第9話 誘引

 社務所での仕事を終えた俺と夏音は、その足で温泉に向かった。

 驚くなよ、何の抵抗も無く二人で揃って脱所で衣服を脱ぎ、体を洗って――洗いっこはしなかったが――湯船に浸かった。

 お互い裸は見慣れているし、この後の奉納の儀の事もあるから、浴場で欲情することも無く、混浴する老夫婦の様に肩を並べてまったりとした時間を楽しんでいた。

 念の為、温泉入り口の木札は『清掃中』の札を掛けておいた。他のキャンパー達には申し訳ないが。

「不思議な事ばかり起きるから、頭ん中爆発しそう」

 夏音がしみじみと呟いた。だがそれは、決して嫌悪ではないように感じた。彼女の眼に、好奇心に満ちた輝きが宿っているのを見て取れたからだ。

「昨日の一件と言い、今日の一件と言い、普通じゃない事ばかりだもんな」

 俺は湯に肩まで浸かりながら答えた。

「鴨氏、有難う」

「ん? 」

「鴨氏も郷民になってくれて」

「あ、ああ。ま、成り行きだしね。迷っていたのもあるし」

「私、正直言うと心細かったんだ。でも鴨氏も一緒なら安心」

 夏音はそっと顔を赤らめた。

「ああ、うん。俺もそうだ。夏音が郷民になったって聞いたから、決心がついた」

 俺は頷いた。

「これからもよろしくな」

「うん、こちらこそ」

 夏音はくすっと笑った。

 どうやら、昼間のダメージはもう無いみたいだ。

 これなら、この郷の事を話題にしてもよさそうだ。それも、表立って話題にできない様な、郷の深淵に触れる話を。

 俺は、友人がメールでくれた情報と、昼間、伝所から聞いた話を夏音に伝えた。

「そっか、ここってテレビの取材も受けてたんだ」

 夏音が感慨深げに呟く。

「知る人ぞ知る前人未到の天外魔境ではなかった」

「前人未到は大げさよ。あ、でも御山はそうかも」

「俺、登ったけどね」

「自分で言っておいて、それは無いでしょ」

「まあね。でもさ、メディア向けの一面の裏に、俺達しか知り得ない、公表しちゃいけない話もあるじゃん」

「それはまあ、シキタリは守らないと」

「どこまで配信できるかは御代さんや染谷さんに検閲してもらわないといけないけど、俺達は知っていてもよいってことだしょ? 」

「言葉がおかしくなっているよ。でも、それはありだな」

「とにかく、俺はこの郷や産童神の事を納得いくまで調べたい。この郷の住民になるんだから、自分の住む場所をちゃんと知っておくのは必要だろ? 」

「そだね」

「本祭が終わったら大祭までの間で色々調べようや」

「大祭? 」

 夏音が首を傾げる。そうか、夏音も聞いてなったらしい。大祭のことを。

「年に一回ある神事らしいよ。それが今月の十五日にあるらしい」

「へええ、知らなかった」

「伝所さんに取材して聞き出した」

「凄いじゃん」

 夏音が口惜しそうに呟く。

「もっと凄い事が分かった」

「何、凄い事って? 」

「大祭を過ぎたら、俺達も不思議な力を授かるそうだ。『神乃御力』ってやつを」

「ほんと? マジ? 」

「凄過ぎだろ? 」

「うん、まじしゅごい・・・」

 夏音の眼が、らんらんと輝く。

 と、不意に浴場の扉が開く。

 紗代とあやめだ。勿論全裸で。

「あ、二人とも抜け駆けずるいよ」

 あやめがにたにたと笑っている。

「清掃中何て看板が出てたたら、おかしいと思ったんですよねえ」

 紗代が意味深な笑みを浮かべる。

「御安心を、奉納の儀はまだおっぱじめてませんので」

