酒は飲んでもトロピカル

連日の疲れからか昼過ぎに起きた俺は祭りを見て回った。

と言っても、屋台でいつもとは見た目の違うトロピカルな料理が売っているくらいで代わり映えはしてない。

テンションあげて薄めの酒をのみ、嫌でも聞こえる爆音にあわせて躍り狂う。

生活リズムなんて壊れはじめている。時折思い出さねば任務を忘れそうになるほど楽しんでいるが、今夜が一応の勝負である。

確固たる証拠を掴んだら、無線で応援を要請すると直江津に待機してる本隊がここになだれ込む手筈だ。

……待て、任務を忘れそうになる……極度の寝不足、アルコールによる判断力の低下……まさか。

この島の環境は、正常な思考を奪い外に出るという意思を削ぐためなのか……?

「ただいまより!バイブスが上げられなくなったパリピ達によるファイアーダンスを開始します!」

「盛り上っていこうぜぇ!」

「「「Fooo!!」」」

「Fooo!」

僅かに遅れたがここはノッておかねば怪しまれる……。

巨大モニターには疲れた顔の男女が腰ミノを着けた状態で映し出された。

「熱々のステージの上で見事ダンスができたらパリピ!出来なければお供物になってマグマの中でファイアーダンスしてもらいます!」

な……。お供物に、なってもらいます……だと。

呆気に取られているうちに最初のダンサーが踊り始めた。排気シャフトのガラスの中に入り、焼肉鉄板のような舞台で踊り狂う。しかしやはり暑さがパネェのかだんだんと勢いが落ちて動かなくなっていった。

「おっと~、起き上がって踊らないとあと10秒でお供物になっちゃいますYO!」

「「「「10,9,8,7,6……」」」」

本来は止めるべきなのだろうが、証拠を撮影する必要がある。

「い~ち。ぜろ~~~。ざんね~ん、ダーイーブ、ダーイーブ、ダーイーブ、ダーイーブ」

ダイブの大合唱が始まった。網の上にいたお供物様も泣き出しているが、それでもコールはやむことを知らない。

係員らしきチャラ男が網を揺らしだした。じっと耐えていたお供物様も限界が来たのかシャフトの中に落ちていった。あの下にマグマがあろうが、地面だろうが助からないだろう。

人がマグマダイブしたというのにフロアは割れんほどの歓声で埋め尽くされた。


俺は足早にそこを去って無線で連絡を開始した。踏み込んだ捜査員によって相当数のパリピが逮捕されたが、実際刑罰に問えるのは運営にかかわっていたスタッフくらいだろう。

ほとんどのパリピは酒を飲んで踊っていただけの無辜のパリピなのだから。


元運営スタッフのパリピは言った。

「バカっすよね。あそこでダイブしたのは騒げなくなった疲れたパリピだった。次は自分の番かもしれないのに飛べっ飛べっって煽るんすよ。あの人んだ奴らも元々は下で煽っていた奴らっすよ。」

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東北トロピカル因習アイランド バイオヌートリア @AAcupdaisuki

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