4 妖艶
*
春の
三日目の夜、今日は具合が良いからと
常ならば璋璞の身から外される事のない武装も姿を消し、
そして、その保食の肩から落ちかけた
「今日は本当に顔色がいいな」
柔らかく
一陣の風が吹いた。薄い
紅はそのまま指に
紅を
困ったような、
「桜です。桜が悪いのです」
「これが花の
「
「――全て、春の夢か」
「そうです。全ては桜が見せる夢です。散れば
璋璞は眉根を寄せると、自身の
「
「これで、
「やはり、わたくしではいけませんか」
「お主自身がどうこうではない。それは以前にも話した通りだ」
この
今ここにいるのは、保食と璋璞の二人きりなのだ。
保食が、また目元を伏せる。
「ええ、
璋璞は保食の
「
「――ええ。特に、我等が
「保食。器はやはり人。神を長くその身に留めたままにする事はできんのだ。余程の器でなければな。故に、その器を永らえさせるために切り分け
保食の、
「もたなかった、のですか」
璋璞の口元が、微かに険しい色を浮かべる。
「お主も、否、
震える保食の指先が、自身の口元を覆う。
「――では、器足り得る娘の数が減った、というのは」
「正しくはない。入れ
璋璞の表に苦渋が満ちる。
「これを
保食の肩に乗せられた掌に力が
「璋璞、さま」
「――よいか、神たる白玉を宿した器を切り分ける事が出来るのは、
保食は、びくりとその身を
「一度
保食は苦し気に双眸を閉ざすと、はらはらと涙を
「ごめんなさい」
「保食」
「ごめんなさい、知りもしないで
震える両の手で璋璞の襟元を
「今宵は、酔いが回る。舌が軽くなり過ぎた」
「春の夜ですもの」
「花が散れば、なかった事になるか」
「ええ」
保食はゆっくりと璋璞の腕の中から身を放すと、
先日、璋璞が保食に与えた
夜桜の下、保食は満開の花のように微笑んだ。
保食は口の中で飴玉を転がすと、璋璞の手に残されていた包み紙を自身の手に取り、
保食が舌先で飴玉を
「それで、最後の一粒か」
「ええ」
保食は微笑み、再び掌中の包み紙を見下ろした。
「――『
ぞっとする程に
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