16 忸怩
*
状況としては
この辺りは――より危険なものが出没するのだ。
近年、
軍師もこれを放置している訳ではないが、手が及んでいない事は事実。あれは、反乱民とはまた違うもののような気が
いつ
目の前を行く移送車を見て、
――難題が山積し過ぎだ。
先帝
――恐らく、白浪は、素戔嗚が白玉に関わる事が
最悪だ。
その
あれは、広く
その宇迦之の産んだ
時が満ちぬまま、地獄の蓋が開こうとしている。
秘さざるを得なかった事が更なる秘事を呼ぶ。最早、
五百年だ。五百年を待った。本当はもっと早くにこの白玉の継承を終わらせる事ができるはずだった。しかし事はそう
自発意志で『
姮娥とは違い、五邑は直ぐに死ぬ。瞬く間に朽ちる。だから、同胞が救われるためには一個体が贄として果てるなど造作もないと――その程度の儚い命だと――姮娥は、高を
五邑の民も民なりに、その生にしがみついて当然なのだと――彼等もまた同じ人間なのだと――理解していなかったのである。
異地の帝との誓約が為らない限り、
己等の見通しが甘かったばかりに、無力であるが故に、その結果として、こうして白玉の継承をさせ続けなくてはならない。
――
彼女が仙山に加わっている事までは
しかし保食は動かなかった。
微かな涙と温もりを璋璞の胸に残しただけだった。
己の抱いたものは根も葉もない疑惑だったかと思わぬでもなかった。否、只の取り越し苦労だと、そう思い込みたかったのかも知れぬ。己は知りたくなかったのだ。動いてほしくなかった。知らぬままでいたかった。
しかし、事はもう
動いたのは、七日目の夜だった。
恐らく、あの夜は
湯浴みを終えて当然の刻限に、急に男に
思う以上に自分は
闇の中、璋璞の手を引く保食の手は――微かに震えていた。
それまで自分達は、のらりくらりと核心を
ぴしゃり、と音がした時に、璋璞の内は真っ二つに
一つは冷酷だった。この娘が隠しているものを暴こうとした。その肉体の
突如気を失ったのは誤算だった。気付けば邑長邸の
起き上がった自身の頸から、翡翠の首飾りがころりと姿を現しても疑問を抱かなかったのは、あれが
己は何をしているのだと心底自身を嫌悪し、褥の内で頭を抱えた。
湿り気を帯びた髪の香りと、吸い付くような肌に酔いからではなく
暗闇の中、色を仕掛けようとしてそこまでの覚悟もなかった娘の
三日目の夜に自身の胸に紅を塗り付けたのは、己はお前のものだという恰好を示す為の偽りに過ぎなかったのに対し、自身が彼女の胸の中心に赤い吸い痕を残したのは、確かにこれは俺のものだと主張したいが為だった。
――
そう、確かに保食はそう言った。吐息交じりに言葉が出ている事に彼女が気付いていたかは知れない。震える声はあまりにか細かった。確かに、己は狡いのだろう。彼女に己を所有させる気などなかったくせに、彼女は己の所有だと、そうあるべきだと心底思っていた事が行動に現れたものだからだ。自身の誠意と覚悟は与えない癖に、相手にはそれを
彼女の
結局、己は
それが、
常に引き返せる地点を探り、それ以上前へは進まずに素知らぬ顔で船に戻る。本当はこんな浅ましい男を、世は禁軍中最も徳と仁義に厚いと評するのだ。吐き気がした。
きっとこれからもこうやって己はこの道を進む。そして保食が白玉の器となり切り刻まれる様を黙って見送るのだろう。あの、理不尽な運命に対する怒りに光る眼を見詰めながら、
しかし。
甲冑の内に下がる石の丸みを感じながら、
別たれ難いという思いがこれ程までに強いとは思わなかった。この行動と不合理に名前を付けるとしたら、それは一つしかないだろう。そしてそれは、あまりに己に分不相応な、過分に贅沢な幸福と不幸だった。
砂煙を上げて単騎が
――それは、白浪により、
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