5 密書
「意味は、理解したな」
「はい」
「包み紙は」
「全て
保食は、近くにあった灯火にそっと包み紙を差し出した。ちり、と
璋璞から渡された飴玉の包みには、全て内側に
璋璞から渡された飴は全部で八。その包み紙は、全て保食へ宛てた密書となっていた。
『水源汚染、不是白浪』――水源を汚したのは白浪ではない。
『叛徒出生的仙山。領導弓削麻硝』――まつろわぬ民より出し仙山。これを率いるのは弓削麻硝。
『包括員嶠残党』――
『仙山第二基地位於雲州舊方丈』――仙山の第二拠点が、雲州の旧方丈にある。
『黄師將在不久的將來進軍這裡』――近くこれに黄師が進軍する。
『宮中有聲音懷疑蔡氏的參與』――蔡氏の関与を疑う声が宮中に在る。
『你必須永遠不會離開豪宅』――お主は只管邸内にて籠る様に。
『需要證明清白』――関与なき事を明かせるよう。
「わたくしは、何があろうとここで静かにしていなければならないと」
「
「――次の器の継承時期は、何時頃と」
「恐らくは、あと五年」
保食は、小さく息を呑み込んだ。近くはないが、遠いとは言えない現実に、我知らず掌を握りしめた。
「こんな大変な折に、蓬莱へお越しいただいてよろしかったのですか? 今、禁軍での最高位にいらっしゃるのは璋璞様であらせられるのに」
「ああ、お主等にはまだ話していなかったか」
保食は、思わず真顔で璋璞の眼を見詰めた。
「何かございましたか」
「儂の右将軍と同格の左将軍は
保食の胸の内が、ざわりと波打った。
こくりと、
「――大将軍が、いらっしゃる。宮中に」
璋璞の視線は静かだった。
「ああ。大将軍は
璋璞は再び手酌で酒杯につるりとした酒を
「――その、御方の名前は」
璋璞は桜をぼうと見詰めながら、酒杯を空にして答えた。
「
濡れ縁で淡い眠りに落ちた
長い白髪と、同じく長い白
――一体、そこに何を
小さく溜息をつくと、団扇を床においてから、そっと重心を
本来、
――否、本当はもう一人いる。
保食は、かつて
彼と
極々短い期間に
底知れぬ深い暗い、少年の
こんなに、こんなにこの人は自分の前で無防備でいていいのだろうか。こんなに警戒が無くていいのだろうか。こんなに温かい命を、こんなに美しい人を、こんなに
と、撫でつけていた保食の手を
――皇の為だけのわたくしなのですか?
もし、あの時仙山行きを選ばなければ、蓬莱の『色変わり』なき娘としてだけ生きていたら、こうしてこの人に触れる瞬間だけを待ち焦がれて生きる人生で終わる事もできたのに。
――璋璞様とこうしてお会いできる一時だけが、唯一、まことの、只一人の女として息ができるわずかな時間なのでございます。
何を馬鹿な事を言っているのか己は。女としての時間なんて、人生なんて、はじめから失われているのに。
保食は、
ひたすらに、美しく
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