「呪い?推殺」

低迷アクション

第1話



 「本人達にはさぁ、悪気はねぇと思うんだわ…ただなぁ…」


“H”が勤める職場は公共性の強い業種だ。今も続く、流行り病の下では、人々の目を気にする必要があり、当然の如く“自粛”を求められるが…


「いつまで経っても、マスク外せないし、飲み会だって、大っぴらはOUT…

来年にはマスク外しオッケーってお上は言うけど、外せる?実際?


当分、この事態は続く事は、誰の目にも明らか…


それもあるからよ。


いくら、立場があっても、人間だからさ。タガが外れてくるんだよ。特に若い奴等程な」


Hの職場にいる若い世代数人が、自粛を無視し、遊び始めた。最初は只の食事会、次は飲み会、キャンプ、バーベキュー、旅行…その行動は日に日にエスカレートしていった。


「勿論、外出制限はないから、悪いって訳でないんだけどよ。皆、隠してるだけで、遊んでると思うし、民間連中だって、そうだろ?


ウチ等だって、表向きは気を付けろって言ってるけど…まぁ、公然の秘密みたいなもんでよ。知ってるけど、言わねぇみたいな…だけど、ジェネレーション・ギャップ?Z世代?只の馬鹿?よくわかんねぇけど…」


職場の若者達は違った。仕事中でも、休憩時間でも、自分達の遊びや旅行の様子を、

場所もわきまえず、大声で話したり、包み隠さず同僚達に報告した。


「中には遊びたいけど、家族、子供とか、高齢の両親と同居等の関係でやむなく自粛してるって人もいると思うんだよ。


そういった奴等の前で、空気読まずに、ホント、楽しそうに話すんだわ。自分達には関係ねぇーって、ドヤ顔キメてよ。


まぁ、悪い事じゃないよな?お上だって、ロックダウンとかしねぇーし、海外行ってもお咎めなし、何もなし…だけど気を付けろって言う、可笑しな世だもんな。感染は増えてるのにさ。


アイツ等もわかってるんだよ。根は真面目だと思う。多分、じゃなきゃ、相当の馬鹿だわな。ホント…


何かわかんないけど、遊びたい。でも咎める気持ち、不安を拭いたい、それを自分達以外に話す事で、行動の正当化?って感じ?気持ちもあったと思うんだけど…」


年末、職場の若者グループは集団感染した。


「ホント、一番、人手がいるって時に〇〇人

(具体的な数は特定防止のため、今回は記載せず)一気に休みだよ?


職場は火がついたように忙しくなった。それなのにあいつ等…


年が明けたら、普通に出てきて“おかげでゆっくり休めました~ことよろです~”


だってよ?


あん時は開いた口が塞がらなかったね。マジで…


抜けた穴埋めるために三が日、全部出た奴だっていたのによ。


ごく当たり前、病気だから、仕方がないって感じ、そーゆうとこだけ、お上の意向を笠に着る?みたいな感じで出勤してやがった。誰かが何か言うと思ったよ。でも、なんもなし…


まぁ、泥被ったり、悪者にはなりたくないよ。俺もそうだし…


だから、アイツ等、ますます、調子にのってさ。


病み上がりから1ヵ月も経たない内に、今度はスキー旅行って、笑顔で宣伝してた。勿論、


皆は…


“へぇ~、楽しそうだね~”


とか、


“また、かかんなよ~?”


って軽口叩いてた。ホント、凄いよ。いや、怖いって言った方がいいかな…」


スキー旅行から若者達は帰ってきた。五体は満足ではなかった。


「バックカントリー(コース外)で遭難…発見された時は、重度の凍傷にかかってた。全員が手とか、足の指、何本か逝ってたよ。後遺症も酷いって…


ウチは技術職だからな。手に職あって、なんぼよ。多分、現場の復職は無理じゃねぇかって、皆言ってる。少なくとも、俺等の職場には帰ってこないらしい」


Hの職場では、人員が減ったと言う事実もあるが、概ね問題なく業務をこなしている。


「まぁ、厄介どころが軒並みいなくなったからな。70代の再任用が言ってたよ。

バブルの頃も、似たような事があったって…


俺達は景気関係ねぇけど、民間と裏で繋がってた奴が、変な事故に遭ったって…


ウチの職場、公共性高いからよ。調和を大事にすんだわ。ホント…


若い奴等の事故に何か可笑しな点?いやぁ、無かったらしいよ。詳しく知らんけど…


ただなぁ、さっきも言ったけど、悪ぶるし、ゆーこと聞かねぇけど、真面目だからさ。


基本的なルールは守るんだわ。酔っぱらって暴れるなんて、なかったし、今どきの子らしく、サワーしか、飲めねぇしな。


だから、余計にタチ悪いってのもあんだけど…


とにかく、変な所はしっかりしてるんだよ。そんな決まりはきっちり守る、小っせぇバカ騒ぎを上手に楽しむ奴等がよ。いや、皮肉ってんじゃなくて、褒めてんだぜ?


吹雪いて、雪崩の心配もある場所にノコノコ柵越えて行くか?って話だよ?今までみたいな、慎重で小ズルいスタイルは何処行ったって話さ?


可笑しいだろ?‥‥可笑しいって言えばさ」


若者達がスキーして、職場を留守にした期間、H達に配られたマスクがあった。


「誰が置いたかはわからねぇ。とにかく、詰め所の1人ひとりの席にキチンと置いてあった。普通の不織布じゃなく、何か違う。新品じゃないのさ。線香みたいな匂いしてたしな。


まぁ、今みたいな世の中になった最初の方は、市民からのマスクの差し入れもあったし…


基本的に全員が毎日つけてた。旅行に行った若い奴等意外…


だから、その日も全員つけた。皆、示し合わせる訳でもなく…当たり前だ。公共的にはつけないといけない。これは決まりだ。


えっ?何だよ?それを何で話したかって?お前が全部話せって言うから…


何か知ってるって?知らないよ。意味なんてない。途中で言った“怖い”の真意?いい加減にしろ。お前にネタを提供してやっただけだ。とにかく言いたいのは…」


Hは少し喋りすぎたと言う顔をしながら、最後を締めくくる。


「ウチの職場はよ…調和を大事にすんだわ」…(終)


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