63 名を成す功より実を尊ぶ
――先月、
移動には
要は、総意である。
例の大市が開かれる谷間に入り、そのまま
そこには既に大隊の兵が控えていた。この先は小規模の
やはり、二、三の集と当たった。梶火が手を下すまでもなくこれは容易に破られる。戦闘の後はその場に兵の一部を残し、敵味方の別なく
大隊は、やがて
神州に入り一昼夜を
「遅くなった」
梶火の言葉に全員が顔を上げる。見慣れた麾下たちだ。
最早名乗りを上げるまでもなく、臨赤は
偶然ではある。
しかし偶発の目を見やすい
そして
と、言う事だろう。
両陣営が機動に秀でるとするならば、
禁軍の内にも臨赤の者が三桁程いる。わざわざ間諜を放つまでもなく、禁軍の兵が臨赤に自ら加わり
名を成す
梶火はまず赤玉に参拝した。香を捧げて印を結んだ後、
「報告を」
「は」
眼鏡をかけた一人の麾下が、おだやかな表情で書類をめくりながら軽く
「
発せられた
「
「念のため全域を当たらせました。隠れ住んでいた者が二百程。全て移動を希望したため、神州に移してあります」
「二百人も生き残っていたか……よく探してくれた」
ゆっくりと首肯し、
「移動の護衛に要する兵は」
「万もあれば」
緑色の目をした鎧姿の凛々しい偉丈夫が拱手しつつ答えた。
梶火は首肯して見せてのち、
「東側は」
「ああ、はい。全て抜かりなく済んどります」
こちらは
他の者からも担当している地域の状況を聞き及ぶと、梶火は「わかった」と大きく頷いた。
麾下の面々が梶火の下に付いてくれた理由も、梶火に望む事も
しかし梶火は、自身の役分が
梶火は一堂に会した皆の顔を見まわすと、静かに
「みんな、ほんとうに、ありがとう」
ゆっくりと表を上げると、麾下達の視線が梶火を強く射抜いていた。梶火は微かに声を張った。
「これから臨赤は、この存在を表に出す。白浪との交渉次第で我々が何れの集とどれ程の強さで結ぶかは多少変わるかも知れんが、天が動いた事に変わりはない。
この会合を経たのち、梶火は百人隊と共に
ぎらりと再び海面が魚影にさざめく。
また知らぬ間に俯いていたのだ。
梶火は目頭を押さえると、今度は無意識にではなく、鋭い目で眼下を見下ろした。間もなく海を抜ける。この先、
己は結局、人と機会に恵まれたのだ。頼まずともこの道中には
報いてやらねばならない。
素知らぬような顔をしているが、彼等がどれだけ苦渋を舐めてきたのか、今の自分はもう知っている。梶火としての自分はどうしても熊掌を、そして瀛洲を優先したいが、臨赤の長としての自分は、もう誰一人として無駄に死なせたくない。
この八年、自分達が目指してきたものは、形になった。
この眼で見ていないから実感はないが、それは熊掌達に確認させればいい。自分は、今自分が為さねばならない事に集中する。全てが成し遂げられれば、きっとそれは後に目にする事ができるだろう。
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