41 従兄弟
「確かに……」
梶火は小さく咳払いをした。
「――長らく違和感はあったんだ。そもそも、いくら
「そうですね……ぼくも今
梶火は苦い笑みを浮かべた唇を、自身の親指で
「ああ、まったく
「どうでも良い……ですか?」
「ああ、無価値無害と言っていいだろうよ。俺等自身を
「……たしかに」
「異地からすりゃあ安い対価で大物を要求できてお得な買い物だったろうよ、まったく
「――
ぼそりと
梶火は、再び一つ咳払いをする。
「……なあ
梶火の問いに、一瞬だけ詰まった。
「――はい。それが八咫と仙山の結論です」
「目的が
「――わざわざ不死者として黄泉返らせたものを、そのまま
「寿命の異なるものの混入は争いの元ともなるぞ。
「
「ああ……それは、確かにそうか……」
水泥は手綱を強く握り直した。
「しかし、望んだところでこれも
そこで梶火は顔を
「だからと言っておいそれと乗り込むような場所でもあるまい……簡単に言ってくれるが、あれは敵の本拠地だぞ」
最もな指摘に、しかし水泥は視線を下げてぽつりと零した。
「――
「贖罪?」
「
水泥と梶火、両者の脳裏に、
彼は、一度進みだしたら決して引き返せないのだ。
「……梶火は、目覚めの事はご存知ですか」
梶火の眉間にぎゅっと皺が寄せられる。
「――ああ。
「ええ」と水泥は首肯する。
「あの目覚めで、仙山の多くの仲間が共食いにより死にました。あれは流れが悪かったのだと、ぼくは考えています。遺児奪還の策を失した時と目覚めの過剰発生が重なったのは偶然に過ぎません。しかし八咫は自らの
「あいつ、あれを自分のせいだと思ってやがったのか」
「思う以上に自罰的なのです、彼は。――出奔間際に父親が死に、それを捨て置いて出て来た負い目がある」
「ああ……」
「一度やると決めた行動は撤回できない。しかし、彼の目は、一度見た物は絶対に忘れられない」
梶火がぐっと詰まる。
「それは」
「――父親の遺骸を見ているのです、彼は。父の
暫時の間をおいてから、梶火は苦く口を開いた。
「これは、俺が
「はい。それはぼくも聞いた事があります」
「それから、目覚めというのは、
「はい。しかしそれが具体的にどういったことかまではぼくは知らな――」
「俺は――」
水泥の言葉を
「俺には、心当たりがある」
「え」
水泥が顔を向けると、梶火はその視線を太陽へと向けた。
「瀛洲の長は、八年前から――その身から
水泥の馬が、騎乗する主の動揺を読み取ったか、ぶるると鼻を鳴らした。
「――なん、今なんと言いました?」
梶火は厳しい表情で太陽に向かい言葉を続ける。
「瀛洲の邑長、
「――は?」
「代わりに、
梶火の眉間に、深い皺が刻まれ、水泥は息を吞む。
「八年前、長の身にある事が起きた。恐らくそれを契機として天照の命令と許諾が成立し、結果として目覚めが始まったと俺は考えている」
「それは、なんだったのですか」
「……すまんが詳しくは言いたくない。
やや沈黙を経てから、水泥は意を決したように口を開いた。
「
「何?」
「八咫もなんです。彼もまた
「ああ。それも臨赤で聞いた」
「ご存知でしたか」
「俺の心当たりの契機というものに、八咫は関与していないと思う。だから、恐らくは邑長の引き起こしたことに呼応した結果、奴も
「呼応――成程、そういう事も考えられますか」
「あの二人の共通点を、俺は一つだけ知っている」
梶火は、深く息を吸い込んだ。
「――あの二人は従兄弟だ。両者とも、母系の姓を
一瞬の内に、水泥の背中をざっと
「天照――八咫と、瀛洲の邑長が、ですか」
「ああ。あいつは瀛洲では
「そう、でしたか」
「邑長は、自分がその
水泥は眉間に皺を寄せた。
「すみません、あの、瓊瓊杵の、器、ですか?」
「ああ、俺もまだ話を聞いたばかりで飲み込み切れてねぇんだが……邑長
「……その、妻と言うのは、
「知っていたか」
「八咫が、白玉の名は
梶火が片頬を歪めて笑った。
「――あいつ、一体何時からそれに気付いてたんだ?」
「七年前には」
水泥の応えに「あああ!」と梶火は再びぺちりと自身の額を打った。
「畜っ生、やっぱり行かせるんじゃなかった! あいつが一番核心に近いじゃねぇか。そんな奴があちこちウロチョロすんなよ……!」
「まあ……
小声での指摘に、情けなくも梶火は眉尻を下げる。
「いやそれも分かってるけれどもな? 気持ちとしてこうな?」
「仙山で周りの反対を押し切って、単独で
「うっわ、あいつっ……マジかよっ!」
思わず手綱から外した
******************************
※
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます