第44話 ちいさな娘

 俺たちは泥人形を作るために家の近くの川へやって来た。

 「さて」

 茂平が持ってきた道具を置くように言ったので、俺は毎晩腰掛けていた石の上に医者からもらった壺と清めた水を置いた。

 「まずは少し練習しましょうか。私がお手本を見せるのでよく見ていてくださいね。泥人形を作る時には清めた水と骨、そして泥を混ぜます。それを骨になった生物が生前にとっていた姿の形にします」

 「でも茂さん、あの骨、何の骨かわからないよ?」

 「そうですね…。でも動物であれば基本手足が四本に頭が一つなので今回は――こんな感じにしましょうか」

 そう言うと茂平は足元の泥を捏ねて人が寝転んだ時のような大の字を作った。

 「きっとあの人のことなので上手く泥人形が完成するように何らかの術を仕込んであるはずです。さ、御言くんも作ってみてください」

 泥団子を作る時と同じように足元の泥をむんずと掴んでこねくり回し、お手本と同じように形を作る。そうして出来上がった大の字の泥を見て茂平が感心したように頷いた。

 「御言くん、上手ですね。私が初めて作った時の何倍も上手ですよ。これならもう泥人形を作っても大丈夫そうですね」

 毎晩泥団子を作っていたことがこんなところで役立つとは…よかった!

 そう思いながら石の上に置いていた壺と清めた水を取る。壺の蓋を開いてみると白い骨が日の光に照らされて、きらきらと輝いた。まるで早く外に出たいと訴えているようである。

 「それでは早速作りましょう」

 俺は茂平に教えてもらいながら泥に白い骨と清めた水を混ぜ、練習の時と同じようにそれで大の字を作った。今回作ったものは練習の時のものよりも二回りほど大きい。

 「では器の方はこれで完成ですので次はこれに中身を入れましょう。御言くん、ここに来るまでに私が教えた歌は覚えていますか?」

 「はい!」

 「ふふ、良いお返事です。それでは、その歌を歌ってから自分の血を一滴、この泥の上に落としてください」

 茂平に言われた通りに歌を歌って、そして指を噛んで一滴、泥の上に血を垂らすと


 ぐ


 大の字の泥が少しだけ動いた。

 「上手くできたみたいですね」と茂平が呟く。

 

 ぐ   ぐぐ     ぐぐぐぐぐぐ


 大の字の泥は周囲の泥を吸い上げるようにしながら大きくなっていく。そして小さな人のような形になると


 ぽろ   ぽろぽろ


 表面の土が急激に乾いて剥がれ落ちはじめた。

 そうして剥がれた泥の中から現れた泥人形を見て俺は驚いた。

 肩の上で切り揃えられた茶色味がかった癖のある髪、真冬のように冷え切った真っ黒な瞳。温度を感じさせない青白い肌。

 出来上がった泥人形は人間の女の子の形をしていた。

 「茂さん、この泥人形…」

 この姿になったということはあの骨の主は元々幼い少女だったということだ。出生の分からない少女の姿の泥人形を村の人に見られてしまうと厄介だ。隠すことも難しいうえにどこの子かと訊かれて変に言い訳をしても村の人に怪しまれてしまう。

 「困りましたね…。見た感じだと四、五歳くらいでしょうか?」

 「どうする?茂さん」

 「うーん…」 

 茂平はしばらく空を見上げて考えるような素振りをした後

 「とりあえずここに居続けるのもですし、一旦帰りましょうか」

 と家の方を指差した。

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