「即興即戦!BAD END BATTLERS!~SMILE!VIGILANTE~」

低迷アクション

第1話

 「こちら、ボロジェク1、前方目標!照会終了、射撃命令!」


最新鋭の機器に転換されたとは言え、装甲哨戒車に搭載された7.62ミリ同軸機銃のスイッチを押すのは、射手である“イワン・ビィーコフ二級軍曹”の手によってだ。ハイテクも結局、最後は“アナログ”の手に委ねられる。非常な判断、非情な決断も含めて…


「その命令は確かか?確認願うボロジェク1!」


車内通信機からの指令に、悲鳴バリの声で応答する。侵攻作戦が始まって11ヵ月…

戦う事が仕事と、自身を納得させ、今まで、どうにかやってきた。


しかし、今回ばかりはあまりにも…


「再度の確認はない。命令を遵守せよ。進軍を妨げる者はなんであろうと排除だ!たとえ、それが、正義を担う“魔・法・少・女”だったとしても!」


「クソッ!」


苛立ち交じりの声に共鳴するように、装甲車のモニターに映る“障害物”が両手を広げる。


雪が積もった敵国領土の国道に立つ、華やかなドレス風の衣装を纏う異国の少女…


その顔には、上空から舞い降りてきた時の固い表情でなく、穏やかな笑みが広がっている。


「天使だ…」


隣席の同僚が呟く。イワンも同じ気持だ。彼女達のような存在が世界に現れ始めて、数年が経つ。いくつもの奇跡と救いをもらってきた。だが、世界は、想像以上に複雑で残酷だった。


「何してる?イワン、我々が師団の先頭と言う事を忘れたのか?早く進め!作戦に支障をきたす」


「しかし、中尉!彼女はその……魔法少女の“リリシャイニー”です」


「それがどうした?俺だって知ってる。あれは、日本の変身ヒロイン

“リリカルキュート”に所属する“リリシャイニー”だ。半年前まで世界の平和を守っていた」


「そうです。俺の娘はあの子が大好きだ。玩具のステッキだって持ってる」


同僚の声に、車長席に座る中尉が皮肉な笑いを上げた。


「だから?知ってるだろ?あの手のヒーロー、異能連中の動きは制限された。敵がいないからな?


アイツ等は俺達“人間”の戦いに介入してはいけない事が、国際法で決まった。それに逆らう者は、世界の敵、だから撃て。さっさと排除しろ!」


口を開けたまま、動きを止める同僚の気持ちに同じくだ。しかし、上官の言葉は全て事実で、理に適っている。それを覆すためには…


作動させておいた“切り札”が心地よい電子音を上げる。


「?…イワン、何の音だ?」


目ざとく、反応する中尉のために、体を逸らし、少女を分析したスキャナー画面をよく見せてやる。


「……2級軍曹…何が言いたい?」


「何って?中尉だっておわかりでしょ?世界が定めた測定基準によれば、前方に立ちはだかるリリシャイニーからは、魔法反応が検出されません。つまり、一般人…しかも、相手は世界的に有名な、正義の味方…排除すれば、国際批判は避けられませんよ?」


イワン自身がまだ関わっていないが、戦闘が始まり、もう1年になる。味方の破壊、非道行為の暴露と報道は自国を経済制裁によって四面楚歌に至らしめるまでになっている。


昔のように、報道関係者を締め出したり、殺害と言った封鎖戦争は全くの意味をなさない。いくつもの電波局、通信中継地を破壊した所で、ほぼ全ての人間が携帯端末を持ち歩く、この時代においては、全員がジャーナリストであり、発信者だ。今、この瞬間の状況においても、近くを移動する軍隊、避難民…


考えたくはないが、味方の兵士によって“つぶやかれ”数秒後には、世界中の人が視聴する事だろう。現在のこの状況だって、彼等にとっては、絶好の特ダネだ。


(元々、演習と聞かされてからの、唐突な実戦…ましてや、子供を、正義の代行者である、あの子を、殺せなど…バカげている。いい加減に目を覚ますべきだ。我が軍は…)


イワンの思惑が通じたのか?一瞬、表情を歪める中尉…だが、それは再びの皮肉な笑いだと言う事に、すぐ気づいた。


「それがどうした?」


「何と言いました?」


「何か問題あるのか?と尋ねたんだよ。イワン、動画サイトを見てないのか?連中は能力0からだって、数秒で本来の力を発揮できる。一般人が3秒で核兵器だ。あの子達は皆、そう。脅威に変わりはない。殺せ。到着に遅れが出ている」


