第16話 淫祠

 大祭一週間前。郷民達は一時封印していた屋台のシートを外し、セッティングに朝から大わらわだ。 

 大祭は定例祭と違い、前祭が五日間もある。当然、その為の準備増える訳で、早々に進めてはいくものの、直前での忙しさは毎年変わらずとの事だった。

 俺と夏音は朝から社務所に入り、御札やお守りの補充、染谷と伝所は御朱印の書置き分と大祭限定の御朱印帳の準備で、息つく暇もない程だ。染谷はこちらの段取りが付いたら、紗代と一緒に祈祷の準備に入る為、後は守役の面々が交代で社務所の応援に入ることになっていた。

 大祭は年一回の大きな行事だけに、定例祭以上の参拝客が訪れるらしい。

 駐車場を少しでも参拝客用として確保するために、俺はテントをたたみ、神社内の紗代の居住区にある駐車場に車を置かせてもらう事になった。

 住まいも住居が決まるまで、紗代の家の一室を間借りすることに。

 俺としては、この先このままでもよいのだが。

 いっぱいになるのは駐車所だけではない。

 陣屋と籠屋から聞いた話では、ペンションやバンガローの予約がいっぱいで、今年から始めたという湖畔のキャンプ用も満員御礼だそうだ。郷の入り口から神社に行く途中のキャンプ場や温浴施設も宿泊客が溢れかえっており、郷外に宿泊して、そこから観光バスで来るツアー客も大勢いるとの事だった。

 結局、準備は途中夕食を挟んで夜の九時頃までかかった。

 作業を終えた紗代達が入浴するというので、俺は夜風に当たって来ると告げ、家を出た。一緒にどうかとの声も上がったのだが、温泉で乱射しそうなのでやめておくと伝えておいた。

 参道の燈明には灯りが灯り、静まり返った夜の神社に柔らかな時空を描いている。

 灯り一つでこうも違うのだ。

 幽玄と荘厳と畏怖の表情を醸す夜の神社に、不思議な安堵感を齎す仄かな灯りを眺めながら、俺は境内の中程まで進んだ。

 静寂な夜気が、俺の身体に絡みつくように忍び寄る。

 御山巡りで見た六柱の龍神達。

 決して幻なんかじゃない。夏音も見ているし。

 彼らは、確実にそこにいた。

 俺達に何かを伝えようとしたのか。その割には身じろぎもせず、じっと俺達を見下ろしていた。

 あの日から、俺と夏音は、産童郷や産童山の地理や地質から方位に至るまで、ありとあらゆる視点から調査を進めた。

 神社や郷の図書館所有の、この郷の史記や風土記に関わる書物や文献からは今まで以上に得られるものは無かったが、ネット情報を頼りに、他の方面から踏み込んだり、切り口を変えるだけで、漠然とではあるが色々と見えてきたような気がする。

 御山巡りのコースにある六個の巨大な岩。あれは伝所の言った通り、本当に元々あったものだった。あったという表現も正しいかどうかわからないが、あれは産童山の一部らしかった。昔、某大学の地質学者が調べたところ、それぞれの岩は、山の岩盤の露出した部分が風雨によって長い時間を掛けて侵食され、硬質な部分だけが残り、現在の姿になったらしい。だから、ごろんとした岩がのっかっているのではなく、土砂に埋もれて見えないものの、山の一部が突き出した様な形を成しているのだ。それ自体はさほどでもないのだが、六ケ所にわたって、しかも等間隔に位置しているのが珍しいらしい。

