結婚とは

 サルバラスの言っていた通り、新郎新婦の控室には人は誰もいなかった。


 部屋にはダイニングテーブルや質の良さそうなソファも置いてあって、ゆっくりとくつろげる空間になっていた。


 ミアは嬉々としてソファに飛び乗り、そのふかふか度を確かめていた。


 ノアは初めて入るその部屋におどおどとしながらも、見知った人しかいないその空間にほっとしたような顔をしている。


 サルバラスはダイニングテーブルの上に置いてあるお菓子の乗った皿を手に取る。


「お菓子あるけど、いる?」


「もうお腹いっぱいだから、いらなーい」


「えと、大丈夫です」


 サルバラスの問いにミアとノアはそれぞれ答える。


「ロボ君は?」


「俺も、大丈夫です」


 聞かれるかもしれないと身構えていたロボは、ノアと同じ言葉を言う。


「そっか」


 サルバラスは皿をダイニングテーブルに戻すと、椅子に深く腰を降ろす。

 そして深く溜息を吐いた。


 疲れが見えるその表情に、ロボは思わず声を掛ける。


「なんか、お疲れのところすみません」


 ロボに声を話しかけられることを想定していなかったのか、サルバラスは動揺した様子で返答する。


「え⁉ ああ、いや気にしないで! これは幸せ疲れってやつだから! わざわざ遠くから来てくれたみんなをもてなすのが、今日の俺の務めだからね!」


 サルバラスは取り繕うように笑顔を見せ、力こぶを作って見せる。


「それに俺が結婚するなんて、なんだか実感湧かなくてね。どこか他人事みたいな気分になってしまうんだ」


 サルバラスの様子に、ロボはずっと気になっていたことを口にする。


「なんで結婚しようと思ったんですか?」


「え?」


 サルバラスは質問の意図が気になりロボの顔を見て、答える。


「そうだなあ。好きとか愛してるから、とかはロボ君の年齢だとまだわかんないかな。うーんと……」


 どう説明したらいいかとサルバラスは頭を捻り、1つの回答を思いついて顔を上げる。


「俺の事をきちんと理解してくれて、それでも一緒に居てくれる人に出会ったから、かな」


 自分で言いながら、サルバラスは照れた顔をする。


「自分の事を理解してくれる人が現れたら、結婚をするのか? ……ですか」


「ああ、敬語は外していいよ。気にしないで」


 サルバラスはロボを側に置いてあった椅子に座るように促す。


「俺、頭悪いからさ。上手く伝えられるかすっごく不安なんだけど、死ぬまでずっと一緒にいたいって思える人と結婚はするんだと思うよ」


「死ぬまで。それは必ず歳の近い異性じゃないといけないのか?」


「絶対じゃないけど、どうして?」


「俺はみんなと出来るなら一緒にいたいと思っているから」


 そう言うと、ロボはミアとノアの顔をチラリと見る。


「ああ、なるほど。結婚するっていうのは、その人と家族になるって意味合いもあるから、それは間違っていないと思うよ。でもロボ君とみんなはもう既に家族だろう? それなら結婚する必要はないよね」


「なるほど」


「家族じゃない他の人と出会って、この人とも家族になりたいって思えた人と結婚するんだと思うよ」


 なんとなく理解ができたのか、ロボは納得したような顔をする。


「俺とエレーヌさんとの馴れ初めを聞きたいのかい? 構わないよ!」

 サルバラスは眼をキラキラと輝かせる。

「そう、あれは俺がまだ王国騎士団に入って間もない頃……」

 話が長引きそうな気配を感じたロボは、テーブルへ菓子皿を取りに行く。

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