強い上官の声に、イワンは前方の少女を見直す。正義は何してる?一体、いつから、こんなんだ?いや、元々?どうだっていい?誰でもいい。頼むから、この家族とか、自身の保身のために、押そうとする指を折ってくれ。誰か、俺の…


「オッケェエ!任せろ!」


外部無線が拾った大声に思わず、発射スイッチを押してしまう。

“しまった”と言う感覚は、自身の喪失した親指を見て、驚愕と悲鳴の状況に変わり、


ヘッドセットの無線から響く、同様の声によれば、グラコジア連邦軍102自動車化狙撃兵師団100輌の乗員全てに、同じ状況が起こっていると言えた…



(話は数時間前に戻る)


「私がやらないと…」


砂が吹き荒れる砂漠都市の広場で“カミモ・ミハナ”は旧式の銃を構え、祈りを捧げるように呟く。彼女が相対する、目の前の男達が構えるのは、自身が持つ1947年製、紛争地帯御用達の突撃銃ではない。


最新鋭の光線銃、数千度の熱線で人体に当たれば、致命傷確実…2年前の大国軍の撤退、能力者達の制限と技術流出が武装勢力に影響を与えている事は確実。


だけど、迷う暇はない。人の人権意識が極端にない今地域では、力が全てとなる。


その誇示は、より残酷で過激な程良い。今も、顔を覆う布を拒否した女性達を断手する公開刑罰を止めるため、彼女は銃を持ったのだった。


武装組織の男達は下卑た笑いを浮かべている。この国では女性の地位が低い事もあるが、恐らく連中が気になるのは、手に彫られた入れ墨だろう。


ミハナはかつて“奴隷”だった。3年前、人買いの暗い牢獄から救われ、自由を得た。

助けた者の姿は見えなかったが、暗い牢獄を照らす明かりの中にあって尚、黒い影を纏う、その姿は覚えている。


後に、世界で現出し始めた能力者やヒーロー達の戦いの一端によるモノと推測できた。


しかし、彼等、彼女達はもう助けてはくれない。


世界のあらゆる悪に立ち向かう、人ならざる力は、数年のうちに、世界征服を目的とした、悪の組織や異空間からの侵略者を根絶やしにした。


その結果は…


ごく自然な流れで、ヒーロー達の動きには大きな枷が設けられた。世界が認める“非人間”認定の度合いを上回った相手のみ、異能の力を発揮して良いと言う国際法が制定され、通常の人間が起こす問題は警察や軍隊が対処する現状…


敵無き時代の世界においては、能力者達の存在そのものが脅威となっていく。そうして、ミハナの国は見捨てられた。正義にも、大国にも…


(だけど、諦めない。決して…)


強者が敷く法に従うのは、弱者のみ。いつまでも…


強い決意と共に、引き金に力を込める。先頭の男の持つ銃口が光ったのは同時だった。


「グギャッ!」


卵の割れるような音に金属の破響、悲鳴を上げて、倒れたのはミハナではなく、

相手の方だ。


弾丸より早い光線が自分に当たらず、こちらの弾が光線銃を壊した?思考するより早く、広場の男達がミハナに殺到し、銃を構えて叫ぶ。


「争鬼(そうき)!」


「ダークライト!」


彼等の視線は自分の後ろに固定されている事にようやく気付いた。肯定を示す声が後ろから響く。


「何だ?公開なんたらと聞いて、18禁期待して、来てみたら、グロの方かよ?勘弁してほしいね」


振り向く前に、ミハナより、頭二つ分(まだ、未成年の彼女の身長と比べての話だが)の黒っぽい迷彩服を羽織った男が前に進み、男達と彼女の間に立つ。顔は一瞬しか見えず、国籍一切不明だが、目元に走った2本の切り傷が印象的だ。


「争鬼?それともダークライト?どの名前で呼べばいい?Ⅿr犠隻 争侍(ぎせき そうじ)戦闘キチガイの君が我が国に来るのは必然だな。歓迎するよ」


断頭台から降りてきた、リーダー格の男が全く歓迎してない素振りで大振りの刀を向ける。


歓迎?と言う事は、この男は自国の男達と同じと言う事か?ミハナは身を固くする。


彼女の態度を見てか、余裕を持った様子で、リーダー格が再び、口を開く。


「君の趣向には合わないと言うのなら、多少の変更を加えてもいい。この国はまだ、教えの足らない者が多い。戒めに手を貸してくれ。神の名の下に…」


何が神だ?自分達の都合の良い解釈のみで…


怒りに震えるミハナに呼応する(少なくとも彼女にはそう見えていたかった)ように争侍と呼ばれた男が片手を上げた。


「俺の好きなモンは弱い者イジメでね」


「?(ミハナと男達の顔に同様の?が浮かぶ)」


「そもそも、魔法なんちゃらや正義の覆面野郎が跋扈した時に引退した。アイツ等強いからな?だけど、連中が世界に首輪つけられ、飼い慣らされた今、弱い俺達はやりたい放題、だから、出てきた。お前達もだろ?」