 まるで産童山自身が意志を持ち、宇宙のエネルギーを取り込もうとして、六芒星を配したように思えてならない。

 俺達が調査した事は紗代に報告し、許可を取り付けてSNSに配信したところ、驚く程の反響があり、再生回数が半端ない数字を叩き出した。

 流石に龍を見た下りは証拠が無いので配信しなかったが。

 その影響だろうか。大祭前にもかかわらず、参拝客がぐっと増え、特に宇宙のエネルギーを授かろうと御山巡りをする人々の数が尋常ではなかった。

 俺達も時間が許す限り参道の整備や社務所の応援、ハイキングコースの警備に就いたので、想定外の忙しさに見舞われていた。

 ひんやりとした夜気を貫き、張りつめた糸の様な緊張が四方に広がっている。

 紗代と染谷が張った結界だ。

 張る瞬間以外は肉眼で捉える域までは達していないものの、その存在は感じる事が出来る。

 もし何か邪念を抱くものが触れれば、時空に更なる緊張が走り、施術した者に波動となって伝わるらしい。

 だが幸いにも、あの日以来結界に触れる者は現れなかった。

 紗代達の力量におののき、諦めて立ち去ったのか、それとも今は息を潜め、虎視眈々と隙を狙っているのか。

 俺としては前者であって欲しいが、紗代達の考えはあくまでも後者だった。

 昼間は守役が目を光らせ、夜は紗代と染谷が結界を張り、相手の出方を探る――それが、俺達が得体の知れない者に対してとった作戦だった。 

 昼間、紗代と染谷が神事で体に宿した神気を、結界に転じて夜の防御を担うのだ。

 相手の目的が分からないが故に、手を打とうにも守役を分散しなければならず、非常に効率の悪い対峙策とは言えた。

 相手が、隙を狙って俺達を監視しているなら。

 もしターゲットが俺なら。

 狙うのは今だ。

 俺はゆっくりと周囲を見渡した。

 俺が混浴を断り、外に足を運んだのは、それを確かめる為だった。

 あまり考えたくないのだが。

 染谷の結界の罠を破いたり、紗代達が施術した結界内に、彼女達が気付かないうちに結界を新たに施術したりと、この郷で最高位の「神乃御力」を宿す二人の力を無力にするほどの能力者だ。

 しかも、その人物はこの郷の中に居る――そう考えるのが自然だった。

「鴨ちゃん、お風呂どうぞ。みんな上がりましたから」

 俺は振り向いた。

 背後に、紗代が立っていた。巫女装束ではない。夕食の時と同じく、グレイのカットソーにデニムのミニスカート姿で。

 いつの間に――。

 声を掛けられるまで、気配が全く感じられなかった。

「あ、有難うございます」

 俺は慌てて紗代に礼を言った。

「鴨ちゃん」

「はい? 」

「自分を囮にしようとしたでしょ」

 紗代が俺の眼をじっと見つめた。

「ばれてました? 」

「ばればれです」

「ごめんなさい。ひょっとしたら、自分が狙われているんじゃないかと思って・・・」

「どうして? 」

「そのう・・・言い方ちょっと変かもですけど、俺を妬んでいる人がいるんじゃないかと」

 俺は言葉を選びながら彼女に語った。

「妬むって・・・」

 紗代が眉を顰める。

「突然現れた訳の分からない奴が神様に気に入られ、守役と祭司役両方のお役目を与えられ、神社の御祭り毎に、その――複数の美女相手にいたしてるって、そりゃあ普通に妬む奴の一人か二人位はでてくるでしょ」

 俺は紗代に、俺なりに感じた思いを伝えた。

 俺の話を聞き終えると、紗代はくすりと笑った。

「鴨ちゃん、この郷にはそんな人、いませんよ」

「えっ? 」

「この郷の人々は、みんな自分の屋号とお役目に誇りを持っていますから。他人を妬む人なんて絶対にいませんよ」

 彼女は俺の眼を見ると、はっきりと言った。

 俺は言葉に詰まった。

 紗代は、郷民を心から信頼しているのだ。

 そんな彼女に俺が見せた郷民への猜疑心は、言葉にしてはならない禁忌の領域だったのかもしれなかった。

 何となく気まずい空気が流れる。

 冷静に考えれば、最も怪しいのは四方だろう。

 事実、四方が立ち去って以来、郷に怪異は起きていない。

 郷民以外であれだけの術を使う人物だ。染谷の結界を破る事も出来そうだ。

 ただそうなると、湖畔で起きた菅嶋達の死霊の件はどうなる?

 あれも、四方がやったのか?