俺は手をばたばた振り回しながら慌てて弁明した。

「儀式はしかるべき場所でね」

 紗代はそう言うと、わざわざ俺の目の前にしゃがみこみ、掛け湯をした。

 俺の眼は理性の静止を振り切り、彼女の太腿と太腿の奥に隠された淫谷へと視線を注いだ。

 俺の欲情の扉が全開になる。

「鴨さん、耐えられる? 」

 あやめが淫猥な笑みを浮かべながら、紗代の横で掛け湯をすると、二人揃って俺の前に浸かった。

 紗代が俺の正面に、あやめが俺の横にぴったりとくっついて来る。

「ひどい、私には何にも反応してなかったのに」

 夏音が不満気に頬を膨らませながら、こやつもまたぴったりと身をくっつけて来る。

 やばい。本能が、猛狂う聖剣を振り回す狂戦士バーサーカーへと俺を変態化メタモルフォーゼさせてしまいそうだ。

 このままここにいてはまずい。

 僅かに残っていた理性の残渣を絞り出し、俺は意を決した。

「のぼせて来たんで、先に出ます」

 俺は湯船から立ち上がった。

 全身の血液が集結し、誇らしげに真っ直ぐ天を突く俺の淫根は、立ち上がった勢いで大きくしなり、腹を打った。

 三人は、スタンバイ状態の俺のキャノン砲を呆気にとられた表情で見つめると、くすりと笑った。

 慌てて脱衣所に飛びこむと、慌ててトランクスを履き、着替えのTシャツとハーフパンツを身に着ける。

 やがて、夏音も脱衣所に姿を見せた。夏音は白いパンティーに足を通すと、ブラは付けずに白いロング丈のTシャツを頭からかぶった。

「御代さんが、晩御飯一緒に食べないかって。支度を手伝ってくれたら助かるって」

「分かった」

「じゃあ、このまま御代さん家、直行ね」

 俺達は着替えが済むと、社務所の奥の紗代が住む住居に向かった。

 今朝、朝食をご馳走になった茶の間で紗代達が戻るのを待つことにする。

 俺は畳に腰を降ろすと、部屋を見渡した。今時珍しい土壁に、太い柱の梁。食器棚も古美術品を彷彿させる年代物だが、古臭さを感じさせない。

 手入れと掃除が綺麗に行き届いているのだ。朝ご飯の時は慌ただしさに駆られてろくろく周囲を見る余裕も無かったのだけど、改めて見てみると古民家の様で中々趣がある。

 というか、古民家そのものだ。

 それでも多忙な日々の中でこれだけ清潔に維持するのは大変だと思う。

 程なくして、紗代とあやめが戻って来た。

 紗代は薄いモスグリーンのワンピースに、あやめは夏音と申しわせたかのようにベージュのロング丈Tシャツ。しかもノーブラだ。

「お招き有難うございます」

「いえいえ。でも、お手伝いしてくださいね」

 俺が紗代に礼を言うと、即座にそう返事が返って来る。

「献立はどんな? 」

「天婦羅とお刺身です」

「了解っす」

 俺と夏音は立ち上がると、紗代達に続いてキッチンに向かった。朝は図々しくも上げ膳下げ膳だったので、キッチンを見るのは初だった。

 意外な事に、キッチンは時代が違った。

 大型冷蔵庫に電子レンジ何かは当たり前だが、ビルドインタイプの食洗器に電磁調理器まである。

「茶の間とのギャップが凄い」

 思わずそう呟くと、紗代は嬉しそうに笑った。

「去年ここだけ改築したんです」

「へええ。凄いな」

「鴨さん、こっちにも凄いとこあるんですよお」

 あやめに引っ張られて隣の部屋を覗くと、十畳程の部屋に棚が立ち並び、酒、缶詰、お米、乾物類などの食料品が所狭しと埋め尽くしていた。更に、奥に置かれた業務用の冷凍庫が、低い駆動音を奏でている。