リーダー格の顔に僅かな引き攣りが見え始める。周りの連中もだ。自分を抑えるように頷き、相手は言葉を返す。


「その通りだ。強・き・力・を持つ我等の世界…共に、自由を謳歌しよう」


「?…オイ、耳腐ってんのか?弱いイジメが好きと言ったぞ?強いってのは、お前等みてぇにヒーローの遺構頼みで、どうにかフンばってる金魚のフン野郎共じゃない。俺の後ろに立つ、誰もが声を上げない中、立ち上がったタフなお嬢さんの事を言うんだ。おわかり?弱者?」


言葉終わりと同時に、男達の光線銃が火花を上げた。光線が発射された訳ではなく、爆発したようにだ。素早く伏せたリーダー格の腕に、争侍の放った銃弾が命中する。


「つうっ…こ、これは、狙撃?まさか、他に配置が」


「ご名答…最近の世界基準だと、俺達は“準人間”、“準改造人間”程度、正義の連中の厄介にならない程度らしい。やってる事は変わらねぇしな。注意をひきつけ、攻撃は相棒に…実に古典的…注目もされない訳だよ」


気付けば、広場で銃を持つのは、ミハナと争侍だけとなっていた。断頭台の女性を遠巻きに眺めていた人々が救う中、足元でのたうち回る男達を見ていた争侍が、こちらに振り返る。


「後はお好きに…」


そう囁き、過ぎゆく男の影は、砂漠の明かりの中で尚、影を纏ったように暗かった…



 広場で突撃銃を構えた少女の足元には、男達が転がっている。リーダーの男は、少女に対し、罵声を浴びせ、嘲笑うような負け惜しみを唱え続けていく。


それを制する乾いた発砲音が少女によって、空に向けた銃口から発せられた。

静かになった男達は民衆に運ばれていく。恐らく、これから本当の意味での公平な裁きが行われるのだ。


(そうだ。それでいい。殺戮が生むモノは殺戮。繰り返すだけ…貴方達はそれを知っている。だからこそ、抗い続ける。美しく気高い砂漠の民よ…)


何百年も繰り返され、それでも立ち上がる光景…一体、何回見てきただろう?

“犠隻 争侍(ぎせき そうじ)”は広場から離れた路地の壁に寄り掛かり、目を閉じる。


今の自分の顔は見られたくない。彼女達にも、狙撃仲間にもだ。


「どんな、怪人かと思ったら、争鬼でも泣くんですね。少し意外…」


不意に響く、この土地ではあり得ない日本語、それも子供の声に、慌てて顔を上げる。


隠れた路地に制服を着た少女が、いつの間にか立っていた。


「突然のお声かけ、申し訳ありません。私の名前は“天情 あかり(てんじょう あかり)”普段は…」


「“リリカルキュート”のシャイニーだろ?今は元か?何の用だ?」


丁寧な言葉遣いに反発するように、ぶっきらぼうになってしまう。不意を突かれた事への照れ隠しだ。これだから異能者は好きになれない。


「その件については、私からお話しを。久しぶりですね。ダークライト」


今度は通りからスーツの男が現れた。能面のような表情には、数年前に会った記憶がある。


確か、コイツは仕事の…


「成程、また、即戦部隊のお誘いか?今度は東か?悪いが、間に合ってる」


男の目的はわかっていた。1年前から続く、グラコジア連邦によるキトローヘ共和国への軍事進攻は混戦の一途を辿っている。当該国意外が、自国の利益優先で、両陣営を支援し、冷戦時代の泥沼代理戦争を再演しているのだ。


争侍達、無法者や傭兵もこれを“荒稼ぎ”の場として、その多くが参戦している。


「………しかし、戦闘は激化の一途を辿っています。各国の主力戦車投入に対し、連邦は、100輌の装甲部隊を差し向けるようです。これを止めない事には、多くの犠牲が出る事でしょう。


止める事が出来るのは、貴方達だけです。正義の力が制限された今、非人間と同等の力を持ちながら、増えすぎた能力者社会に埋没したあなた方、最悪を回避できる者の力が…」


「御免だね…」


「?…何故」


「おたく等は、この戦争が世界的、いや、自国に影響を及ぼす事柄だから、憂いてるだけだ。確かに、あそこの穀物は世界の台所だからな。


だが、出てる犠牲はまだ、数百人、数千人か?アジアの独裁国家じゃ、その10倍は

殺されてる。毎年な?それを助けないのは何故だ?


