19 一騎打ち
*
誰も立ち寄る理由がないような荒野の
祠を前に、静かに膝を突いた。
それは、
大きな石を無造作に積んだだけに見えるそれは、内側には本来石が祀られているはずだった。当然
五邑の民も間違いなく理不尽な苦難を背負わされているが、最大の割を食っているのは
あそこまで追い詰めれば、さすがの月朝も看過できずに動くだろうと思われた。五百年に渡り
しかし月皇は動かなかった。
仙山は、
朝廷に比べ戦力の薄い仙山が用意できた最大の戦略は悪手となった。今、その結果が
州庫の補給優先も
積もり積もった憎悪が芽吹くのは瞬く間の事だった。
同罪だ。
我々は同じ罪を背負っている。民の為と
だからこそ、もう投げ出す事はできない。報いねばならないのだ。
保食は祠の内の
保食は、静かにそのさざれ達を見つめる。
これは、蓬莱の積み重ねてきた反逆の証だ。この一粒一粒が、
保食は蓬莱と仙山を移動する
蓋をし、板石を元に戻すと、合掌して瞼を閉じた。
ありがとう。行ってきます。胸中でそう
――ど、
と、頬の横を
それは、とてもゆっくりとした落下に見えた。
弓が放たれたと
雄叫びを上げながら近付く
「うけもちぃぃぃぃっ‼」
がん、と重い音が響く。保食は璋璞の振り下ろした太刀を真っ向から受け止めた。紛れ間もない殺意! そして敵に対する憎悪の発露。ああこれだ。何時も見てきた戦場の
そうだ。この男は、こうでなくては。
幾重にも重なる剣と剣のぶつかり合いに
保食の喉元を汗が伝う。
ふっと笑う。
「あんた一人か! よく間に合ったな!?」
「お主こそ、こんなところで悠長に暇をつぶす時間があるとよくも思えたものだな!」
再び振り降ろされた大刀を、保食は受け流すことなく真っ向から受け止めた。骨の髄まで痺れる重い剣技に、保食は――胸の内が
自分は、やはりどうしようもなく戦場にて血が
見た事のない先が見たい!
狼のような鋭い眼光でにい、と笑った保食に、
「――ねぇ、知ってた?」
がいん、とやはり重く固い音で、今度は保食が打ち下ろした刀を璋璞が受ける。
「あんたと戦場でやり合うのは、これが初めてじゃないってこと」
押し返された刀が保食の胴に向けて薙ぎ払われる。保食は刀を
璋璞はその表情を険しくする。
「どこかで剣を
保食は懐に押し込んでいた青い肩掛けを、ずるりと引きずり出した。勢いそのまま、ばさりと羽織る。
鮮やかな
「この青に見覚えは?」
璋璞は
襲い掛かるその鬼と一騎打ちになり、肝を冷やした事も一度や二度ではない。それがまさか、こんなに長く見知っていた娘が――傍で見守っていた娘が、その正体であったとは。
「あれが、お主だというのか」
「そうだ」
「――では、お主は
保食は獣の笑みを浮かべた。
「そうだよ! 何一つ命を産む事のない、戦うばかりが能の駄馬だ!」
「各地で起きていた民衆の反乱は、お主達がそれを装ったものか。ならば州城に襲撃をかけていたのもお主等だろう。――道理で腕の立つ者が多かったはずだ」
両者の間に、剥き出しの戦意が火花を散らした。
「これで、やっと決着がつけられるな、右将軍」
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