67 原因
「ああ。
「そうだよ。もう彼等は、方針を
「――鸞の奴は
「今
梶火は首肯した。
「そういうことだ。現在の白浪は再び身動きが取れない状態になった。幸か不幸か、
梶火は両の拳をぐっと握った。
「もはや重要なのは玉座そのものではなく、実質の天意を掌握できた者が誰か、だ。――覇者が誰となるのか、それを決められるのは、実際に動いた奴だけだ。天意は民意。民がこれを見誤れば、国は外から崩される。この隙を狙っているのが素戔嗚だ。一瞬の隙で全てが終わる。俺は人民の命を軽視しない者に覇権を
大きく息を吸い込み、吐いた。
「――俺個人としては、ただ
隋空は、
「君の考えと意向はよく分かった。
「ああ。目覚めに関しての事だ」
「目覚め、妣國の」
「そうだ。あんたの奥方と騎久瑠、それに
隋空は、ゆっくりと数度首を縦に振った。
「そうだね。本当に、あれは助かったよ」
「あんたアレに何か心当たりがあるんだろう?
「そうだね。何から話そうかな……」
しばし逡巡してから、梶火は口火を切った。
「俺は――
二人の視線がぶつかる。
「――あれは、
隋空は「ふふ」と笑った。
「恐らく、それであっていると思うよ。妻と娘が助かったのは、摂取したのが天照の精気だったからだと僕は推察している」
「八咫の、って事だな?」
「そう。ねえ
梶火は苦笑しながら、再び頭をざりと撫で上げる。
「そうだったな。まあ過去に対して、タラレバは言うべきじゃねぇな」
「そうだよ。
隋空は、ここにきてほんの少しだけ、やっと表情を
「君も承知の事だろうけれど、
梶火は首肯した。当然臨赤の内でも知られている事だ。
「相互に血肉を
「うん。こちらや
「ああ」
「
「つまり、八咫の血肉を摂取した連中が、また誰かに血肉を譲り渡し、そうやって助かった奴等が増していった――ということか」
「僕はそう見ているよ。助かった者や持ち直した者達の発生した地域を調べさせたんだ。結果は僕の推論を肯定してくれた。仙鸞が動いた場所を中心として、それは波紋のように分布していた」
隋空は、緩く握っていた両の掌をぱっと広げて見せた。短い指が表情豊かにその動作で妙を伝える。
「彼は、多くの民を巻き込み、自らのせいで失わせたと思っていたようだが、彼が動いた事でその命を救われた者の方が圧倒的に多かったんだよ。――それを知る
「
顔を見合わせて笑った後、梶火はそれを真顔に戻した。
「あいつは、
「うーん、正直難しいところだよね。僕の知見の範囲ではわからない」
「道を繋げたのは
「種が焼け切れている、というあれだね。――うん。力が彼の内に発生した事に関しては何も言えないけれど、彼が格を失した理由ならば薄々検討はつく。僕の推察でよければ聞くかい?」
「頼む」
「彼は、天照の男児だね」
「ああ」
「片や、白の遺児は素戔嗚の直系だ。天照と素戔嗚は姉弟で、瓊瓊杵はこの両者の天孫に当たる。その種が重なった、という事が重く作用したんじゃないだろうかね」
「つまり」
「種が濃くなり過ぎた、ということだろうね。
「結果、焼けた、と」
「近すぎる種同士で混じり合えば、子に受け継がれるものも重複してしまう。そうすれば子の命は生まれる前に壊れてしまうんだ。それは
梶火の眼裏に、遠い日の少年の彼等の姿が
「梶紫炎。もしかしたら五邑にはわかりにくいかも知れないが、僕らにとって種に触れるというのは、正確には繁殖行為そのものを意味しないんだよ。妣國の民は補食によって種を混ぜる。姮娥の民は自身の肉体に保持している
梶火は眼を見張り瞬いた。
「種石?」
完全に初耳の事だった。
「そう、種石。つまり核だね。姮娥は繁殖行為によっても子は成されることがあるが、基本的にその確率があまりに低い。だから子を求める目的で行うのは、繁殖行為ではなく
「……じゃあ、交が成ったというのは」
「それこそ核の移譲が為された間柄かどうか、という事だよ。ああ、確か姮娥の場合の交が成ったと、君達のそれとは指す事象が違ったね」
「――え」
「五邑の場合の交が成った、というのは、相互に相手を唯一の伴侶と魂が認めた上で種が接触した場合にのみ発生する誓約のようだね」
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