 何の為に・・・そうか。

 彼は疑っていたのだ。菅嶋は事故死ではなく、何者かに殺されたのではないかと。

 金をしつこく無心し、挙句の果てには風俗に売り飛ばす事も企んでいた菅嶋から、元カノ二人を守るために、俺達が彼らを殺害したのではと。

 菅嶋の死霊を出現させれば、恐怖の余りに狼狽えて犯行を自白するのではないかと。

 思えばあの時、四方達がペンションを後にしたタイミングが微妙だった。

 俺達が奴らに怯えて死霊達に謝罪するシーンを抑えるなら、あのタイミングがベストだ。

 彼の誤算は、俺が亡霊化した菅嶋達をぶっ倒してしまった事。それで計画は頓挫してしまったのだ。そこで今度は他の輩達の死霊を召喚し、俺達を襲わせたのだが、宇古陀のカメラが思いも寄らぬアクシデントを招いてしまったため、これも失敗に終わった。

 彼自身の驚き様から、そこまでは想定していなかったように思える。

 否、あれだけの霊力の持ち主だ。カメラに宿る妖気を見逃していたとは思えないし、何かしら起きる事は予期していたのかもしれない。ただそれが想像の域を越えたものだっただけなのだ。

 恐らくそれは、紗代の『神乃御力』についても言える事だ。

 黒龍神を召喚し、夥しい亡者の群れを一瞬のうちに昇華させた彼女の超絶した力を目の当たりにして、彼はこれ以上深掘りすると自分の身に危険が及ぶと悟ったのではないか。

 あえだけ紗代にしつこく菅嶋の事を追求していた割には、幕引きは異様にあっさりとしていたのが、何となく妙には感じていたのだ。

 さわらぬ神に祟りなし――恐らくそれが、四方の出した答えだったに違いない。

「さ、早く温泉に行きましょ。みんな待っていますから」

「は、はい」

 彼女にせかされ、俺は温泉へと向かった。

 脱衣所に入ると、何故か彼女も一緒に付いて来る。そして、俺の眼を憚ることなく服を脱ぎ始める。

「私もお風呂まだなんです」

 呆気に取られている俺に微笑み掛けながら、彼女はそう言った。

 俺も急いで服を脱ぐ。

 もたもたしていたら、この場で奉納の儀を始めてしまいそうな俺だった。

「鴨ちゃん」

 湯船に向かおうとした俺を紗代が呼び止めた。

 振り向いた刹那、彼女の唇が俺の唇を奪う。

 柔らかな双丘が俺の胸で押しつぶされ、砲口を上空に向けた俺の高射砲は、側面が彼女の恥丘とぶつかり合い、更に砲身を進化させた。

「あちらじゃ中々順番が待ってこないから」

 彼女は唇を離すと、俺の耳元でそっと囁いた。

 彼女の妖しい囁きが熱い吐息と共に鼓膜を震わせる。

 俺は彼女の唇を吸った。

 右手の中指を、彼女の淫谷に忍ばせる。

 淫谷は既に淫水で潤い、俺が指を動かす度に、溢れ出た雫が床に滴り落ちた。

 指先が、緊張し、硬直した淫核を探り当てる。

 俺はそれを激しく指先で弄び、清楚な彼女を淫猥な妖女へと変貌させていく。

 彼女は声を上げて激しく仰け反った。

 俺は砲身を握りしめると、荒ぶる淫根を彼女の淫谷に押し当て、蜜洞へと挿入していく。

 紗代の顔に苦悶ともとれる悦に入った表情が浮かぶ。

 俺は立ったまま彼女を突き上げた。左足の太腿に手を掛けて少し持ち上げると、更に大きく突き上げる。

 静まり返った脱衣所に、肉のぶつかり合う音と粘着質な摩擦音が響く。