世界のあらゆる所で殺戮が起きてる。それを自分達だけの尺度と都合で悲惨を叫ぶのは虫が良いと思わないか?」


「……それは」


「〇〇さん(スーツの男の名前だと思う)もういいよ」


あかりが静かに遮り、寂しげな笑顔を向ける。


「この人の言う通り、私達はいつだってそう…この土地だって、駐留軍が撤退したのは、1年前なのに、皆忘れてる。誰もつぶやいたり、話題にしなくなったから。


でも、きっとたくさん困ってる。だから…」


少女の全身が光に包まれる。眩しさで視えないが、その目はしっかりと争侍に向いているのがわかった。


「知ってしまったから、助ける。私は無知だけど、教えてくれる人がいた。ありがとう、ダークライト、私はリリシャイニー、闇を照らす光…あなたの役目は?」


言葉途中で閃光一瞬、あかりの姿は路地から消失した。後ろで頭を抱える男の姿を予想しながら、争侍は呟いた。


「照らすのは光だけじゃねぇ…か」…



 「えっ?お前さ、前の件でさ。言ってたじゃん?ドヤ顔でっ!


“それを自分達だけの尺度と都合で悲惨を叫ぶのは虫が良いと思わないか?”←これな?


そんで何?姿消えたら速攻で、助けに行く算段ってどうよ?」


“私は消しゴム”と言うプラカードを掲げた女手品師が芸を披露する。そんな場末の酒場で叫ぶのは、砂漠での狙撃手“カナリヤ”争侍の相棒だ。


「あの子はキトロに行った。軍隊を止めるつもりで。しかし、それは、許されない事。今の時代ではな。彼女は消される。同じ力を持つ仲間達によって…それが、この世で最も崇高な光だったとしても…今の世界の決まりではな。


正義を同じ正義が殺す。


それは即ち、世界の良心が死ぬ事と同様…


この瞬間は世界中に流されるだろう。あらゆる場所に存在する発信者達によって…

秩序は崩壊し、人の世は…」


「最悪のBADENDを迎える?何となく言いたい事はわかった。周りがルール無用じゃ、俺達だってヤバいわな。そういう言い訳でいいな?ツンデレ馬鹿?要はあれな。やりたい事は2つ…


グラコジア連邦軍102自動車化狙撃兵師団、えっ、良く知ってるな?調べたよ。今…それを止める事、じゃないと、シャイニーちゃんの気持ちは収まらない。


もう一つは、彼女の動きを速攻察知した味方の正義から、彼女を守る事。あの子の事だ。戦わないよな?多分確実に!間違ってないよな?


うん、で、問題は誰がどうやって行くかだ。ここからキトロまで、半日かかるが、それは、俺のツテがある。知らない?非人間認定だけど、害無しで登録されてる能力者“ハグして、貴方をお好きな所に一瞬転送観光女子の話”


予約はしといたから、すぐに動ける。次は人員。俺は無理。兵隊ならまだしも、正義のヒーローなんかと戦ったら、命がいくつあっても足りねぇ!おわかり?こう見えても、退職金の出る仕事に転職したもんでな?」


「カナリヤ、お前の早口には閉口するが、移動に関しては、助かる。人員は異能溢れる社会、何とでもなる」


長文に短文で返した争侍は、素早く立ち上がり、おもむろに、今、まさに自分の指を何本か消している最中の手品師の腕を取る。


「先程から見ていたが、種も仕掛けもない。だが、指は本当に消えている。おめでとう。即興ではあるが、君は我が部隊に編入された」…



(そして、現在…)


