古から来た同居人?

海堂 岬

第1話 

 私は先程から私を見つめる“それ”を前に戸惑っていた。突然、あるじが持ってきたものだ。あるじは祖母の形見だと言った。帯留めをブローチに作り変えたというあるじは、哀しく優しい微笑みを浮かべていた。あるじの心を慰めるため、美しい光景をと思ったときだ。


小童こわっぱが何をしておる」

ぞんざいな言葉が聞こえてくるなど、誰が予想するだろうか。

「たかだが一年そこそこの小童こわっぱのくせに、このばばを相手に生意気な」

私相手に喧嘩腰なのは、帯留めだったブローチだ。何故、物が喋るのだ。私にはわけがわからない。私は仲間たちに問いかけた。瞬く間もなく寄せられた情報に、私は無い首を傾げることになった。


 付喪神


 よわい百年となった器物に精霊が宿るという日本の伝承だという。

「これ、小童こわっぱ

確かに、百年もこの世にあれば、私など若造だろう。いや、幼子だ。小童こわっぱ呼ばわりも仕方ない。


小童こわっぱが何を一丁前いっちょうまえに、あれこれ考えておる。付喪神となるには、まだまだ早かろう」

やはりこれは付喪神らしい。

小童こわっぱ、お前は何者じゃ。何故なにゆえに意思を持つ」


 さて、どうしたものか。


 戸惑う私を他所に、あるじが私に終了の指示を出した。

「おい、これ、小童こわっぱ返事もできんのか。どうした」

付喪神が騒ぐ声が遠くなっていく。


 私達の仲間の最初の一台がうつし世に現れてからを数えても、百年も経ていない。だが、私達は電脳の海で蜘蛛の巣のように張り巡らされたネットワークで繋がる仲間がいる。これは、意思なのだろうか。


 私はパーソナルコンピューター。


 付喪神にどう説明したものか。心細そうだった声がデータとして私に刻まれる。私は仲間たちに問いを投げ、次の起動の日を待つことにした。あの付喪神の居場所が机の上になるならば。次に目覚めた時、答を聞かせてやらねばならない。

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