 脱衣所が、淫猥な芳香で満たされていく。

 砲身が蓄積した気の放出を懇願し、砲口が大きく開放。

 俺はトリガーを引いた。

 夥しい魂を、俺は彼女の中に放出する。

 彼女はゆっくりと俺から離れた。

 彼女の蜜洞から溢れ出た俺の魂が、太腿を伝って滴り落ちる。

 今までにないシチュエーションに、俺の意識の高揚は半端無く、一気に駆け巡った興奮の絶頂は、凄まじい量の魂を放つ結果となった。

 多分、彼女が口で受け止めていたら、おたふく風邪に罹患した時の様な頬になっていただろう

 だが、俺の淫根は萎える事無く、未だ砲口を天に向けたままで、砲身も少しも萎えずに硬さを維持している。

 この前、テントで致した時とは大違いだ。神事となるとこうも違うのか。

「続きは、後でね」

 紗代はそう言うと、俺の唇に軽くキスをした。

 俺達は大急ぎで洗い場に行き、体を洗い流した。そして湯船に一瞬だけ身を沈めると、すぐに上がり、脱衣所へ向かった。

 風呂場での滞在時間は、この前、染谷と混浴した時のおよそ半分位か。

 まあ、脱衣所の時間は別にして。

 彼女はタオルで濡れた体を拭き取ると、以前もそうしていたように、下着を付けずに白いワンピースだけを身に着けた。

 俺はただバスタオルだけを腰に巻き付ける。

 次の発射指令を待つ俺の高射砲は、バスタオルを持ち上げ、これから挑む長い戦いに挑む意志を高らかに掲げていた。

「行きましょうっ! 」

「はいっ! 」

 俺が声を掛けると、紗代は気合たっぷりの声で返した。

 足早に温泉を後にし、紗代の家に上がる。

 家はひっそりと静まり返っている。

 だが、玄関に入った瞬間、あの独特の淫香が俺の本能を刺激する。

 静まり返った夜気に紛れ、微かに感じる人の気配。

 静寂の中に蠢く怪しげな息遣いが、夜更けの闇に淫猥な旋律を刻んでいた。

 俺達は滑るような足取りで、屋敷の一番奥の部屋まで進んだ。

「遅くなりました」

 紗代が静かに声を掛け、引き戸を開けた。

 刹那、俺は、言葉を失った。

 目の間に、伝所が染谷と絡まっていた。

 伝所だけじゃない。

 陣屋も籠屋もいる。そして鍵田と辻村も。

 勿論、あやめと夏音もだ。

 言うまでも無く、全員全裸で絡まり合っている。

 脱衣所で紗代が言っていた順番が回ってこないの意味が、漸く分かった。

「遅かったじゃない」

 伝所が淫猥な笑みを浮かべながら俺と紗代を見た。それ以上の追及はしなかったが、俺達がした事は全てお見通しのようだった。

 伝所の淫谷を指で弄っていた染谷は、俺の顔を見て意味深な笑みを浮かべると、

俺の傍らに立つ紗代を抱きしめ、彼女の白いワンピースを脱がし始めた。

 恐らく彼女も、紗代と俺が脱衣所で行った行為を見抜いている。

「郷を去る身だから、どうしようかと思ったんだけどね。この前、鴨ちゃんが私のスカートの中を覗いてたから、私と奉納したいのかなあって思ってさ」

 伝所は膝を曲げると股を大きく開いた。

 染谷との絡み合いで彼女の淫谷は既に潤っており、蝋燭の灯りに照らされ、妖しく光っていた。大きく盛り上がった恥丘は綺麗に処理されており、むき出しになった淫谷が俺を誘惑していた。

