。無いぞ
勇者:いつの間に……!
魔王:あんなもの、お前にはもう必要ないだろ?
勇者:……そう、だな。はは……。ああ、俺にはもういらない。
魔王:よし! その意気だ! ……あ、おやつポテチでいい?
勇者:ポテチ……? な、何でもいいけどよ……。
魔王:あー、そうだ! そういえば一応昨日の作り置きの唐揚げあるからもしあれだったらあっためてくるけど? てか、お腹空いてる? ご飯作ろっか?
勇者:いらねぇよ、そこまでしなくていい。
魔王:長旅だったもんな~! やっぱ腹減ってるよな!?
勇者:減ってねぇよ。
魔王:ほんとに~?
勇者:それにたとえ減ってたとしても、敵に飯振る舞われて、じゃぁいただきますなんて出来るかよ。
魔王:そっか、まぁそうだよな。……あ、じゃあ飯の前に風呂入る?
勇者:どうしてそうなる!?
魔王:やっぱ泊まってくよな!?
勇者:待て待て待て!
魔王:何? 急に泊まるなんて迷惑なんじゃないかって心配してる? あら真面目! 勇者は!
勇者:真面目だぁ? っは! 俺のどこが真面目なんだよ。
魔王:う~ん、……雰囲気?
勇者:はぁ? 雰囲気?
魔王:どことなく真面目って言うかさ、一目見て悪いやつじゃ無いなーって思ったもん。
勇者:は、ははは。
魔王:どした? なんか楽しいことでもあった?
勇者:いや、別に。ただ、そんな寝ぼけたこと言うやつ、今までに居なかったなと思ってよ。てか、死んだ目とか言ってたくせに。
魔王:まぁ、目は死んでたけど。
勇者:うるせぇ。
魔王:ふぅん、友達とか居ないの?
勇者:居るように見えるか?
魔王:見えないな。ふふふふふ!
勇者:やかましいわ。
魔王:実は俺もいないんだ。
勇者:あっそ。
魔王:だから、これからは俺が友達な。
勇者:っは! 魔王と勇者が友達?
魔王:何かおかしいか?
勇者:おかしいに決まってんだろ。互いのこともよく知らねぇのによ。
魔王:そっか? うーん、そうだな。
勇者:呪縛から救ってくれたことには感謝してるよ。だが、それでも俺達は敵同士だ。馴れ合いはよせ。殺しづらくなる。
魔王:あー。言っては悪いが……、
勇者:何だよ。
魔王:我に勝てると思うか勇者?
勇者:っは! ああ、分かってるさ。だがそれもまた運命だろ? 後腐れ無く決着付けようぜ。
魔王:それもまた運命、か。呪いが解けても尚その言葉を使うのか?
勇者:そういう運命なんでな。そう簡単には捨てらんねぇよ。不幸な過去も、そこにあった少しの幸運も、な。
魔王:ふふふ、ああ。そうかも知れんな。良いだろう。ならばお前の覚悟、確と受け取った。決着をつけようではないか。
勇者:そうか、すまねぇな。じゃあいくぜ。俺の本気、見せてやるよ――!
魔王:ああ、待て待て。
勇者:……っち、なんだよ? 良い流れだったのに。
魔王:流れって。お前、運命信奉してるの含めて、賭けとかもやってそうだな……?
勇者:悪いかよ?
魔王:……はぁ。まぁいい、それは追々、だ。
勇者:追々って何だよ?
魔王:さておき、場所を変えよう。
勇者:場所だぁ? ……ああ、悪い、さっきのでここも随分滅茶苦茶にしちまったもんな。
魔王:いや、良いって良いって。こんなの直ぐに元に戻せるから。
荒れていた部屋が元通りになる。
魔王:よし、こんなもんかな。
勇者:……今、何した?
魔王:この部屋の時間戻しただけだけど。
勇者:……マジで勝てる気しねぇわ。
『ピロリン♪』という音が鳴る。
勇者:な、何の音だ?!
魔王:ふふ、準備が整ったようだな。
勇者:準備?
魔王:さ、ついてこい。
勇者:どこ行くんだよ?
