二次会で

「しかし、結婚式ってルールや流れが決まっていて、案外堅苦しいものなんだな」


 立食スタイルの式場で、ロボはお皿に乗った肉をフォークで口に運びながら言う。


「まあ、同じ王国騎士団の同僚や上司を沢山呼んでいるし、あの子自身立場ある人だから、特にきっちりとした式にしたんだと思うよ」


 隣に立っていたアーロンが答える。


「パパ、疲れた」


 これまで大人しく周りに合わせていたミアが、アーロンの服を引っ張って言う。


「ああ、そうだよね。今日一日とっても良い子にしていたもんね。あっちに椅子があったから、そこで少し休憩をしようか。お腹は減ってない?」


 アーロンがミアとノアの手を引いてその場を動こうとした時、その背に声が掛かる。


「アーロンさん」


 アーロンが振り返ると、仕立ての良い服を着た男性が数人、お酒を片手に立っていた。


「まさかこのような場でお会いできるとは。年に数度は王宮でお見かけしますが、いつもお忙しそうだったのでお声を掛けるまでにはいかず。是非一度お話をしてみたいと思っていたのです」


 お酒が入っているのか男性の頬は薄っすらと染まり、口も饒舌になっている。


「ええと」


 相手を不快にさせず、どう断りの言葉を言ったものかとアーロンが頭を巡らせていると、その裾をロボが引っ張る。


「行ってこい。ミアは俺が見ておくから」


「わかった」


 アーロンは片手でロボの頭を撫でると、男性達に連れられその場を離れて行った。





「眠い……」


 ロボに手を引かれ、虚ろな目でフラフラとした足取りでミアは歩いている。


「ノアはどうした?」


 ロボの言葉にミアは庭へと繋がるドアの方を指さす。


 ドアを開け薄暗がりの庭を見ると、地面が少し膨らんでいる場所があった。

 ミアはそこへ歩いていくと、しゃがみ込んで地面の膨らみを手で叩いた。


 すると、地面がスルスルとリボンが解けるように動き、中から眼に涙を溜めたノアが出てきた。


「ノア先輩?」


 ノアはロボの姿を確認すると涙を拭った。


「グスッ……」


 会場の方から笑い声が聞こえる度にノアはビクリと肩を震わせ、涙を零した。


「だ、大丈夫ですか? なにかあったんですか?」


 ロボがノアに駆け寄ると、ミアは眠そうに眼を擦りながら言う。


「いつもの事だから、気にしなくていいよ。ノア君はあんまり長い時間人の多い所に居ることが出来ないから」


「そ、そうなのか?」


 ミアは一段と大きな欠伸をすると、体育座りをしているノアを押し退ける。


「少し寝るから……、帰る頃に起こして……」


 そのまま地面へ横になろうとするミアを、ロボが慌てて止める。


「待て待て、今のお前の服装を見ろ。ドレスが汚れるだろ」


 装飾の多いドレスは洗濯するのがどれだけ大変だと思ってるんだ、とロボは続けた。


 ロボの言葉にミアは不満そうな顔をする。


「だって眠いんだもん! もう疲れた! 立っていたくない!」


 足を地面に叩きつけ駄々っ子のように言うミアの隣で、ノアはオロオロとしている。


 頑として言う事を聞こうとしないミアの姿勢に、ロボはイラつき口の端を引きつらせる。


「ならせめて控室に行くぞ。そこなら椅子もあるし」


「さっき見てきたら誰かが部屋にいたんだもん」


 ミアの見た光景を想像して、ロボは苦い顔をする。


「親族控え室、だもんな。相手方の親族がいてもおかしくないか」


 隙を見て地面に座り込もうとするミアをその度に立たせていると、後ろから声を掛けられた。


「どうしたの?」


 声の方を振り返ると、不思議そうな顔でサルバラスが立っていた。

 手には料理の載った皿を持っている。


「料理は食べた? お腹いっぱいになった?」


 近付いてくるサルバラスに臆することなく、ミアは文句を口にする。


「もう疲れたの。休みたいの!」


「ああ、なるほど」


 サルバラスはミアの前にしゃがみ込むと、皿に載っていたクッキーをミアの口に放り込む。


 口をモゴモゴと動かしながら、ミアは尚も文句を言っている。


「俺の控室に来ると良いよ。新婦も同じ控室を使っているから来る可能性あるけど、今はご両親と一緒にいる筈だから、誰も来ないと思うよ」


 サルバラスはそう言うと、ミアと手を繋ぎ歩き出した。


 ミアが懐いている様子ではあったが、よく知りらない相手にミアを任せてしまうのは気が引け、ロボはべそをかいているノアを立ち上がらせて、2人の後を追った。

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