21 真実
次いで、独断で
揺られる移送車の中、自身の脚が接合するまで、ただ沈黙を守り過ごす。璋璞のその目には、じわりとした自身に対する怒りが
器の候補であった
移送車の中で、
保食のあの言い様であれば、恐らく
――止めねばならない。
でなければ、正しく地獄の
つい数日前まで自身が腰掛ける場所に
国の為に身命を賭していたはずが、気付けばこの体たらくだ。民の為に働いていたつもりで民を苦しめ、武人として
全てがつもりに過ぎなかったのだ。
自身を嗤いながら、それでも
止めてはならないのだ。それだけは、決して赦されない。
これを投げては――投げ出しては、もう、民の生き伸びる道を取り戻せなくなる。
せめて急襲ではなく、きちんと先触れを出した上で器候補の娘を連れて行くという誠意は見せたいという、その思いだった。保食の泣き出しそうな叫びが、その顔が、
*
軽快に走る彼女の耳に、自分以外の馬が駆ける音が届いた。後方から一騎が迫りくる。
ちらと振り返り、その口元が厳しく結ばれる。
「
馬上より叫ぶ女兵士の顔を見るや、保食は馬の脚をゆっくりと止めた。
「――
「大姉。ご無事で何よりです」
「あなたこそ、
「最も危険な
「――あたしは、それだけの事を貴方達にしてきたもの」
「我々も、それだけの事を大姉の係累の方々に負わせてきたのです。お互いに職務を全うしたまでとはいえ、背負う荷が減る訳ではありませんし、正しい事だったなどとは口が裂けようが言いません。しかし向かうべき道が重なる今、そこに
毅然とした顔で言ってのける紅江に、保食は苦笑した。
「
「私も、
移送車の内から、保食の耳に彼女等の声は届いていた。
それを聞いた
白浪は月朝に使者を送り込んだばかりの状態だ。使者は実質人質と同義。その最中、領土の州城を陥落させるなどあり得ない。
「
「先に大師長の元へ報告に走りました。大姉が戻られ次第動かれるであろうからと」
「――ありがたい」
そもそも、保食と
保食は、ただ幸運だったのだろう。
「ところで、
「――単騎で追いついてきたので、馬ごと脚を切った。二日三日で回復するだろうから、車にでも乗せて
「見事に策中にはまってくれたようですね」
保食は小さく唇を
「――まさか、自身が籍を置く禁軍の大多数が既に寝返っているとは、いかな
そもそも何も起きてはいないのだ。
今回の事変に白浪の関わりは一切ない。彼等は何も事を起こしていない。そう。これは七年前の
保食が
璋璞の隊が一部なりとも
もし隊が追ってこなければ、鵠は道中にある補給地点にて数珠を千切る事なく捨て置き、保食の援護と救出に取って返す。その場合も、水泥はやはり仙山に鳥を使い報告する。
その後の水泥の出立を何時にするかは、保食に一任されていた。
保食は、その確認完了の時点で、
それは、死による離別の宣告と同義だった。
水泥は――『環』となるべく自ら東へ向かうのだから。
一方、
実際のところ、禁軍大隊はやはり仙山第二拠点へと進行していた。しかしそれは第二拠点を叩くためのものではない。大将軍に与しない隊――つまりは璋璞の率いる隊を捉える為のものだ。
全てはこの七年、
保食と紅江の二騎は、土煙を立てて先へと駆け続けた。
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