「本当だ。凄い・・・居酒屋の食材庫よりもでかい」

 俺は呆気に取られて

「色々と頂き物が多くて・・・食べきれなくて神社の行事や寄合の時に郷の皆さんにお出ししたりしているんです。因みに、あの冷凍庫も頂き物です」

 紗代がそう説明してくれた。

「ここに籠城しても一か月は過ごせそう」

 夏音のとんでもねえ感想に、俺は苦笑しつつキッチンに戻る。

「天婦羅はすぐに調理できるんですが、問題はお刺身の方でして・・・」

 紗代は困った様な素振りで冷蔵庫を開けた。

 見ると、冷蔵庫には三十センチ程の真鯛と五十センチ程の鮃がそれぞれ二匹ずつ納まっていた。

「これ、頂いたのですが・・・私、魚をおろすのが苦手で、お刺身を作るとあら煮の方が豪勢になっちゃうんです」。

 紗代が恥ずかしそうに言った。

「じゃあ、これは俺がやります」

「えっ? 鴨氏、魚さばけるの? 」

「うん、俺さ、釣りが好きだから釣って来た魚は自分でさばいていたし、学生時代、居酒屋でバイトもしてたから」

 怪訝な目で見る夏音を尻目に、俺は冷蔵庫から魚を引っ張り出した。魚用のまな板と出刃包丁を紗代から受け取ると、早速、調理を開始する。

 最初は鯛から。鱗を包丁の背でリズミカルに落とし、三枚におろしてさくさくと刺身を作っていく。

「御代さん、小さな鍋、有りませんか? 」

「あ、はい」

 紗代が差し出した小振りの片手鍋に鯛の頭と骨を放り込む。

 鮃も鱗を落として身を削ぐと刺身にし、皮と骨はぶつ切りにした。

 女子達は俺の手つきを神妙な面持ちで見つめながら、感嘆の吐息をついている。

「鴨氏、鮃の骨と皮、どうするの? 」

 夏音が俺に尋ねた。

「天婦羅揚げ終わったら、唐揚げを作る。皮せんべいと骨せんべいね。鯛のあらは見ての通り、あら煮にするから。お刺身は冷蔵庫に入れておきますね」

 俺は刺身を盛りつけた更にラップを掛けると冷蔵庫にしまった。

「凄いです。びっくりです」

 紗代が尊敬の眼差しで俺を見る。

「大した事無いですよ。じゃあ、あら煮を作ります」

「私達も準備しなきゃ」

 紗代は慌てて冷蔵庫から食材を取り出した。薩摩芋やシメジ、その他もろもろの食材を出すと手早く調理を進めていく。紗代がカットした食材に夏音が衣を付け、あやめが上げていくといった流れ作業で効率よく調理は進み、最後に再び俺が鮃の骨と皮を油で揚げて作業終了。

 同時に、玄関の呼び鈴が鳴る。

「どうぞ~」

 紗代がパタパタと小走りで玄関に向かった。

「何とか終わりました」

 染谷の声だ。彼女は社務所の作業を終えた後、もう一仕事あるからと言い残して姿を消していたのだ。

「お疲れさまでした。丁度ご飯の支度が出来たところなの」

 紗代の声がいつになく弾んでいる。これで染谷が男だったら、俺はやきもちをがんがん焼きまくっていただろう。

「ごめんなさい、お手伝い出来無くて」

 染谷が申し訳なさそうに頭を下げる。作業を終え、直接ここに来たのだろう。未だ巫女の装束のままだ。

「染谷さん、楽な格好に着替えてきてください料理と飲み物を運んでおきますから」

「ごめんなさい。直ぐに来ます」

 染谷は一礼すると廊下へと消えた。あやめ同様、彼女もこの屋敷に寝泊りしているらしい。

 俺達は天婦羅と刺身の盛り合わせを茶の間のテーブルに運んだ。あやめが冷えた缶ビールや缶酎ハイを御盆にのせて持って来る。

「まだ冷やしてあるので、後で持って来るね」

 彼女はそう言い残すと再びキッチンに戻り、取り皿やグラス、箸を御盆にのせて現れた。

「お待たせしました」

 染谷が着替えて戻って来た。淡いパープルのカットソーに濃紺のデニムのミニスカート。ファッションに紫を取り入れるのは彼女の趣味か拘りなのだろうか。ミニスカートは結構きわどく、俺としては目のやり場に困る状況だった。

