66 違い
間髪入れぬ
「
「うん」と薄く咳払いしながら、隋空は自身の口の
「僕の知る限り、
梶火は余計な
「君の場合、それが八年前の
「ああ、そうだな」
「鸞成皃とは、これまでに二度接見した。あれは実直で
「――ありがたいと、そう思っているよ、心から」
『
しかし、それも結局は自らの手で終わらせてしまった事である。その悔恨を忘れたくて、為すべきに没頭した側面は否めない。
と隋空が
「――すまない。ありがとうね」
梶火が横に首を振ると、隋空は「ふふ」と笑った。
「ねえ梶紫炎」
「なんだ、水か」
「いや、ありがとう。そうでなくね……君と
「……違い、か」
「うん」と隋空は首肯する。
「君は
ごほり、ともう一つ咳払いをした。隋空の目が鋭さを増す。
「――しかし
隋空の手の中で、手巾が握り潰される。
「――あれは君とは違って、手段を選ばない。あれが世に名を
梶火は、歯噛みして首肯した。
「
隋空は眉間に皺を寄せながら「うん」と頷いた。
「この時、仙山は二万あった兵を一万五千以下にまで減じている。その大半を失わせた
ぐ、と梶火は歯噛みした。改めて聞くと、その重さが肌と神経を逆なでにする。
隋空の目が、じっと虚空を見つめる。
「鸞が仙山と結んでいた事を知った上で、やらせた
「――勘に頼って生きてきた。騎久瑠にも、よくそう言って聞かせてきたらしいな」
梶火は、頭をざりと撫で上げると、深い溜息を吐いた。
「――わかるよ。事実、鸞成皃の率いる禁軍はべらぼうに強い。あれが率いる麾下が強いのか、指揮を執る奴が有能なのかは知らんがな」
ふう、と閉ざしていた瞼を開く。
「やつが
「阿琴も、そう言っていたよ」
梶火は難しい顔をした。
「あの隊は精鋭
苦い嗤いが口中に広がる。
「
沈黙が室内に満ちた。
天の座が変わる。それはもう間違いないことだ。しかし、
「なあ、隋空。俺にも無論打算はあるさ。でもな、あんたの言う通りだ。俺は、もうこれ以上民や仲間を
「ああ」
隋空は僅かに吐息を漏らした。
「僕達には長らく、結局は死なぬという自負と思い込みがあった。僕らの命を
隋空はそこで一呼吸置いてから「だけれどね」と続けた。
「それが、
「ああ。正しくその通りだ。八年前に決起した時に、
梶火は苦い顔をして溜息を吐いた。
「恐らくだが、
隋空は微かに俯くと、口元を拭った。
「その後も、やはり発覚した事実が
梶火は無言で再び背中を丸めた。
「民意を得るには、これ以上にその擁立を妨害するものはない」
隋空の目が、じっと床を
「――
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