不穏な噂

 ロボ達は控室から出て、会場へと向かっていた。


 その道中、廊下には身なりの整った人間が何人か立っていて、廊下を歩くロボ達の方を見ると顔を見合わせ、小声でなにかを話していた。


 その目につく動作が気になり、ロボは聞き耳を立てた。


「ほら、あの子たちが例の……」


「えー……、でもあの噂って本当なのかな。仮にも王様から認められているような、偉大な魔法使い様がそんなこと……」


「でも、火のない所に煙は立たないって言うじゃない。なにかしらの根拠があると思うんだよね」


「私はただの噂だと思うな。だって――」


 歩きながらだったという事もあり、ロボはあまり話を聞き取る事が出来なかった。

 しかし、その妙な物言いにロボは引っ掛かりを覚えていた。





 式場には礼服を着た人が横に長いベンチのような椅子に腰かけていた。


 それぞれ座る位置が決まっているのか、アーロンはまだ誰も座っていない手前の席ではなく、わざわざ前の方へ座った。


 壇の上には先程会ったサルバラスが、緊張した面持ちで後ろの扉を見つめながら立っている。


 突如アナウンスが式場に鳴り響き、ベンチに腰掛けていた人たちは立ち上がり、後方の扉を振り返る。



 結婚式の流れを知らないロボやルイス達は、周りの人に合わせるように同じ行動をとった。


 後ろの扉が開き、真っ白なドレスに身を包んだ女性が歩いて来る。


 頭にはキラキラと光る冠を乗せ、白く透けるヴェールで上半身をすっぽりと覆い、 隣には黒い服を着た老年男性を横に連れ、ゆっくりと歩いて来る。


 その美しさと気品な溢れる振る舞いに、ミアとナタリーは憧憬の眼差しで見ていた。


 女性は老年男性から離れると、サルバラスの隣へと立つ。


 2人は少し照れたように見つめあいながら、正面に立つ神父へ向き直った。






「しかし、結婚式ってルールや流れが決まっていて、案外堅苦しいものなんだな」

 立食スタイルの式場で、ロボはお皿に乗った肉をフォークで口に運びながら言う。


「まあ、同じ王国騎士団の同僚や上司を沢山呼んでいるし、あの子自身立場ある人だから、特にきっちりとした式にしたんだと思うよ」


 隣に立っていたアーロンが答える。


「パパ、疲れた」


 これまで大人しく周りに合わせていたミアが、アーロンの服を引っ張って言う。


「ああ、そうだよね。今日一日とっても良い子にしていたもんね。あっちに椅子があったから、そこで少し休憩をしようか。お腹は減ってない?」


 アーロンがミアとノアの手を引いてその場を動こうとした時、その背に声が掛かる。


「アーロンさん」


 アーロンが振り返ると、仕立ての良い服を着た男性が数人、お酒を片手に立っていた。


「まさかこのような場でお会いできるとは。年に数度は王宮でお見かけしますが、いつもお忙しそうだったのでお声を掛けるまでにはいかず。是非一度お話をしてみたいと思っていたのです」


 お酒が入っているのか男性の頬は薄っすらと染まり、口も饒舌になっている。


「ええと」


 相手を不快にさせず、どう断りの言葉を言ったものかとアーロンが頭を巡らせていると、その裾をロボが引っ張る。


「行ってこい。ミアは俺が見ておくから」


「わかった」


 アーロンは片手でロボの頭を撫でると、男性達に連れられその場を離れて行った。



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