「凄い料理」

 染谷が目を丸くしてテーブル上の本日のディナーを見渡した。

「御代さん、驚いたわ。あの魚さばいたんだ」

 染谷が感心しながら紗代を見る。

「私じゃなくて、鴨さんが作ったの」

 紗代は恥ずかしそうに顔を赤らめる。

「え、鴨さん凄い! 尊敬する! 私、魚全然さばけない人だから」

「いえ、そんな・・・大したことじゃないです」

 染谷の厚い眼差しに俺は理性がぶっ飛ぶ―――じやない。照れて溶けだしそうなくらいでれでれになっていた。

 俺達はそれぞれ好きな飲み物で乾杯すると、食事に挑んだ。

 染谷の話では、魚は彼女の顧客が送ってくれたものらしい。

「そのお客さん、鮮魚を取り扱う会社をやってるんだけど、郷でお世話になっている神社の祭りのお手伝いに行くって話したら、気を利かせて送ってくれたのよ」

「凄いですね。中々そこまでしてくれないでしょ」

 俺は頷いた。

「そうよね。まあ何となく、その社長は占い意外に目的があるんじゃないかって勘繰ってるんだけど」

「え、その人って何歳位? 」

 紗代が妙な所に食いついた

「五十一歳。妻子持ち。ちな私と同じくらいの娘が二人いるって」

「エロ親父じゃん。娘と同じくらいの女性に手を出そうとしているなんて」

 夏音が鮃を頬張りながら呟く。おいおい、話すのはせめて口の中が空になってからにしろって。

「染谷さんって、どんな占いするんですか? 」

 俺は染谷に問い掛けた。

「手相よ。意外でしょ。イメージ的にはタロットやってるって思われがちだけど」

「染谷さん、ひょっとして『星乃 陽花里』さんですよね」

 あやめが恐る恐る染谷に尋ねた。

「あ、ばれちゃった? そう。染谷は屋号だけんね。仕事は本名でやってるから。でもよく分かったね」

「はい、ネットの占い拝見しました。その時見た顔立ちに似ていたので。テレビにも出てましたよね」

「そっかあ! 分かるもんなんだ。普段は髪の毛ピンクに染めてるんだけど、目立ち過ぎるんでばれないようにパープルに染め直したのに」

 染谷はばつが悪そうに舌を出す。否、十分に目立ってます。

「社務所の作業を終えた後、何をなさっていたんですか? 」

 夏音がさり気なく染谷に問い掛ける。

 いいぞ、ナイス切り込み。その点は俺も気になっていた。

「ちょっと結界を張ってたの」

「結界? 」

 思わず身を乗り出す。

「そ、昼間の連中に来られたら困るから」

 染谷はウーロン茶を口に含んだ。

「昼間の連中って、事故で死んだんじゃあ・・・」

「死んでるよ。昨日の連中も含めて」

 俺の問い掛けに、染谷がさらっと答える。

「えっ? 」

 思わず驚きの声を上げる。

「鴨氏、これ・・・」

 夏音が顔を強張らせながら俺にスマホを見せて来た。

 ローカルニュースがアップされている。

 昼間の、あの事故の追加情報だ。

 車両から十四人の遺体? 

 どう言う事だ?