 ばればれだったのだ。俺がどんな目で彼女を見ていたのか。

「ごめんなさい! 」

 俺は頭を下げて謝罪すると、彼女に突進した。

 唇を奪い、豊満な双丘に顔を埋めた。

 頑なった乳首を舌先で転がしながら、染谷が温めた淫谷に右手の中指を滑り込ませる。

 緊張し、打ち震える彼女の淫核を指先で弄りながら、蜜洞と淫門を他の指で同時に責めた。

 伝所は大きく喘ぐと、俺を力いっぱい抱きしめる。

 豊満な彼女の双丘が、俺との間に挟まれ、胸元に大きな峡谷が生じる。

 夥しい淫液がこんこんと湧出して滴り落ち、白いシーツに染みを描いて行く。

 俺は顔を下に移し、彼女の淫谷に照準を変える。

 乳首を愛撫した時と同じ様に、彼女の淫核を舌先で弄ぶ。

 伝所は呻きながら腰を突き上げた。

 同時に、生暖かい淫水が口内に広がる。

 俺はそれを躊躇わずに吞みほした。

 甘露だった。不思議な事に、それは何の抵抗も無く俺の喉を潤し、滑る様に嚥下されていった。

 俺は顔を上げると、彼女の蜜洞へ淫根を突き立て、挿入した。

 粘液質な温かい感触と同時に、肉壁の細かな隆起が砲身を捉える。

 俺は突きあげた。

 突き上げる都度、今までにない快楽が淫根を刺激する。

 彼女は違った。彼女の蜜洞は、造りそのものが他の誰とも違うのだ。

 急速に込み上げる衝動を堪え切れずに、俺は魂を放出した。

 だが、俺は彼女の蜜洞から淫根を抜なかった。

 再び、腰をグラインドさせながら、激しく突き上げる。

 俺はそのまま続けて放出。更にもう一回放出したところで、誰かに腕を引っ張られた。

「鴨ちゃんお願い・・・次は私と」

 陣屋が俺を厚い眼差しで見つめている。

 普段清楚なイメージの強い彼女の表情に、拒む理由は無かった。

 俺は伝所から離れると、陣屋に体を重ねた。

 陣屋の次は、籠屋、その次は鍵田で、辻村、夏音、染谷と放送の儀を交わし、ようやく紗代の元に戻る。

「ね、私の言った通りでしょ」

 紗代が俺の耳元で悪戯っぽく囁いた。

 その日は、今までになく最高にハードだった。

 俺は彼女達の間を入れ代わり立ち代わり、泳ぐように彷徨いながら、奉納の儀を遂行した。

 野鳥の囀りを聞きながら紗代の中で放ったのを最後に、奉納の儀は終了した。

 この日を皮切りに、俺の耐久レースが幕開けとなった。

 俺だけじゃない。紗代達もそうだ。

 定例祭の時は無かったのだが、大祭の時は、前祭五日間と本祭、そして本祭明けの朝、日の出と共に山頂の元宮に出向き、お供え物と祝詞を奉じるのがシキタリだった。

 例年、この神事は紗代と染谷で奉っていたのだが、今回は俺も加わる事になり、お供え物と御神酒を運ぶ役目を担う事になった。

 ひょっとし山頂で朝からまた奉納の儀かと期待したのだが、残念ながらそれは無かった。

 お供え物と祝詞を奉じた後、紗代に元宮の裏手にある御神川の源泉を見せてもらった。

 見ると、苔むした岩の間から、澄んだ清水が染み出ており、これが源流となって最後に産童湖に注いでいるとの事だった。

 染谷が言うには、もともとあった土着の自然神崇拝は、この源泉から始まっているのではないかとの事だった。

 確かに、水は高所から低所に流れるもの。それが山頂から湧き出すのを見て、古代の人々は自然の驚異と神聖な畏怖的な何かを感じたのではないか。

 水は生命を成す源泉――そう考えればそうかも知れない。

 それ故に、知らず知らずのうちに、人々の関心を集め、信仰されるようになったのか。

 それは、母なる大地への母体回帰に繋がるものなのかもしれない。

 紗代が話していた通り、参拝客は前祭初日から定例祭の倍以上の人々が訪れ、昼休みもろくに取れないまま、夜の八時頃までぶっ通しで作業に勤しんだ。夜は夜で灯篭の灯りを見に訪れる参拝客も多く、参道を歩む足音は深夜まで絶え間なく続いた。

 それでも、奉納の儀は遂行しなければならない。

 でもその点は、体力的には疲労感も倦怠感も全く無く、まるでいけない何かを体内に取り込んだかの様に高揚した状態が続いているので、全く問題は無かった。

 その夜、再び俺は祈祷部屋の前で言葉を失う事になった。

 今度は祈祷時の和楽器部隊と受付部隊十名も新たに加わることになったのだ。

 つまり、合計十八名を相手に奉納の儀を奉ることになったのだ。

 俺はもはやマシーンだった。

 決して果てる事の無い、他人から見たら裏山状態の日々を、俺は走り抜けた。

 大人数を相手にして、ふと気付いたことがある。

 この郷の女性陣は、皆、アンダーヘアーを綺麗に処理しているのだ。確か産童神もそうであったから、ひょっとしたらこれもシキタリなのかもしれない。

 超多忙な日々が過ぎ、漸くこの日が訪れる。

 大祭本祭の夜。

 もう少しで日が変わるという時合に、俺達は拝殿に集まった。俺達は前回同様最後に入殿した為、また戸口での立ち見を余儀なくされるかと思ったのだが、俺と夏音、鍵田、辻村の四人は紗代に祭壇前まで来るように呼ばれ、最前列に移動した。見ると、あやめも既に最前列に控えており、緊張した面持ちで鳴り物の鈴を手にしている。

