26 虚しい
あの年下の
顔に大きな
そう見えるよう、振る舞える男なのだ。
彼等二人の関係は、見る事のなかった自分達兄妹の鏡のようにも感じられて、ただそれだけで浩宇は少し安らいだ。
それももう、
皆殺しである。
彼もまた
鵠は事あるごとに保食に粉をかけていたが、浩宇の眼からすればそれは妹を
保食は勘の鋭い子なので、その辺りの差異を敏感に感じ取ったのだろう。一切
白髪白
幼い頃から見知ってきた男だが、あれ程までに情動に身を
本気の
まあ、手に入らぬがゆえの執着か、とも思うが。
彼は常に
器の
無条件に存在を望まれ、お前だけだと肯定され認められる。――それは、禁断の快楽だ。一度それをその身に受け入れてしまえば、もう引き返せなくなる。
その拒否とは即ち、自らによる自身の価値の否定を意味するからだ。
つまり焦がれるとは、発するも受けるも身を持ち崩すものなのだ。
理屈など通らない。情動の
隠し切れなかったのは、
そうだ。保食と
浩宇は静かに空を見上げると、ふ、と笑った。
自分はいつもこうだ。周りの人間の事にばかり思考を巡らせて、ついぞ自身について
――恋情か、と笑った。
存在しなかった訳ではないのだろうが、恐らくそれを思考の
彼等の
太刀打ちなど、できるわけがなかったから。
この世に心残りが全くないとは言わないが、それもまあ、誰しも同じ事だろうから、引き際が見極められる分有難いと思い、それ以上考える事をよした。それが己のつまらない本音だろう。
砂を蹴る音がする。
馬だな。単騎だ。ざっと下馬した長靴の音が追って届く。崩れた壁の向こう側に人影が現れる。それは浩宇の姿を認めると、一瞬歩みを止めた。真っ直ぐな眼差しは、もう何の迷いも宿していなかった。
――ああ、本当にきれいな娘だ。
そう言われる事を嫌うのを知っているから、本人の前で口に出した事はないけれど。心からそう思った。
浩宇はやはり狐のように目元を細めて、ふふ、と笑った。
「やあ、保食」
保食は、無言のままそこに留まっていた。
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