 今日出会った輩は十人だった。昨日来た鍵田の元彼――菅嶋とその監視役は合わせて四人。

 合計十四人。

 じゃあ、駐車場に乗り捨てられていた車に、菅嶋達は乗っていたのか。

 何故、スキンヘッド達はそれに気付かなかったのか。仲間の一人が車に乗り込んで運転しているのに。

「訳が分かんねえ・・・ 」

 戦慄が俺を捉えていた。グラスを持つ手が小刻みに震えている。

 勿論、無意識のうちに。

 冷静に何かなれない。

 最初の事故報道を見た時は、妙にさばさばしていたと思う。正直、ざまあみろと思ったぐらいだ。

 でも、この報道だと、いるはずの無い連中までもが一緒に死んじまっている。

「染谷さん、これって・・・」

 俺は声の震えを精一杯抑え込んだ。

「神のみぞ知る、よ。人知を超えた現象だものね。私も説明出来ない。現場を見ていた訳じゃないから。でもはっきりしているのは、汚れ切った魂に神罰が下ったと言う事」

 染谷は静かに語った。 

 その声の調べは、無知に震える俺の魂を力づくで抱擁し、包み込んだ。

 そう思うしかなかった。

 そう思うしかないのだ。

「でもこれで、あの二人も安心して生活出来るのよね」

 夏音がしみじみ呟く。

 確かに、言われてみればそうだった。

 鍵田達からすれば、最も安堵出来る展開なのだ。もう付き纏われたり逆恨みされることも無いのだ。ましてや、身勝手な元彼の借金のかたに売り飛ばされる心配も無い。

 当然の報いなのだ。

 刀人達が元彼とその監視役達を追い返した時、そう思っていたではないか。

 二度と俺達の前に現れないでくれ――そう願っていたではないか。

 産童神は実行したのだ。

 郷民を傷付けようとした輩達に激高し、神罰を下したのだ。それは決してやり直しの効かない、死によってあがなう償いを。

「ただね、あんな死に方すると、死んだことに気付かないで迷う奴が出て来るからさ。怨霊化して逆恨みされたら困るでしょ? 」

「うん、困る」

「それでね、念の為、郷の四方に結界を張って来たの」

「成程・・・厄介者は死んでも厄介なんですね」

 俺は染谷に合わせるように頷く。

 これは正義なのだ

 郷の平和を犯す愚連どもに産童神が下した神判なのだ。

 そう思うしかなかった。

 俺ももう、郷民なのだから。

 その後、輩達の話はすぐに話題からおいやられ、皆の関心から消し去られていった。代わりに俺や夏音、あやめがここに辿り着くまでの話や、染谷の占いの話で盛り上がった。

 宴会が終わったのが午前零時過ぎ。染谷の客からのメールで、送られてきたのが魚以外に鮑と栄螺もあった事に気付き、慌てて俺が調理したりといったアクシデントはあったものの、何とか無事平和に終幕を迎えた。

