27 生まれ変わるなんかできる訳ない
「思っていたよりは帰ってくるの早かったけれどね、さすがに待ちぼうけてしまったよ」
わざと軽い口調でそう言いながら、
ゆっくりと、保食は浩宇の側へと歩み寄ってくる。
やはり、どうしようもなく綺麗だと、そう思った。
「――遅くなって悪かったわね」
「冗談だよ。十分に早かった。こちらの片付けが終わる前に帰ってこられていたら自信満々で見送った僕の
にこりと笑いながら見下ろす浩宇を前に、保食は無言で襟元に巻いた
「おやおや、随分と悪趣味なところに」
「――脚や腕では、逃げられないとも限らないからな。奴からすれば」
「そんな言い方をして。全部聞かれているんでしょうに」
「利き手を配慮してもらえただけありがたいわよ」
ふ、と笑ったのは浩宇の方だった。
「さあて、保食、心の準備はいいかい?」
その問いに、保食はついに表情を険しくして「だから‼」と叫んだ。
「なんであんたはいつもいつもそうなんだ! あたしに聞くことじゃないだろ⁉ 心の準備がいるのはあんたのほうだろうが‼」
「ごめんね、僕が
「――ねぇ、なんであたしだったの?」
掌の下から問う保食に、浩宇は僅かに胸を痛めた。
でもきっと、それは只の気分だ。状況が見せたゆるやかな感傷だ。――そう思い込む事にした。
「そりゃあ、いけ好かない野郎に殺されるよりは、美人に引導を渡してもらいたいじゃない?」
厭そうに――極めて厭そうに顔を歪めた保食は、ばたばたと涙を落としながら、「あんたほんっとに
「ごめんね。最期までこんな馬鹿な男で」
二人は靴を
ちりん、と
「白玉、参る」
ざわ、と熱風が正面から叩きつけられた。浩宇は思わず
良いのか悪いのかはさておき。
しばらくして、その熱波が消えた。
浩宇が、かざした手を下げると、そこはいつもの石の壁の中だった。
四方を石の板で囲まれた、狭く暗い空間の中央には石の台があり、その中央に
保食がすたすたと歩み寄り、三方へと手を伸ばした。そして、そこに乗せられていたものをゆっくりと待ちあげる。
それは、とても美しかった。両掌で支えられる大きさの白く半透明なそれは、鎖に繋がれ
ふぅ、と瞼を開いて、ゆっくりとほほえんだ。
「長い間閉じ込めていてごめんね、白玉。――今から解放するから」
ぱたぱたと『
「
「うん」
「ごめん、梨雪達にはまだ会えてない」
「うん。わかってるよ」
「浩宇」
「保食」
「――ごめん」
右脇に下げていた剣に、保食は手をかけた。かちゃりと物悲しい音がした。
浩宇はゆっくりと微笑むと保食に背を向けた。
「僕こそ、君一人に抱えきれないくらいの重荷を背負わせる事になってしまった。今更
「悪い事したとか思ってたんだ、あんた」
「そりゃあね」
すらりと抜かれた剣が、柄を頭部に添えるようにして浩宇の脊椎にあてがわれる。微かな寒気が浩宇の背中を這い上がった。
「ねぇ保食。最期に聞いてもいいかな? 君、生まれ変われるってまだ信じてる?」
「――信じてない」
浩宇はふっと笑った。
「まあ、そうだろうね。ごめんね、古い話を――」
「生まれ変わるなんかできる訳ないじゃない。あたしが今から
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