魔王:どこって、風呂だけど。
勇者:風呂!? さっき断ったよな。
魔王:あぁ、ごめん。遠隔で湯沸かしの魔法発動しててちゃんと聞いてなかった。何だっけ? まぁいいや。さっき湧いたから早く行こうぜ。
勇者:さっきの音それ?! 何そのふざけた魔法!
魔王:かわいくね?
勇者:もういいから、そういうの! いや、入らねぇって言っただろ!
魔王:……いや、あのさ勇者、ぶっちゃけていい?
勇者:何をだよ。
魔王:お前、相当臭いからな?
勇者:んなっ!?
魔王:長旅だったもんな~とかちょっとぼかした言い方したけど、ぶっちゃけ、うん、相当きついよ。もうね、獣。
勇者:獣!?
魔王:あとちょっと死臭する。グールみたいな。
勇者:それはお前が一回殺したからだろ!
魔王:あら納得。ふふふ、ま、そういう訳だからひとっ風呂浴びようぜ。
勇者:いや、戦い! 戦いは!?
魔王:焦るなって戦いだろ、うんうん、風呂上がったらちゃんと戦うって~。
勇者:ほんとだろうな。
魔王:我が嘘つくと思う?
勇者:思うわ。
魔王:あら心外。でもそうだよな~。まぁでも、うーん、あ。そう、これは約束だから。魔王として約束は違えんよ。
勇者:本当だな……?
魔王:ああ、魔王に二言は無い。
勇者:はぁ。……分かったよ。風呂でも何でも入ってやる。
魔王:よっしゃぁ!
勇者:そんなに嬉しいのか?
魔王:もちろんだとも!
勇者:変な魔王だな。
魔王:ふふふ、ずっと夢だったんだ。
勇者:夢?
魔王:友達とお風呂入るの。
勇者:……ふぅん。って、まだ友達だなんて認めてねぇぞ!
魔王:ほぅ、まだ?
勇者:……! 言葉のアヤだっつうの!
魔王:ま、そういうことにしておこうか。ああ、そういえば、大事なこと聞き忘れてた。
勇者:大事なことだぁ?
魔王:名前。
勇者:名前? 俺のか?
魔王:ああ。
勇者:そういえば、名乗ってなかったな。ネヴァ・エレムルス。これでも一応勇者だ。
魔王:ネヴァ。良い名前だ。
勇者:そ、そうか? 俺の母ちゃん、育ての親が付けてくれたんだ。
魔王:ふふふ、それは素晴らしい。では改めて、我はアリア・ルーリエ・ストケシア。これでも一応魔王だ。
勇者:やっぱ、魔王っぽく無いな。
魔王:考えたことは無かったが、言われてみれば魔王らしくない響きかも知れぬな。
勇者:名前というか全体的にな。
魔王:ふふふ! 言いよるわ。さて、では行くかネヴァ! うちの風呂はでかいぞぉ!
勇者:名前で呼ぶんじゃねぇよ!(ちょっと嬉しそうな感じで)
魔王:ああ! 分かった! 早く行こう! ネヴァ!
勇者:分かってねぇだろうが!
魔王:分かってる分かってる! そんなことより早く早く!
勇者:行くから引っ張るなよ! あ、でも、風呂上がったら戦いだからな!
魔王:あぁ、風呂上がったら一緒にコーラ飲んで、その後は思う存分戦おう!
勇者:おう!
魔王:スマブラで!
勇者:スマブラかよ!
魔王:さ、一緒に行こうネヴァ。
勇者:はぁ、なんなんだよ、全く。
勇者:――まぁでも、待ち受けてるのが、こんな運命なら、案外悪くねぇのかもな。
魔王:何か言った?
勇者:なんでもねぇよ!
魔王:そう? あ、ネヴァ。
勇者:何だよ、魔王アリア?
魔王:アリアで良いのに。
勇者:っは!
魔王:旅のこととか、昔のこととか教えてくれないか? お前のことをもっと知りたいんだ。
勇者:……別に良いけど。
魔王:やった! じゃあまず――
◆◇◆
孤独の魔王とヤサグレ勇者。 音佐りんご。 @ringo_otosa
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