 みんなで後片付けを終えた後、染谷は念の為、神社の周りを見て来ると言って席を立った。

 この流れでは、どうやら彼女は奉納の儀には参加しない様だった。

「参りましょうか」

 紗代が、淫靡な笑みを湛え乍ら、俺達を促した。

 酒の酔いのせいもあってか、ふらふらとした足取りで奥の祭壇の部屋へと向かう。

「ちょっとここで待ていてくださいね」

 紗代廊下の淡い光を頼りに暗い室内に足を運ぶと、手慣れた手つきで祭壇の蝋燭に明かりを灯していく。

「さあ、お入りください。あらっ」

 紗代が驚きの声を上げる。

 蝋燭の種の灯りが部屋を満たした時、既にひかれた布団の上には全裸で抱き合うあやめと夏音の姿があった。

 俺は部屋に入り、後ろ手で引き戸を閉める。

 紗代が、淫靡な微笑を浮かべながら、ワンピースを脱ぎ捨てた。柔らかな衣擦れと共に、彼女の足元にワンピースが折り重なっていく。

 一瞬にして、全裸となった紗代の姿が目に飛び込んで来る。

 紗代は、ワンピースの下にブラジャーもパンティーも付けてなかった。

 昨日と同じだ。

 俺も昨日と同じく超高速で服を脱ぎ捨て、紗代を抱きしめた。

 唇を重ねながら乳房を愛撫する。そしてそのまま布団に押し倒すと、淫谷に顔を埋めた。

 淫靡な芳香が鼻孔いっぱいに広がり、俺の思考を淫獣へと変貌させていく。

 この匂いは、祭司役特有のものなのか。昼間、祭事役である事を告げられた夏音の身体からも立ち昇っていた。

 俺は紗代の淫谷から顔を上げると、威風堂々状態の淫根を彼女の蜜洞に挿入した。 

 そしてゆっくりと腰を動かす。

 絶頂を迎えたのか、隣からあやめの歓喜の声が聞こえる。

 植物的な清廉と獣的な淫靡が混沌とした淫香が更に部屋を満たしていく。

 紗代の蜜洞の肉襞が俺の淫根に纏わりつき、耐え難い快楽の波動を齎してくる。

 俺は激しく突き上げた。

 快楽に歪む紗代の顔だけが、視界を埋め尽くす。

 紗代が腰を突き上げ、僅かに開いた口から絶頂を告げる声が漏れる。

 同時に、俺は魂を放出した。

 紗代の四肢が弛緩し、彼女の顔に笑みが浮かぶ。

 俺はゆっくりと彼女から淫根を抜いた。

 俺の淫獣は、大量に魂を放出したにも拘らず、頭を垂れる事無く直立不動のまま天を突いていた。

 不意に、背後の引き戸が開いた。

「遅くなりました」

 染谷だった。淡い紫色の大きめのショールのようなものを纏っている。

 呆然と見つめる俺に仄かな笑みを向けると、彼女はそれを脱ぎ捨てた。

 紗代と同じく、彼女もその下は全裸だった。スリムな色白の体躯、お椀を伏せた様な小ぶりだが形の良い双丘、そして俺の視界に最も近い位置に、無毛の恥丘と固く閉じられた淫谷があった。

「お待たせ」

 染谷の薄い唇が俺の唇に触れる。

 俺は舌でその結界をこじ開けた。染谷は抵抗せずにそれに応じ、俺の舌に舌を絡めて来る。

 染谷の身体がピクリと痙攣した。見ると、紗代が彼女の恥丘に顔を埋め、淫谷に舌を滑り込ませていた。

 染谷の唇を開放すると、今度は紗代が彼女の唇を奪い、其のままゆっくりと身を布団に沈めた。

 仰向けになった紗代の上に染谷が被さり、右手の細い中指で紗代の淫谷を攻め立てる。

 突き上げ、露になった染谷の淫谷と淫門に、俺はすかさず舌を這わす。

 染谷の蜜洞から溢れ出た淫水が、紗代の淫谷に滴り落ち、白いシーツに黒々と染みと描いていく。

 俺は顔を上げると、淫根の先端を彼女の淫谷に押し当て、ゆっくりと貫いた。

 大きくくびれた彼女のウエストを両手で押さえつけ、ロースタートから次第にギアチェンジし、高速走行へと移行した。

 染谷の蜜洞の内襞が幾度となく収縮し、俺の淫根を快楽の境地に陥れる。

 俺は耐えた。耐えながら、彼女を攻め続けた。

 染谷は上気した顔を上げると、体を打ち振るわせながら大きく仰け反った。

 俺の勝ちだ。

 訳の分からない勝利を味わった瞬間、俺の淫根は魂を打ち上げていた。

 ぐったりと四肢を弛緩させ、紗代に身を重ねる染谷から離れる。

 蜜洞から抜き去った際に、反動で淫根が俺の下腹を叩いた。恐ろしい事に、今だ萎える事を知らず、誇らしげに顔を上げている。

 不意に、柔らかな感触が背中に押し付けられる。

「今度は、私と」

 あやめだった。

 見ると、夏音は染谷と紗代に抱き付き、三人で四肢を絡め合っている。

 俺はあやめを抱き寄せ、双丘に顔を埋めた。

 奉納の儀は、昨日同様、明け方まで繰り広げられた。あやめの後に夏音と交わり、その後、紗代、染谷と至福のローテーションが延々と繰り広げられたのだ。

 因みに俺の聖なる鉾は最後まで下手る事は無かった。三日間徹夜しているにもかかわらずだ。

 今日も朝から温泉に浸かった後、紗代宅で朝食をご馳走になり、社務所へと向かった。今日から夏音も巫女の装束を与えられ、俺も神職の衣装を与えられた。やることは昨日と同じだが、それなりの格好をすると気分が違う。

「よく似合ってるよ」 

 大鉈がにこやかな笑みを浮かべながら俺達を出迎えてくれた。社務所の作業は俺達に任せ、彼もすぐに警備にまわるらしい。

「昨日も山に登ろうとした連中が何人かいてさ、注意したら俺の顔を見るなりコラボを申し込んで来るんだよ。どうやら動画をSNSに上げているらしくて、参ったよもう」

 彼は苦笑いを浮かべながら言った。

「あ、ごめんなさい、ひょっとして私の配信のせいかもです」

 夏音が慌てて大鉈に頭を下げる。

「いいのいいの気にしないで。そうじゃないから。俺達が配信している動画を見て気付いた連中みたいでさ、お祭りが終わったらコラボすることにしたんだ」

 大鉈は嬉しそうに夏音に話し掛けた。

「まあ、御山のこと、都市伝説っぽく取り上げられるのも嫌だしね。神秘的な現象が起きるのは事実っだけど、大ぴらにしたくないから、表向きの神聖な禁足地だってことをアピールしたいからね」

