エレーヌ

「それでね、プロポーズは俺からしようと思って色々と準備してたんだけど、同じことをエレーヌさんも考えてたみたいでさ、先にエレーヌさんからプロポーズをされた時は凄い焦ったよ」


「へ~……」


 ロボはお菓子を食べながら気のない返事をする。


 かれこれもう1時間近くサルバラスの話を聞いていて、ロボは飽きてしまっていた。


 ふと、隣を見れば気疲れしたのかノアとミアがソファで横になって寝息を立てている。


 そろそろ式自体も終わりを迎える時間だろうかと考えていた時、部屋の扉の開く音が聞こえ、ロボはそちらに目線を向ける。


 そこにはウェディングドレスを着たエレーヌが入って来ていた。


「あ、サルバラス君」


 エレーヌはサルバラスを見つけると、怖い顔でズンズンとこちらに近づいて来た。


「どこに居るのかと思えば、こんな所にいたの? みんな探してたよ?」


「えっ、ほんとに⁉」


 サルバラスは立ち上がると、ジャケットを羽織る。


「ごめん! みんなのことよろしくね!」


 そう言うと、慌ただしく部屋を出て行った。


「ごめんね。あの人、話長かったでしょ」


「いや、別に」


 ロボは素っ気なく答える。


「あーあー、こんなところで寝ちゃって」


 エレーヌはノアとミアに近寄ると起こさないように静かに触り、態勢を直そうと手を伸ばす。


 その手がミアのネックレスへ向かっているのを見て、ロボは慌てて声をあげる。


「ネックレスには触るな!」


 大きな声を出してしまった事に気が付き、ロボは驚いて固まる。


 エレーヌは突然大きな声を出されたことに少し驚いた顔をしたものの、口の前で人差し指を立てて静かにとジェスチャーを送る。


「大丈夫。知ってるから」


 そう言うとエレーヌは近くの椅子に掛けてあったカーディガンを2人に掛ける。


「知ってるって、俺等の事を?」


「うん。獣人なんでしょ? 事前にサルバラス君から聞いていたし、両家の顔合わせの時にアーロンさんから教えて貰ったよ。『親戚になるかもしれないのに、嘘はついていたくないから』って」


 エレーヌはロボに近付き、顔を覗き込む。


「君も同じネックレスを付けてるってことは、獣人なのかな。顔合わせの時にはいなかった子だよね。名前はなんて言うの?」


「……ロボ」


「ロボ君か。私はエレーヌだよ」


 エレーヌは優し気な瞳で笑う。


「偉いねえ。あの子たちの面倒をしっかりみていたんだね。疲れてない? 後は私が見ておくから、ロボ君は横になったりしてもいいんだよ? 枕はいる? なにか掛けられる物借りてこようか?」


 しゃがみこんでロボと同じ目線から、子供に言い聞かせるように言うエレーヌにこそばゆいさを感じながら、初対面であるエレーヌに対して文句を言うことは憚られ、ロボは俯きながら


「大丈夫」


 となんとか言葉を絞り出した。




「あんたは、俺達が憎くないのか?」


 ロボの問いに椅子に腰掛けようとしていたエレーヌは首を傾げ、少し考えてから言う。


「別に私は獣人に直接なにかをされたことはないし、人間が迫害をされていたのはもう大分昔のことだから。私は気にしないかな。文献とかでそういうのは見たことがあるけど、私が経験したことではないし、ロボ君がした事でもないでしょ?」


「それはそうかもしれないが」


「昔の事をとやかく言っても仕方がないんだよ。過去を知って、同じことを繰り返さないようにすればいいだけなんだから」


「……変な奴」


 思わず零れた本音に、ロボは口を手で覆う。


 その姿を見て、エレーヌは驚いた顔をして、そして嬉しそうに口角を上げる。


「そうだよ。私は変わり者なんだから」


 エレーヌは自慢げな顔でそう言った。

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