さてさて、今さら内容には触れません。
言いようのない不安、鬱屈した陰影のなかに見え隠れする僅かな喜びが、写実的に表現された代表作です。
時代の空気感までも伝わる名著ですが、文豪と認知されているからこそバイアスがかかり成立する内容かとも思いますので、多くの方に読まれるにはキャッチ―なアイキャッチが必須です。
拝啓――梶井(カジイ)基次郎先生
世知辛い令和の老若男女に30文字以内でPR(アイキャッチ)するなら、こんな感じでしょうか。
「へただな、カジイ君、へたっぴさ。欲望の解放がへた。カジイ君が本当にやりたいのは……こっち。檸檬スカッシュ。これをアイスで冷やして、くうう~って飲みたいんだろ?」
十代のある時期。梶井基次郎の文庫本を毎日毎日読んでいたものでした。
何十回、いや、何百回と繰りかえし繰りかえし読みかえしたものでした。
どれだけ影響をうけているのか、自分では計れませんが、その気息を呑み込み、取り込もうと意識的に読んでいたものでした。
数年ぶりに読み。
檸檬は、日記や、詩、習作でそのモチーフは繰りかえし書かれているんですね。
数年ぶりに読み、その理由をぼんやり考えてみて、これといって解答はおもいつきませんが。
ただ、おもうのは、梶井基次郎のある時期のおもい、状態、もろもろを凝縮して、形づくりたかったのだろうなと。
本作に惹かれるものを感じられた方は、他の作品を読まれてはいかがでしょうか。
日本語の美の、ひとつの優れた型のひとつが、ここにはあります。