 この日も、定例祭同様、郷民全員が拝殿に集まると、静かに紗代の祈祷が始まるのを待った。

 彼女は郷民に一礼後、ゆっくりと言霊を刻み始めた。

 静まり返った拝殿には、紗代の祝詞だけが朗々と荘厳な調べを刻み、空間そのものを異世界へと導いていく。

 紗代の言の葉に耳を傾けながら、俺は今覚えている秘文書のカタカムナ文字を思い浮かべていた。

 ふと、ある事に気付く。

 この前の祝詞とは微妙に違うのだ。

 言葉と言い回しの違う箇所がいくつかあるのだが、恐らくは祈祷の内容が定例祭の時とは異なるものだと察した。日々眼を通している秘文書のどこかには書かれている祝詞なのだろう。

 彼女の言霊は、何の抵抗も躊躇いも無いままに、静かに俺の魂の中に吸い込まれていく。

 初めて聞いたフレーズ。

 でもどこか懐かしい。

 何て言うべきか・・・よく分からないけど・・・ノスタルジックな感じがして。

 涙が止まらない。

 俺は泣いていた。

 何故か、とても懐かしい気持がして。

 気が付くと、俺は産童神の腕の中にいた。

 白い光に満たされた空間の中で、二人っきりで抱擁していた。

 悩ましい淫香が、俺の鼻孔を擽る。

 植物的な清廉された香りと獣的な濃厚で猛々しさを駆り立てる匂い。

 紗代の淫谷から醸し出される淫香だった。

 だがそれは、産童神の身体から立ち昇っている。

 紗代が淫戎に耽る時・・・その時って、彼女が産童神と一体化しているという事か。

 産童神のふくよかな双丘の感触を、俺は肌で直接感じていた。

 産童神も俺も、衣服を何も身に着けていなかった。

 俺は産童神の唇を奪うと、彼女の淫谷をまさぐり、前儀もままならぬうちに淫根を蜜洞に挿入した。

 俺は突きあげた。

 突き上げ続けた。

 今までに味わった事の無い快感が脳内を駆け巡る。

 それは、伝所との奉納の儀で始まった快楽をも遥かに凌ぐ、言わば魂そのものが絶頂に達する快楽と言うべきか。

 俺は超絶的な絶頂に耐え切れず、昇り詰める快感に身を委ね、打ち震えながら魂を放出した。

 心地良い倦怠感が、全身を包み込む。

 その時だった。

 俺は感じた。

 妙な気配が、俺の背後から忍び寄って来る。

 それが誰なのかは分からない。ただ背後から聞こえる低い息遣いと雰囲気で、何となく男だというのは分かった。

 そいつは俺の背中にぐいぐいと頭を押し付けて来る。

 この人は何をしたいのか?

 俺は状況が呑み込めず、身体を左右に振りながら、それを阻止しようと試みた。

 だが彼は全く諦めようとせず、必死な素振りで俺の背中に頭を擦り付けて来る。

 俺は腹が立ってきた。いったい何をしたいのか分からない。

 俺と交わりたいのか? それは絶対にお断りだ。

「やめてください」

 俺は彼をやんわりと制した。

 でも、俺の声が聞こえていないのか、そもそも聞き入れる気が無いのか、その奇妙な行為を一向にやめようとはしない。

 俺はだんだん腹が立ってきた。

 産童神との交わりで最高の気分を味わっていたのに、彼の行為で何もかも台無しにされたような気がした。

「いい加減にしろっ! 」

 俺は振り向きざまに、彼に罵声を浴びせた。

 釜屋だった。 

 たくましい体を晒したまま、釜屋は悲し気な表情を浮かべると、掻き消すように消えた。

 釜屋さんが、何故?

