打ち解ける2人

「ごめん、遅くなっちゃってー……」


 控室に戻って来たサルバラスは、仲良さそうに会話をしているロボとエレーヌの姿を見て少し呆然とし、慌てたように2人の会話に割って入る。


「ちょ、ちょっと! いつの間にそんなに仲良くなったの⁉」


 サルバラスの言葉に2人は顔を見合わせる。


「別に、ただ話をしていただけだ」


「そうそう! 2人だけの秘密のお話をしていたの~」


 わざとらしい言い方をするエレーヌに、サルバラスは口をパクパクとさせている。


「それで、襟回りの黄色い染みは、お湯に付けておけばいいのか?」


「食器用の洗剤があるでしょ? あれ凄い万能なの。歯を磨くブラシに付けて優しく擦ってあげると、スルッと落ちるよ」


「なるほど」


 ロボは空中に指を文字を描くように動かすと、描いた文字が黒く浮かび上がった。


 腰や上着のポケットなどを探り、紙を持ってきていない事に気が付くと、仕方がなくロボは袖を捲って腕を出す。


 宙に浮かんでいた文字はゆらゆらと揺れ、ロボの腕に張り付いた。


「なにそれ! すっごい!」


 一部始終を見ていたエレーヌは感動したように声を上げる。


「ロボ君、魔法使いだったんだ!」


 エレーヌの言葉にロボはハッとした顔をする。


 そういえば、他人の前で魔法は使うなとアーロンに言われていたな。


 どう取り繕おうかと少しの間考えてたが、でもそもそもエレーヌは他人じゃなくて親戚みたいなものだしセーフか、と自身を正当化した。


「わ、私にもそれ出来る?」


 興奮した様子でエレーヌは腕を差し出してくる。


「出来るが……、なんて書くんだ?」


「え、えーっと……」


 言葉までは考えていなかったのか、エレーヌは少し考えてから言う。


「あ、じゃあ、お星さまのマークとか出来る?」


「星のマーク……」


 呟きながら、空中に星を描いてみる。


 ロボの描いた星は、宙に歪な形で漂っていた。


 それを見て、ロボは苦い顔をする。


「……自分で書いてくれ」


 そう言いながら宙に浮かぶ星を消そうとするロボの手を、エレーヌが止める。


「それが良いの。はい、お願いします!」


 期待に満ちた目で手を差し出すエレーヌに反論することが出来ず、ロボは言われた通りに歪な星を手の甲に貼り付けてやる。


「これ、丸一日落ちないんだが、大丈夫か?」


「大丈夫!」


 ロボの言葉がきちんと届いているのか、エレーヌは自身の手の甲を嬉しそうな目で見ている。




 その様子を溜息を吐きながら見ていた時、横にサルバラスが立っている事に気が付く。


 サルバラスもエレーヌ同様、期待に満ちた目でロボを見下ろしていた。


「お願いします!」


 そう言いながら、サルバラスも袖を捲って腕を出した。


 その腕には、痛々しい程の火傷の傷が広がっていて、ロボは一瞬動きを止める。


 その様子を見て、サルバラスは慌てたように言う。


「ああ、ごめん。ビックリしちゃったよね」


「いや、別に。どうしたんだ、それ?」


 ロボはあまり腕を直視しないように目線を外しながら言う。


「これね、父親にやられた傷なんだ」


「父親?」


「うん。俺の父親はね、家族によく暴力を振るう人だったんだ」


「……そうか」


 ロボは当たり障りのない相槌を返す。

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