「とは言いましても、私が消していられるのは、よくて数分…しかも、100輌に乗る人間となったら、とても…数十秒の話です」


特殊能力を手品にした女性“フォークス”は現地調達したトラックの荷台で、両手を車輌群に向けながらぼやく。


「それでいい。目標は確保。後はこのままキトロ領内に逃げ込め」


争侍の後半の言葉は、ハグ少女に転送された町で雇った巨漢の運転手“ウィルバー”に向けられている。無言のまま頷いた彼は、器用にハンドルを動かす。


手品師は金と脅迫で雇い、運転手は金のみで来てくれた。理由は聞く暇はないが、恐らく、真ん中の座席で眠るシャイニーのファンなのだろう。


自身と同じく、上空から降ってきた争侍達に驚いた隙をつき、気絶してもらった彼女を優しくトラックに乗せた事から、それが察せられた。


「あのう、ソージさん?もう、その子は助けたんで、私の役割は終わりですよね?さっきのハグっ子のピカッで、元の酒場に戻れますよね?」


「残念だが、それはまだになりそうだ…」


「えっ?」


「来たぞ」


争侍の言葉が終わらない内に、雪の夜空にいくつもの光がさす。その輝きは全て、彼等のトラックに向けられていた…



 「あの光…そして、キャプテン・ヴァルキリー?何故ここに?」


PⅯC(民間軍事会社)所属の“溝皮(どぶかわ)”はキトローヘ国防軍の義勇兵だ。

国境付近に集結中の敵を迎えうつために、出動していた。


「奴等、グラコジアについたのか?」


同僚の“ポストゥ”が吠える。身を潜める塹壕の先で繰り広げられるのは、異様な光景だ。甲冑と水着を合わせたような衣装で飛ぶ女性は“キャプテン・ヴァルキリー”


彼女の後ろには、パワードスーツに身を固めた“アイアン・スターリ”が続く。それらを相手に、疾走を止めないトラックに乗った手品師みたいな女と、窓から短機関銃を乱射する目元に切り傷の入った男…


本来なら、すぐつく決着が遅れているのは、手品師が手を振る度に、追手の指に異変が起こり、相手の動きを止めているからだ。そうでなければ、銃弾程度で異能者を止める事など、出来はしない。問題は、それに続く形で、グラコジアの戦車達が進撃している事だ。


「クソッ、ネットじゃ、戦車部隊を魔法少女が止めたって、騒いでたぞ?あれも、その関係なのか?ドブ?俺達はあれを…勿論、戦車の方な。撃っていいんだよな?」


味方の1人がジャベリン砲を構える。隣でスマホを手に喋るポストゥも同様だ。だが、ドブとしては、トラックの横から飛び出し、強烈な飛び蹴りを喰らわす全身タイツの銀色マスクに目が釘付けになった。


「“仮面雷導(かめんらだいどう)”奴だとっ?」


「おたくの国のヒーローか?」


ポストゥを無視し、食い入るように戦いを見る。横転したトラックから飛び出した大柄な男の手には、魔法少女リリシャイニーが抱えられている。


それに大剣を奮ったヴァルキリーが切り掛かり、傷の男が拳銃を乱射して抗う。

スターリは手品師を羽交い締めにし、自慢の200万ボルトの電力を対電させようと鋼鉄の体を白熱させていく。


仮面が男の拳銃を蹴りで払い落とした時には、立ち上がっていた。この光景はまるで…


「弱い者イジメかよ。泣けてくるね」


「オイ?ドブ?」


「ワリィ、ポストゥ。抜けるわ。勘弁な」


もう限界だ。止めねばなるまい。正義を本来の役割に戻す。それをやっていいのは、俺・達・だ・け・だ!自分で言って、思わず笑ってしまう。結局、元の木阿弥…半年の“偽装”がまた無駄になった。


