9 柘榴
*
五日目と六日目は、
その二日を過ごす己の胸の内に、ぽっかりと開いた穴がある事を保食が自覚したのは、果たして何時の頃からだったか。
例えるならば、それは
甘く、
それは恐らく、璋璞の
それが胸の内に浮いているのだ。
その穴を持て
保食――そう、低く甘い声で、男は己の名を呼ぶ。それは耳の奥ではなくて――
身の内から、はしたなくも熱い物が込み上げる。その場所が、ぞくりと、
甘い熱に
否定など、当の昔に
惚れた男に組み
分厚い筋肉に
あの
そんな事を観想して何故
結局、
妄念に
その
馬鹿野郎。
どうして奪わない。
涙ぐんで見送るのは、名残惜しいからではなく、悔しいからだ。
いつも。
七日目の夜の空気は、底冷えが強かった。
ちゃぷり、と湯の
ぼんやりと、その滴の生んだ
こぽり、とひとつ、小さなあぶくを吐く。
この日は何故か、常よりも時間をかけて、ぬか袋で己の肌を
――もしかしたらという予感は、はじめからあったのかも知れない。
だから、そうして湯を使っている時に、突然
ざばり、と湯が
少なからぬ焦燥は、ある。肌身を伝う水滴を
保食は、ふぅと浅く強い息を吐き出す。先日は裏に
つまりこれで、邸内には本当に
待たせていると聞いた離れまで、小走りに回廊を渡る。
廊下の角を曲がると、先日のように濡れ縁に腰掛けて待つ
今年の桜は、散り急ぎ過ぎたのだ。
「こんな刻限に、
「うん? いけなかったか?」
「いけませんよ。こんな
「でも、追い返しはしないのだな」
「そんな事――わたくしに出来ようはずがございませんでしょうに」
璋璞の目が、庭に向けられた。
「俺が右将軍だからだろう」
保食は
璋璞がこんな物の言い方をしたところを、己はついぞ見た事がない。まるで
これは――間違いない。
「璋璞様、まさか、
「うん? ――ああ、お主の所の下男が運んできたのだが」
思わずぐっと喉を鳴らした。
――鵠や
保食は眉間に皺を寄せた。溜息を
水泥が運んだと言うならば、璋璞が口にしたのは、いつも保食が薬と共に飲んでいるやたらと度数の高い古酒のはず。璋璞は先日の酒宴より明らかに酔っていた。泥酔と言ってもいい。
状況的にやや
それでも、璋璞の体温を近くに感じられるこの瞬間に、保食の身の内は
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