83 二の舞
「
「お前、それは話が違うだろうが!」
騎久瑠が梶火を
「わかってる。わかってるんだ。騎久瑠、済まん。
「そんな事は分かってるよ! でも、なんで先に私らに言わなかった⁉ 親父と話がついてりゃいいって、それはっ」
がん、と騎久瑠の拳が梶火の肩を突いた。
「――それは、私に対する最大の
梶火は、苦しさを隠さない顔で首を横に振った。
「騎久瑠。済まん、わかってる。――だが、これは臨赤の宗主としてじゃなく、
あまりに重い梶火の言葉に、食国も
「梶火――それは、どういう事なんだ?」
梶火は
「――食国、他の事は、民の安寧な暮らしの約束を
その取り
梶火の
そして食国もまた理解する。かつて臥雷が言った、本心が違った場合土壇場で
「俺は、
「どういうこと?」
「いいか。瓊瓊杵の力である
「――なに?」
悟堂がびくりと顔を上げた。その顔はそれまでの静けさを
「梶火、お前、それどういうことだ」
壇上から降りた悟堂と梶火が間近に対面する。かつては大きく体格差のあった二人だったが、今やその上背に大きな差はない。寧ろ八年の眠りで
相互に、その変化に、歳月の重さを痛感した。
梶火の眉間に深い皺が刻まれる。
「あの
そこで悟堂が一歩踏み出した。顔色は青色を超えて既に紙の如く白くなっている。
「待て、いま、帝壼宮からと言ったか?」
「ああ。言ったよ」
「何故
ぎり、と梶火の歯噛みが響いた。
「――青がこの八年、どんな目に合ってきたか、てめぇ知らねぇだろうが」
食国は息を
「ちょっと待て、かじ――!」
「八年前の火災の責任をとって
「―――なん、だと」
「瀛洲邑長としての心得、作法、最低限の知識、それから帝壼宮での礼法、立ち居振る舞い、そんなもの、何一つとして知らないまま放り込まれた。青の教育係に付けられたのが
「梶火、それは」
ぎり、と握りしめられた拳が、梶火自身の心臓の前で震えていた。
「――
――しん、と間の空気が冷えた。
「知っていたんですね」
食国は眉間を険しくする。
「ああ。知っていた」
「どうして、黙っていたんですか」
あまりに
「確かに、迷った。――口に出すのも
ぎり、と歯を食いしばる。
「――今のお前に、熊掌の
重い――重すぎる沈黙が垂れ込めた。
梶火は、小さく苦い溜息を
「いいか
「……
「そうだ」
「――そうか。わかった」
梶火は苦々しく舌打ちした。
「テメェらの間に何があったかはもう聞かん。しかし、テメェの不始末で青が巻き添えを食った気分はどうだ。ちっとは
自分達の寿命から比すれば、
つもりだった。
今、梶火が、白の遺児が、そして
しかし
そして、
梶火は、
ずっと
信じる事が間違いだとは言わないし思わない。しかしそれは、信じる物が共通するという共同体においてのみしか機能しないのだ。それは倫理でも規範でも何でも構わない、同じ事だ。梶火を
しかしそれは同時に、種が同じでも理念が通じなければ、それは絶対的な断絶となって
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