「成程ですね」

 大鉈の話に俺は頷いた。

 シキタリは守らなければならない。でも、世間がこの郷の事を歪んだイメージでとらえられるのは、好ましくない。俺達は俺達で可能な手段でもって郷を守る義務がある。

「それに、昨日の事故の事もあるしね」

 大鉈が声を潜める。

「場所が離れているとは言え、この郷への入り口での事故だから、変な勘繰りをする奴が出てくるかもしれない」

「確かに」

「だからなるべく変な誤解を受けない様に俺達は動くから、鴨ちゃんとカオちゃんの方も頼むね」

 大鉈はそう言うと、じゃあと片手を上げて社務所を後にした。

「大鉈さんの言う通りね」

 夏音が大きく首を縦に振る。

「祭りが終わったら、御山巡りの取材再回しようぜ」

「うん」

 俺の提案に夏音は素直に頷いた。輩どもの再来が無いと分かったせいか、彼女のトラウマも少しは寛解の方向に向かったのかもしれない。

「おはよう、二人とも早いのね」

 巫女装束の伝所が社務所に顔を出す。

「おはようございます。参道の掃除、これから行きますね」

 夏音が慌てて伝所に返事を返す。

「おはようございます。俺もすぐに行きます」

「あ、いいよいいよ。もう終わったから。それより二人とも似合ってるわよ」

「有難うございます。ひょっとして参道の掃除、伝所さんお一人で? 」

「鍵田さん達が早朝に来てやってくれたから。お茶を飲んでってって言ったんだけど、陣屋さんと籠屋さんの手伝いがあるからって、直ぐにペンションに戻って行っちゃった」

「へええ、そうなんだ」

 御山の一件以来、鍵田達は人が変わったように働いていた。それも表情や顔つきもとげとげしさや冷淡なイメージが払しょくされ、温和で気立ての良いお姉さんに変貌していた。

 これも産童神の御利益なのだろうか。

「それとね、あの二人も郷民になったのよ。昨日の夜、陣屋さんから連絡が入ったから、即手続き済ませたわ」

 驚きの連続だった。でも若干複雑な思いもあった。あの二人も郷民に・・・俺はまだよいとして、あやめが知ったらどう感じるだろう。

「鴨ちゃん、大丈夫。心配しないで」

 俺の背後で御朱印書きの準備をしていた染谷が声を掛けて来た。

「あ、有難うございます」

 この人、俺の心の中を読み取ったのか。エロい事考えたらえらい目に合いそうだ。

 俺は神妙な面持ちで社務所の受付に腰を降ろす。夏音が不思議そうな顔で俺を見ていたが、答えられるものではない。

 参道を見ると、まだ八時だと言うのに結構な参拝客の姿が見える。

 今日は三日間の前祭の最終日とあってか、一際多いような気がする。

 一般の参拝者が特別祈祷を受けられるのは今日までで、明日の本祭には、この郷の住民か、この郷出身者しか参加出来無いからなのだろう。

 とある離島で縞の住民しか参加できない奇祭があると聞いた事がある。この神社のお祭りもそうなのだろう。紗代から聞いた話では、年一回の大祭は、この郷に住むものだけが参加できるものらしいし。

 土着信仰から根付いた独特の文化だけに、それを伝承すべく独特のシキタリが守られてきているのだ。

 しばらくすると、お参りを済ませた参拝客がお守りや御朱印を求めてどっと押し寄せた。

 今からこんな感じじゃ、今日は食事も満足に取れないかもしれない。

 こうなると、朝早くから参道の掃除をしてくれた鍵田達には感謝しかない。

 と、ぞくりとする寒気が俺を襲う。

 何だ、今のは・・・。

 視線だ。

 刃の様な視線が、俺を真っ直ぐ貫いていた。

 ほんの一瞬だった。

 俺は慌てて参道の人々を眼で追った。

 何も感じない。

 何だったんだろう。

 途方に暮れる俺を、染谷だけが心配そうに見つめていた。

 




 

 

 

 

 

 



 

 


 

 

 


 

 

 


 

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