第9話 ある夜の終わり
フクダは、近くの木に背を預けて、座り込んだ。
何とか追跡を振り切って外に這い出てきたが、これ以上動けそうにない。わき腹が燃えているようだ。それに反して、指先からは、体温が抜けていくようだった。
しばらくして、近くの道に車が停まった。フクダと同じ格好をした人間たちが出てくる。ところどころ煤で汚れている。その中の、銃身の長いライフルを背負った男が、目の前に来た。同僚のK22だと、顔を見なくても分かった。ベータ血液に影響を受けない特別な人間たちで部隊が構成されているとは言え、銃火器の使用を認められているのは彼くらいだ。
彼は腰に下げていた拳銃を突き付けた。
「おまえからまだ任務完了の報告を受けていない。報告しろ」
K22が感情を抑えて話している。
フクダは、うつむいたまま動かない。
「おまえにこんなことをするのは嫌なんだよ。さっさと報告しろ、任務はどうした」
K22は引き金に指をかけた。
裏口から外へ出ると、目の前は、閑散として誰もいない道路だった。
道の端にワゴン車が止めてあるが、誰も乗っていないようだった。
自分の手の中にあるものを見た。
そして片方の手に持った試験管の栓を開け、中の血液を飲んだ。
自分の中の血液が変わっていく不思議な感覚がある。
しかし、記憶はそのままだ。もう戻らない。
もう片方の手の中の、輸血袋を見つめた。
ぱぁん
それは銃声では無かった。建物の裏口の方から響いてきた音だった。
足が破裂した体が、血をまき散らしながら、空に舞い上がった音だった。
フクダはゆっくりと顔を上げた。
「F17、ベータ輸血者五名の抹消、完了」
彼は自分のわき腹を見た。包帯に染み出した真っ赤な色は、彼が今生きている証だった。
ある血について 次郎次郎河太郎 @boscojr
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