15 鬨の声
*
『
移送馬車の中、
詳しい製法は知らない。
他人の支配に『環』ほど手っ取り早く合理的なものはない。
酷く揺られながら、保食はゆっくりと眼を閉じた。
今回の
それは、
一堂に会した面々の前で、麻硝が立ち上がった。その頭髪は短く刈り上げられている。左腕は肘より先が失われ、更に左眼には眼帯が巻かれていた。
「『
麻硝の第一声が、そう高らかに告げる。
「皆も知っての通り『真名』は
麻硝が示した人物こそ、保食の隣に座す姮娥の民だった。皆の視線が向く中、彼はやや酷薄とも受け取られかねない笑みを浮かべて軽く手を上げるに留まった。
彼、というのも当然仮定に過ぎない。これは姮娥の民なのだから。
その彼の視線が保食に向けられる。どことなく、つるりとした冷たい視線だ。無関心――というのとは違う。そこには、どうでもいい、という強い意思が明白に含まれている。それを正確に表現するならば、恐らくこうだろう。
お前の命など、どうでもいい――と。
これにとって、己は
保食は、彼には目もくれず、ただ麻硝の顔だけを見ていた。その視線を感じるだけで、どうしても背筋にざわりとした悪寒が走るのだ。
麻硝が「すぅ」と息を吸い込む。
「これでやっと、白玉奪還作戦を実働に移す事が出来る。方丈の『
麻硝の言葉に、一堂に会した全てが首肯した。総勢十五名。その内には――
蓬莱の『色変わり』なき娘である保食の下へは、半年に一度、七日間、必ず禁軍右将軍である
長きに渡り禁軍においては
彼の上位である大将軍位が埋まったのだ。
この新たな大将軍というのが
その名を、
四年前、仙山と瓊高臼の間に激しい戦闘が起きた。その折に、
当時、仙山はまだ世に名を知られていなかった。皮肉にも
麻硝の現在の
とまれかくまれ、この大将軍は
事態に気付いた
白玉奪還成功のためには、
麻硝は再び全員の顔を見渡した。
「皆も既に承知してくれていると思うが、
しん、と議場が静まり返る。
「当然の事だが、この中で最も難関となるのは方丈の『真名』だ。
議場内より
がたん、と、一際大きく馬車が揺れた。
保食はゆっくりと唇を引き結ぶ。
そうだ。長き
本当に、たくさんの人に、たくさんのものを失わせた。そんな中で自分一人だけが一抜けたはできない。
かつて、この言葉を最初に口にしたのは寝棲だった。
麻硝が約束通りに梨雪に自由を与えた結果、保食か
ふっと、保食は薄く瞼をあける。寝棲の背中が鮮明に思い浮かぶ。あの時、彼は確かこう続けたのだ。
――俺は、
うつらうつらと夢現の中、保食は
「――本当に、そんなところにまで上り詰めてしまったんだな、お前は」
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