 俺は途方に暮れたまま、彼が消えた白い中空を見つめていた。

 刹那、俺の視野が切り替わり、映像が変わった。

無言のまま、眼をかっと見開く。

 それが、俺がとれる精一杯のリアクションだった。

 

 何だこれは・・・。


 漸く絞りだすことが出来た俺の答えが、これだった。

 理解するも何も、これが真実なのだ。

 そう思うしかなかった。

 俺の前に、拝殿を埋めつくす位に巨大化した産童神が仰向けに横たわっていた。

 産童神は全裸だった。上半身を少し起こし、大木の様な両腕をくの字に曲げてそれを支え、足は胡坐をかくような形で組み、股を大きく開いていた。その体には無数の全裸の男達が群がっている。巨大な山の様な双丘、柔らかな太腿、脹脛、腕と、至る所にしがみ付き、激しく腰を擦り付けていた。

 俺は産童神の大きく開いた股の中央にいた。

 俺の目の前に、淫液を湛えた産童神の淫谷があった。

 それも、ごく普通の大きさの。

 体躯が巨大化しているにもかかわらず、そこだけは取り残されたかのように、小さな淫穴を開いていた。

 訳が分からなかった。

 何がどうしてどうなったのか。

 困惑する俺の視線の先に、見覚えのある男の姿があった。

 大鉈だ。

 彼は熱病に侵されたかのような眼で、四つん這いになって産童神の太腿を這いずり回っていた。

 彼は急に立ち止まると、そそり立つ淫根を産童神の太腿に突き立てた。

 淫根の先端が肉に食い込み、皮膚に幾重もの皺が生じる。

 不意に、太腿に変化が生じた。

 大鉈の淫根が押し当てられた皮膚に窪みが生じ、それを呑み込んだのだ。

 彼は歓喜に表情を歪めると、激しく腰を動かし始めた。淫根は粘液質な異音を奏でながら、産童神の太腿を突き上げる。

 彼は大きく体を仰け反ると、小刻みに震えた。

 淫根が突き刺さる太腿の皮膚が、俺の眼に飛び込んで来る。

 淫谷だ。

 皮膚の皺が寄り、形作った淫谷に、彼は淫根を突き立てていたのだ。

 俺は他の男達の行為も眼で追った。

 間違いなかった、手や腹、足と言った至るところに生じた淫谷に、彼らは淫根を突き立てていたのだ。

 産童神は、男達が行為を望むと皮膚を淫谷に変化させ、彼らを受け入れていたのだ。

 女達はどうしたのだろう。

産童神の腹や太腿にしがみ付いているのは、俺が見る限り男ばかりだった。

 だが、俺の耳には、淫らな喘ぎ声を上げる無数の女声が絶え間なく聞こえていた。

 俺は産童神の恥丘に手を突き、よじ登った。

 床面を占める肉塊の向こうに、無数の全裸の女達がいた。

 俺は彼女達を凝視した。

 夥しい白い触手が、彼女達の身体に絡みついていたのだ。

 宿所は蛇のように蠢きながら、彼女達の双丘を弄り、淫谷と淫門に潜り込んでいた。

 彼女達は虚ろな目線を中空に漂わせながら快楽に喘ぎ悶えている。

 触手が蠢く淫谷からは、淫水が止めども無く滴り落ち、床面を黒々と濡らしていく。

 何なんだ、触手は・・・。

 俺は身を乗り出すと、妖しげに蠢く白い触手を追った。

 触手は産童神の足の方と腰の辺りから幾重にも重なり合いながら伸びているようだった。

 俺は目で、腰の辺りに潜む触手を追った。

 触手の先には、床面から起こした上半身の支える手があった。

 否、あれは手なのか?

 指先が細かく無数に枝分かれし、植物の根毛の様に四方に広がっている。

 手だけじゃない。足もだ。指先が細分化し、地を這うように広がって、女達の淫穴を終焉を迎える素振りすら見せずに弄り続けている。

 悶え狂う女達の中に、あやめや夏音、鍵田達の姿があった。

 紗代は何処に入っるのだろう。この中にいるのだろうか。

 喘ぐ女達を眼で追う。

 分からない。

 何処にいるのか。

 眼で追いながらも、俺は、触手の淫儀に喘ぐ紗代の姿を見たくないと思った。

 

 鴨ちゃん


 呼んでいる。

 紗代の声だ。

 俺は必死に周囲を見回す。

 いない・・・何処だ? 