「ドブ…お前」


塹壕から驚きの声が上がった時には、ドブこと“悪の戦闘員”は、元の力を戻し、

手近に迫った戦車を常人では不可能な腕力で持ち上げ、勢いよく投げつけていた…



「おたくは何処の戦闘員だ?ゾット?ボゴタルタ?該当なしだぞ?」


拾い上げた拳銃と背中に吊るした擲弾ランチャーを駆使しながら叫ぶ争侍の横で、

飛び回る黒タイツの怪人は形成を逆転させた。グラコジアの戦車群はどう対応すればいいかをわからないと言った風で、自分達を囲むだけで、何もしてこない。


「元だ。兵隊、今は気にしてる場合じゃねぇ」


「貴様は〇〇!生きていたのか?」


蹴りと共に乱入してきた仮面雷導が戦闘員の所属組織を叫ぶ。


「久しぶりだな。仮面の!何やってる?戦いに迷いあり過ぎだぞ?昔なら数分で俺を

やってた。他の連中だってそうだ」


「…馬鹿を言うな。誰だってわかってる。可笑しな事だと…しかしな…」


仮面の言葉が終わる前に、走った2本の白い閃光が争侍達、ヒーロー全てを吹き飛ばす。


「これ不味くない?」


地面に転がるフォークスの言葉に、争侍は顔のみ上げて、前方を見据える。


「…嘘だろ?」


白いマントは崇高なる秩序の証…この世界で“最強”を体現するスーパーヒーロー

“ザ・オーダー”が両眼を光らせ、ゆっくりと戦場に降り立っていた…



 白マントのヒーローは穏やかな笑みを浮かべたまま、敵味方区別なく、全てを白い熱戦で打ち倒していく。


ヴァルキリーは大剣と盾を用い、防御の構えを取るも、防ぎきれず、スターリと仮面、飛びかかった戦闘員までも、その衝撃派で吹き飛ばす。


「これ、ヤバいって」


と半笑いのフォークスは相手の手を消失させたが、腕の一振りで猫のように軽々と浮かび上がった。圧倒的な力にグラコジア、キトロ両軍は呆然とするだけ…


オーダーはこの事態に関わる全てを消滅させるつもりだ。バグを消し、軍隊だけの戦場、元の形に戻す事を目的としている。


争侍だけが、横転した戦車から奪い取った車載機関砲をオーダーに撃ち続けている。逃げる事が出来るのに、それをしない。


自分と少女を庇うためか…無口の運転手、ウィルバーはそう理解する。町で彼と会った時の話を思い出す。


「今から、俺達は世界を救いに行く(後ろに続くフォークスは悲しそうだが)多分な。


戦う者全てに、それぞれの正義がある。だから争いは終わらない。ヒーローだって、それは変わらない。だけど、俺達と違う所は、彼等、彼女達は正義を体現する存在…その者達が殺し合う世界になってみろ?人々は何を信じる?文字通りの最悪…


いいんだよ。アイツ等は俺達みたいな小悪党と戦ってれば!政府が制定した非人間反応なんていい加減だ。事件や正体を公表した奴しか感知しねぇ。戦える奴はいっぱいいる。自分には力があるが、有名どころの活躍に気後れし、存在を隠す者達…


だが、世界が絶対正しいって言う一つの見方しか出来なくなった時、可笑しくねぇか?って声を上げる戦人(ばとら)、BATTLERとして立ち上がる。俺の役割はそいつらを見つけて、共に戦う事だ。そう簡単には滅させねぇし、滅ばねぇぞ!世界はな。そう思わないか?」


あの言葉は自分に向けられていたのかもしれない。今も、空になった機関砲を投げ捨て、オーダーの攻撃を何とか躱した争侍がこちらを少し見て、口を開く。


轟音と銃声で聞こえづらいが、唇の動きはこう言っている。


(まだ、終わりじゃねぇ)


彼は確信している。何かはわからないが、確かにある正義のようなモノを…


「‥‥ここは?」


思考するウィルバーの腕に眠っていたシャイニーが目を覚まし、辺りを見回す。


「ダークライト、それにオーダーも…どうして」


驚愕の声はすぐに止み、全身から淡く温かい光を発し始めた。幼く可憐な顔に強い決意が宿る。


「私が行かなきゃ」


同じ正義達の惨状を見て、それでも戦うのか?どんな敵が相手かもわかった上で、

立ち向かう。これが…


全てを理解した。絶やしてはいけない…争侍の言葉がようやく呑み込めた。


少女をゆっくり地面に降ろす。見上げる顔にぎこちなく頷いてみせる。かつて、誰もが一度はあこがれる姿が…人々を安心させる事の出来る存在がそこにはあった。自分には到底、無理な事…いや


(遅・く・は・な・い・)


異神宗教の下で生まれた体は、幼い頃から“何か”と同化していた。教祖によれば、それは、彼等の崇める神だと言う。自身はそれを現世に出現させる器だと…この力を使い、世を正せと言う考えには賛同できず、教団を離れ、隠れるように生きてきた。


同化するモノを制御できるかわからない。だが、もう違う。


自分はBATTLER、このために生まれてきた。


戦い続ける争侍を捕まえ、持ち上げたオーダーの穏やかな表情に変化が見られる。


それは、ウィルバーの力に対する確かな補償だ。


シャイニーとは違う緑青の光を発した、新しい自分を見る争侍が、傷の走った顔をニヤリと歪ませ、呟いた。


「BADENDには、まだはえぇな?」…(終)

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