サルバラスの過去
「母親と折り合いが悪かったのかはもう覚えてないんだけど、俺が小さい頃に母親は家を出て行って、その後俺は父親と2人の家で暴力を受けながら育ったんだ。でも段々と暴力がエスカレートしていって、このままじゃ殺されるかもしれないと思って、10歳の時に家を出てそれからは盗みをしながらなんとか生活をしてた。そのうちにたまたま街で父さんに会って家に引き取られて、それからは今のロボ君と同じかな。この傷はその時のものだよ。もう10数年経つのに、傷って中々消えなないものだよねぇ」
サルバラスは気にしていないようにケラケラと笑って見せる。
「でも、そんな家庭環境だったから俺にまともな家庭が作れるのか不安でさ。エレーヌさんに告白した手前、結婚には中々踏み切れずにいたんだ。もし俺に子供が出来て父親になったととき、ちゃんと父親になれるのかなって」
サルバラスの言葉を聞いていたエレーヌは、隣で呆れた顔を浮かべている。
「でも、エレーヌさんがね、子供なんていなくてもいいじゃないかって。迎えたいと思った時はそうすればいいし、子供がいなくても2人ならやっていける。もし俺が親や夫として間違った事をしたら、ひっ叩いてでも間違いを指摘して正すからって言ってくれて」
サルバラスは自身が惚気ている自覚があるのか、顔を赤くしていた。
「そんな男前な所に惹かれたんだ。俺を本当の息子のように可愛がってくれるエレーヌさんのご両親の事も、本当に大好きなんだ」
「そういう惚気話は、俺じゃなくアーロンにでも言っておけ。あいつなら喜んで聞くだろ」
そう言いながらロボは素早く指で文字を書くと、サルバラスの腕に勝手に文字を貼り付けた。
その腕には『話が長い』と一言書かれていた。
文字を見てエレーヌは可笑しそうに笑った。
「え、ちょっ、そんなことないよね⁉ 部下の子達にはそんなこと言われた事ないんだけど⁉」
「上司だから言えなかっただけだろ」
「そ、そうなのかな……」
サルバラスは思い当たる事を探すように眼を閉じて首を捻る。
その時、扉の外から年配の女性が顔を出してエレーヌの名前を呼んだ。
呼ばれたエレーヌは小走りに部屋の外へと出て行った。
エレーヌの後姿を見送って、ロボは周囲の人影を軽く確認してから声を出した。
「なあ、あんたの兄妹に『リノ』って名前の奴はいたか?」
ロボの言葉を不思議そうな顔で聞いた後、サルバラスは再び首を捻る。
「うーん、俺の兄妹たちにそんな名前の人はいなかったかな。俺と同じ歳ぐらいの人?」
「いや、見た感じ俺と同じ歳ぐらいだと思う。白い髪で身長も俺と同じぐらいの奴だ」
「ううーん……」
暫く思い出していたサルバラスは、諦めたように答えを出す。
「俺の周りにはその名前の子はいないかな。ロボ君の知り合い?」
「いや、ちょっとな」
「父さんに聞きばもっとわかるんじゃない? 俺なんかよりも沢山交友関係があるだろうし」
「まあ、別に。そこまでする程じゃないから」
ロボはサルバラスから目を逸らす。
「ふーん? まあ、割と珍しい名前だし顔も知ってるならきっと見つかるよ。もし俺の方で同じ名前と特徴を持つ人がいたら教えるね」
「ああ、そうして貰えると助かる」
話を変えようと適当な話題を探していた時、扉が開き頬を赤くしたアーロンが顔を覗かせた。
「あ、ここにいたんだね~!」
アーロンの身体を支えるように、ルイスがアーロンに肩を貸していた。
そのルイスの顔は不本意であることが見て取れる。
部屋の中へ入ろうとアーロンが足を踏み出した時、カクっと膝が折れて態勢を崩し、身長の高いアーロンの身体はルイスにのしかかるような形になってしまっていた。
「なにやってんだよ」
ロボは立ち上がりアーロン達の方へ駆けて行く。
そのロボの後姿を見ながら、サルバラスは考え事をするように上を向く。
「白い髪をしたロボ君ぐらいの男の子……。王宮へ行った時にそんな子を見かけたような」
記憶を思い出そうと眉間に皺をよせ、考えこむように目を閉じる。
「まあ、また王宮へ行く機会があった時に聞いてみればいいか」
サルバラスは諦めたように顔を上げる。
久遠の魔法使いの弟子 つるしぎ @kakukaku2211
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