48 盲点
『環』足り得る。それ
それは、己の肉体を「死を
脳裏を
そして、今長鳴の隣に座す
安全な場所にいたのは己だけだ。ならば、ここで
ようよう腹が決まってから、長鳴は苦笑交じりに眉をしかめて見せた。
「――確かに、大将軍からは兄の代役を務めるよう伝言をいただいております」
「ずいぶんと
「まったくです」
間髪入れぬ長鳴の返しに、両者
水泥はその手から刀を離すと、改めて姿勢を正した。
「
「ああ、つまり、この段階で瓊高臼を出し抜いて帝壼宮に運ぶはずだったと」
水泥は頷いた。
「そういうことです。大将軍から報せがまだ来ていない以上、現在『
そこで長鳴が「あ、そうか」と声を発した。
「大師長は贄の『環』を手にしているのか……」
「そうです。だからこそ、これ以上『環』を月桃の手に渡す訳にはいかない」
八重が、ふと真顔になった。
「あの、すんません」
「はい」
「うちの頭ではもうちょっと、話が難しすぎて、追い付けとらんのですが」
「正直な話、僕もかなり混乱はしています」
夫妻の困惑顔に、水泥は
「ご無理ありません。――では簡潔に、何が最も
「壊滅させたろと、……そういうことですか?」
頬を引き
八重は盛大に顔を
「いややもう信じられへん……」
「ええ、本当に」
「信じられへんのは、それをあんたが笑って言うとるところなんやけど」
「おお」と思わず水泥も半笑いになる。
「それは……重ね重ね申し訳ありません」
「もう、かまへんけどな……」
ちらと指先を下げて
「国土全域の崩壊など、
長鳴は自身の口元を
「――これは、難事だ」
「はい。とてつもない難事です。――ああ、それからもう一点、肝心な事をお伝えし損ねていました」
「肝心な事、ですか」
長鳴と八重が同時に瞬く。
水泥は、ゆっくりと息を吸い込んだ。これは、もう伝えていいだろう。
「はい。これも蓬莱の書に書かれていた事です。――曰く『
長鳴は目を見張った。
「太陽へ?」
「はい。天照とは太陽の事ですので。
「――そうか。国土破壊
「そうです。しかしこうなると
長鳴は「少し待ってください」と言って、腕を組んで黙り込んだ。八重が申し訳なさそうな顔で頭を軽く下げた。
「すんません。この人こうなると長いんです。半日とか平気で固まるんですわ」
「大丈夫だよ、
それでもかなりの長考を
「――ええと、異地との誓約に従い、赤玉と白玉を元の通りに交換するためには、やはり
「そうですね」
「それはつまり、
「そうです」
「――素戔嗚を捕縛できるのは五貴人に限られるとされたのは、恐らく彼等を
その頓狂な声と共に、長鳴が腰を浮かした。
「――そうか! 必要なのは『環』か! 他の邑人からも『環』を生成し得る事を今の僕達は知っているけれど、それはこの五百年の民の増加と歴史があったが故で、当時の異地はそんなことになるとは認識していない。だから素戔嗚を捕らえられるならば別に誰の『環』でもよくて、絶対に五貴人じゃなくてはならないわけではないかも――知れない? ん? 違うか?」
水泥は――硬直した。
「――そ、うですね。そこに関しては、我々にもそういう解釈はあります」
水泥の身体が震える。完全に――盲点だった。
五貴人が贄を得ることで不死者となるのは結果論だ。その帰還が真実必須であるかどうかは
梶火に対しては、五貴人の不死化と、彼等を素戔嗚と共に帰還させる事が異地の帝の本懐であると説いたが、もしかしたらそうではなかったのかも知れぬ。
最初に不死化を見抜いたのは、
血の気が引いた。誤り――だったのかも知れぬ。
帝の真意が知り得ない以上、全ては推測の域を出ないことだが、五貴人の帰還が必須ではないのなら、赤白の再置換も、寶刀による『環』の断切で事足りるのだ。
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