第2話 冬の葉桜
「――――るぞ!」
「――だ!山の神様のおかげだ!」
目を開けると大人たちの姿が見えた。
「 !」
母上が泣きながら俺の体をぎゅっと抱きしめる。
「よかった。よかった!もうだめかと…!」
まだはっきりとしていない意識の中、俺は自分の両手を見てみる。翼ではなく、普通の人間の手だ。
あんなに吹雪いていた空は、いつの間にか穏やかな青色に包まれている。
そうだ
「母上。僕、山の神様に会ったよ」
俺の言葉にその場にいた大人たちがざわざわと騒ぎ始める。
「山の神様に⁉なんてことだ!ありがたや、ありがたや」
「山の神様が⁉迎えに来てくださったわけではなかったのか。お前は選ばれた子なのだな」
「それで、 。山の神様は何か仰っていたか?」
騒いでいた大人たちが静まり返り、俺の言葉をじっと待っている。
俺は夢の中で見たものや自分が小さな鳥の姿になっていたこと、山の神様がとても美しかったことを一生懸命話した。
そして山の神様と話したことを思い出せる限り詳細に説明した。
俺の話に真剣に耳を傾けていた大人たちは感動のあまり涙を流したり、山の方に向かって手を合わせたりしている。
「そうかい 。お前は山の神様の子になったのだね。母上はとても嬉しいわ」
そう言うと母上は俺の頭を撫でた。
「 …じゃなかったな。御言、いや、御言様。山の祠の所へ神様にご挨拶しに行きましょう」
俺は頷いて大人たちに促されるまま外へ出た。
目の前に広がる白銀の雪が柔らかな日の光に照らされてとても眩しい。
「御言。寒いだろうからこれを着ていきなさい」
そう言うと母上は俺の白い着物の上に綿入れ半纏を着せた。
俺は何人かの男たちと一緒に山の上にある祠まで歩いていく。
畑や田んぼにも雪が積もっていて、空が一段と青く見える。吐く息も真っ白だ。
「御言様。山の神様の所に行く前に、そこの管理をしているふもとの神社に行きましょう。あそこの神主さんはここに来る前は高名な術者だったそうですから、きっと何か教えてくださるはずですよ」
俺は男の言葉に小さく頷いた。
「茂平様」
神社の境内の雪かきをしている袴姿の人影に向かって男が話しかける。
「おや。皆さんおはようございます。今日は雪がすごいですね」
茂平と呼ばれた男が額の汗を拭いながらにこりと笑った。
何だか胡散臭い男だ、と俺は赤い瞳で茂平のことを見つめる。
視線に気が付いたのか、茂平は不思議そうな顔をして少しだけ首を傾げた。
「茂平様。実はお話したいことがありまして―――」
男たちと茂平が話している間、退屈だった俺は雪の積もったままの境内を探検することにした。
ここら辺の地域にはあまり雪が降らないのだが、昨晩はかなり降っていたのだろう。たくさん雪が残っている。
茂平によって隅の方に集められた雪にチョンと触れてみる。
ふわふわしていてとても冷たい。
俺は小さな手で雪をむんずと掴むと、それをぎゅっ ぎゅっ と握って丸くした。
そして足元の小さな砂利を二粒取って、手に持った雪にギュッとはめ込む。
そうだ。耳をつけよう!
「葉っぱ…」
辺りを見回してみるが落ち葉はない。
落ちていたとしても雪に埋もれてしまっているだろう。
俺は小さな雪玉を手に持ったまま歩き出した。
手がかじかんで赤くなっているが、俺は構わず雪の中を歩いて回る。
「葉っぱ、ないなぁ」
そう呟いた時、
ひらり
山の上の方から飛んできた何かが足元に落ちてきた。
「あっ!」
俺はそれを見てパッと顔を輝かせた。
「葉っぱだぁ!」
どこからか落ちてきた綺麗な緑色の二枚の葉を手に取り雪玉に刺す。
黒い目の雪ウサギの完成だ。
俺はそれを壊れないよう大切に持って、茂平と話をしているであろう一緒に来た男たちの元へ走って戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます