第7夜「まつりの前夜」

 そうだよ、おハナ。

 ぜーんぶオマエが1人でたいらげてかまわないんだよ、

 このおナベ。


 ほら、遠慮せずに。いっぱいお食べ。

 オモチも、シシ肉も。


 それに、この、真っ赤な大きいキノコをなぁ。


 うんうん、おいしそうだろ?

 よしよし、たっぷりよそってやるからな……。


 そうだよ、おハナ。

 明日は、オマエの嫁入りだ。

 おハナは、村の鎮守ちんじゅのおやしろさまの花嫁になるんだ。


 神さまのお嫁さんだぞ?

 こんなに、めでたいこたぁないだろう!

 嬉しいだろ、なあ?

 ああ、そうだとも。おっとぉも、鼻が高いぞ。


 オマエが嫁入りすれば、おっかぁや弟たちの疫病えやみも、きっと、すぐにおやしろさまが治してくださるからな。


 なに? "くちべらし"、……だと?

 ……そんな言葉を、どこで覚えてきたんだ?


 おおかた、町のあの若い蘭方医らんぽういがそんなタワゴトをオマエにフキこんだんだろう。

 あのヤブ医者め、オマエに色目を使ってやがったからなぁ。


 いいかい、おハナ。"くちべらし"ってのはな。

『花しずの祭り』の花嫁に選ばれた、キレイな娘のことを言うんだよ。

 ああ、そうだ。そうだとも。オマエのことだよ、おハナ。


 神さまにお嫁入りする、せかいで一番しあわせな娘のことだ。


 ああ、いや、……なんでもねぇよ、心配するない。

 おまえは本当にやさしい娘だなぁ。

 だから、よけいに……、

 おっ父は、オマエが誇らしくって……誇らしくって……なぁ。

 どうにも涙が止まらねぇんだよ。


 よしよし、もっとキノコをよそってやろうな……。

 キノコをいっぱい食べたほうが、すぐに気持ちよーく眠れるからなぁ。


 よーし、よし。


 オマエが眠ったら、真っ白いキレイな白無垢しろむくを着せて、ヒノキの寝床に入れてやろうな。

 いい匂いのする花をいっぱい飾って、真っ赤な紅もさしてやろうな。


 いい夢を見るんだよ。かわいいおハナ……。



  オワリ

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つれづれ夢七夜 こぼねサワー @kobone_sonar

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