 いた。


 何気に俯いた目線の先――淡い曲線を描く恥丘の上に、彼女はいた。

 いつの間に現れたのか。

 さっきまでは、そこには何も無かったはず。

 でも、間違いなく紗代の姿が目の前にあった。

 紗代は眼を閉じ、一糸纏わぬ姿で、手足をだらんと伸ばして恥丘の上に浮き上がっている。

 そう、浮き上がっているのだ。

 まるで、静かな湖面を漂うかのように。

 彼女の肘から先、膝から先は、産童神の肉体の中に埋まっている。

 同化している――そう言った方が正しいのかもしれない。

 彼女の裸体は産童神の恥丘の曲面に沿って反り返り、淫谷を曝け出すかの様に、腰を前に突き出している。

 彼女の淫谷は、アンバランス故に奇妙さと滑稽さが垣間見れた産童神のそれとシンクロしていた。

「御代さんっ! 」

 俺は彼女に呼び掛けた。が、彼女は何も答えようとはせず、昏々と眠り続けていた。

 ただ、僅かに上下する彼女の双丘が、生の営みをかろうじて物語っている。

 

 鴨ちゃん


 呼び声が俺の頭の中で響く。

 これは・・・紗代じゃない。

 頭上から感じる視線。

 俺はゆっくりと顔を上げた。

 産童神が、満足げな笑みを浮かべながら、俺をじっと見つめていた。

 

 待っていた。

 あなたを待っていた。

 やっと

 やっと

 会えた

 

 俺は戸惑いながら、頭の中に流れ込んでくる産童神の声に耳を傾けた。

 俺を待っていたって?

 

 産童神は眼を細めると、困惑する俺を愛おし気に見つめた。

 彼女の恥丘に浮かんでいた紗代の姿が、ゆっくりと消えて行く。

 同時に、紗代のそれとシンクロしていた淫谷が、大きく開いた。

 突然肉襞に変わった足元にバランスを崩し、俺は体ごと淫谷に落ちた。

 一気に腰まではまる。

 温かく柔らかな肉襞が俺をずっぽりと包み込む。

 鼻孔を埋め尽くす濃厚な淫香に、俺の思考は再び獣じみた淫欲に支配されていく。

 俺は淫谷に埋まりながら、俺は本能の赴くままに腰を突き上げた。

 爆発的な快楽と絶頂が脳髄を刺激し、あっという間に魂が迸る。

 やめなかった。

 やめれなかった。

 俺の意識は、波状に押し寄せる快感に完全に支配されていた。

 快楽と興奮のるつぼにはまりながら、俺は止めども無く魂を放出した。

 体が、徐々に淫谷の奥へと沈み始めた。

 自重で落ちているのではなかった。

 蜜洞の肉襞が収縮を繰り返して、俺を徐々に奥へと引き込んでいるのだ。

 俺は体を引き抜こうと、淫谷の外襞に手を掛ける。

 駄目だ。

 力が入らない。

 絶え間なく押しよせる絶頂が、俺から抵抗する余力を奪っていた。

 肩が、腕が、顔が、淫谷の奥へと引き込まれていく。

 同時にぐにゅぐにゅと言う粘液質な異音と共に、蜜洞から染み出した夥しい淫水が、俺の口に流れ込む。

 

 鈴の音が、間近に響く。


 気が付くと、紗代は祝詞を終え、神事は終了を迎えていた。

 俺は体に目線を投げ掛けた。

 産童神の淫水に溺れたはずだったにもかかわらず、衣服は一切擦れていない。勿論、下着にも迸ったはずの魂の痕跡すら無い。

 紗代が神事が終わった事を告げ、深々と一礼した。

 郷民達立ち上がると、一斉に一礼し、戸口へと向かった。

 退出する郷民達に続き、俺も拝殿を後にする。

 逝ったあれは何だったのか・・・。

 俺は参道を歩きながら、紗代に聞くべきか迷っていた。

 頭がふらふらする。

 突然、強烈な睡魔と倦怠感が、俺の思考を強制終了しかけて来る。

 俺は歯を食いしばると、大地を踏みしめる様に足を踏み出した。

「稀代さん、大丈夫ですか? 」

 紗代が俺を心配する声が聞こえる。

 そうか、大祭が終わったら、屋号が使えるって言ってたっけ。

 まずい。

 意識が、遠のいて行く・・・。

 





 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る